最強の武器、それは——傘
傘を片手に住宅路を歩く、一人の女子大生。名を本條 貴子という。
丈の短いブルゾンのジャケットに、ニットのワンピース。
足元はハイカットブーツ。
どこにでもいる、女子大生だ。
彼女は柔らかそうな長い髪を揺らしながら、てくてくと帰路についていた。
ふと、分かれ道で彼女の足が止まった。
(今日は、違う道で帰ってみよう)
——これが、間違いだった。
いつもと違う道を進んでいく貴子。
曲がり角を曲がって、見上げると、なぜか住宅路の上に……鳥居?
(まあ、いいか)
気にせず潜った。次の瞬間——
目の前に、森が広がっていた。
(どこ、ここ)
彼女は首を傾げつつも、ずんずんと森を進んでいく。
止まる気配はない。
鬱蒼とした森の中を、ずんずん、ずん……ずん?
道がなくなり、とうとう草を掻き分け始めた貴子。
突如——
ガルルルルッ…
見たこともない獣が現れた。
その見た目は狼にも見えるが、
(ニホンオオカミって、もういないんじゃなかったっけ?)
しかも、ツノがある。
彼女は暢気にも、そんなことを考えていた。
獣が、ジリジリとにじり寄る。
彼女はその様子をじーっと見つめていた。
(……うん)
手に持っている傘の柄を強く握った。次の瞬間——
「ガウッ!!」
獣が地を蹴り、飛び掛かる。
刹那——
——ザシュッ!!
彼女は傘を、振りかぶった。
「きゃうん!!」
悲鳴を上げた獣から血飛沫が舞い上がる。
よろよろとふらつく獣はやがて、
ドサッ。
地面に倒れ、ぴくりとも動かなくなった。
貴子は息のなくなった獣に、ふんっと鼻を鳴らした。
なぜ彼女が、獣を倒す判断を即座に下せたのか。
それは、前々から考えていたからだ。
——襲われたら、傘で撃退する。と。
何にとは言わないが。
「……」
彼女は自身の持つ傘をじっーっと見つめて、ぽつり。
(傘って斬れるんだ)
そんなことはない。
普通の傘は斬れない。
「何とかなりそう」
なぜそんな言葉が出てくるのか。
貴子は再び歩き出す。
行く手を塞ぐ草木を、バッサバッサと斬りながら……傘で。
おわり?
〈あてんしょん〉
この物語はフィクションです。
普通の傘は生き物を斬れませんし、振り回してはいけません。
また、野生動物に遭遇しても、
絶対に傘で攻撃しないでください。
傘は、正しい用途でつかいましょう。




