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私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです  作者: 奏多


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11/15

11 帝宮のサロンへ 2

 会場の広間には、沢山の白いクロスをかけた丸テーブルが用意されていた。

 席は指定されているようで、案内のメイドについて行く。

 華やかに着飾った人々に目を奪われつつ、私は絶対にノエリアから離れないようにと気を付けて、彼女の後に続いて進む。


(これが、貴族のサロン……)


 初めてっていうか、そんな場に来たのも初めてだ。

 前世の勤め先は中小企業で、入社式なんてものはなかったし。

 お祝いの飲み会は居酒屋。

 もう感覚が全然違う。


 貴族令嬢のお茶会とも規模が違った。

 あっちはせいぜい十人ぐらいが招待されて、一つか三つぐらいのテーブルをそれぞれ囲んで、お茶を飲みながらおしゃべりをして解散、という感じだったし。


(でも気を遣うのは変わらないかな。気を抜くなんて無理だし)


 会場の床の大理石の美しさや壁の装飾石膏のすごさとか、優美な食器ばかりのテーブル。そしてみんなが豪華なドレスを着ていること。

 なにもかもに、私は圧倒されていた。


 やがて席に座ったところで、まずお茶が運ばれてくる。


「レノー産の茶葉を使用しております。ミルクやお砂糖はどうされますか?」


 丁寧に聞くメイドに、私もノエリアも遠慮なく好みを伝えた。

 二人とも、お菓子が来るのもあって砂糖はなし、ミルクを頼むことにする。

 召使いが下がると、ノエリアは小声でささやいてきた。


「さ、まだ全員集まっていないうちに、近くにいる方の顔を覚えてね」


「わ、はい」


 慌てつつ、私はノエリアが教えてくれる人を、お茶を飲むふりをしながらそっと見る。


 あれが皇太后の友人オルバーン侯爵夫人。

 その向こうにいるのが、カマラーシュ伯爵で甘いもの好きのおじさん。

 左手のテーブルにいるのがクーヘン男爵で、レゼクにも皇妃にも献上品を送って双方にいい顔をしている人で、かなりの資産家……。


(まだ、目が慣れてないせいか人の見分けが大変……。服装で覚えたって、貴族は下手をすると外出着は二度と着ないこともあるし)


 特に上流貴族は、見栄のためにも同じドレスを着ないようにする人がいるのだとか。

 目印になりそうな、赤いリボンの人とか、髪の毛の量で覚えられそうな人がとても良い人に見えてくる。


「……そして向こうにいるのが、ウルスラ妃の弟、カール・デアーク小伯爵ね」


 広間の少し奥の方に、私よりも少し年下の黒髪の少年がいた。

 闇に溶けるような黒髪は、ウルスラ妃と同じ。

 サラサラとしていそうな切りっぱなしのボブの髪型は、顔立ちが幼いせいもあって、ぱっと見だと女の子かなと勘違いしそうだ。


 カールは自分と同じ年ごろの少年少女と同席している。

 もう一人いる三十代過ぎの男性は、どちらかの父親だろうか。


「まだ14歳だったかしら。ウルスラ妃の弟だからと頻繁に帝宮に出入りしているの。私達は、ウルスラ妃と生家との連絡役をしているんだろうと思って見ている。あと……」


 ただでさえ小声だったのに、ノエリアはさらに声をひそめた。


「あの子は、ものすごく人を懐柔するのが上手いらしいの。ウルスラ妃にあまり良い印象を持たない貴族でも、一瞬で意見を変えてしまったことがあるのよ」


「口が上手いんでしょうか?」


「そうね、話を少しするだけでも、賢い子なのはわかるわ。でもこう、なぜなのか好意的になるらしいのよね、話していると」


 そういう人っているんだな、と私は驚く。

 でも最初から沢山の人に好意的に接してもらえる人、というのは存在する。

 前世の自分が、初対面のほんとうに顔を合わせて一秒で、無意識に距離をおかれやすい人間だったせいもあって、それがわかる。

 ああいうのって、なんなんだろうな。


(転生してからは、ああいった微妙な表情の変化に遭遇しなくなったから、顔立ちの問題とか雰囲気なのかな?)


 思わず自分の頬をつねってみたりする。

 そこへ、通りすがりに声をかける人がいた。


「お久しぶりですね、ノエリア様」


 明るい陽射しが差し込んだような気がする、爽やかな声。

 だけど本人は、幻想的な雰囲気の青年だった。金の柔らかな髪に白皙の頬。瞳の色は緑で、微笑むと長いまつげが影を落としている。

 どこかノエリアに印象が近いような人だった。


「今日はこのサロンのことを教えてくれてありがとう、ユーリウス様」


「様子を見ておきたいだろうからね、知らせて良かったみたいだ」


 現れたユーリウスという人と挨拶したノエリアが、私に教えてくれる。


「こちらヴィラルト公爵家のご子息よ。私にとっては母同士が姉妹の、従兄なの」

 

「はじめましてお嬢さん。皇太后様もそうだけど、皇子殿下が気に入って取り立てたという話を聞きましたよ」


 おっと、傍から見るとそんな感じ?

 気に入ったとだけ言うと、私に侍女の素質があったかのような話になるけど、外見も性格も頭の良さも関係なく、一部能力だけで取り立てられたとわかってる分、なんだか申し訳ないような気分になる。


「よろしくお願いいたします、公子様」


 一般的な礼儀作法として教えられた答え方をしておく。

 ノエリアの従兄でこれだけきさくに話すのだから、きっと皇太后や皇子側の人なんだろう。


「こちらこそ。では、また後で」


 ユーリアスは返事をした後、席が違うようで移動していく。

 後ろ姿も、その歩き方も爽やかさをふりまくようで、あんな人間本当にいるんだ……と思ってしまう。


「あの方も、皇子殿下側の方なんですか?」


 一応、ノエリアに確認を取る。


「ええ。彼は皇太后陛下に近い方なのよ。元々皇太后陛下はヴィラルド公爵家のご出身だから」

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