表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
唯一奇譚  作者: little_m
6/7

放課後の教室

他の講義を受けているあいだも、唯の頭の中は今朝の出来事でいっぱいだった。今日の時間割をこなし、大教室へ急いで戻った。


放課後の教室は、光の色がゆっくりと沈んでいく。カーテンの隙間から差す夕陽が、机の上を斜めに撫でている。埃が浮かび、赤い光の粒が静かに舞っていた。


あの子はまだ座っていた。

ノートも閉じないまま、俯いている。


横に立つ友達らしき女の子がその背中に手を置き、話しかけている。

「ねぇ、大丈夫? 顔色悪いよ」


柔らかい声。

けれど、その響きはどこか湿っていた。

言葉の端が甘ったるく粘り、まるで耳の奥に貼りつくようだ。

空気までもがどろりと重くなって、教室が小さな水槽みたいに感じられる。


「今日もまだしんどい?最近ずっと元気ないじゃん」

「……うん」

「来週、飲み会あるじゃん。気晴らしに行こうよ」

「……うん、考えとく」


俯く女の子の指が震えた。

床に落ちた影が、ゆっくりと形を変える。


「ねえ、彼、元気? 最近インスタ更新してないよね」


その瞬間、影が一層濃くなった。

笑顔の下で、足もとの影から黒い霧のようなものがぶわっと流れ出し、2人を包み込む。


「ねぇ、このあいだみたいに、朝まで話そうよ。

 ね? 悩みがあるなら聞かせて?」


唯は息を呑んだ。

背中をさすりながら笑顔でうきうきと話す女の子と対照に、座っている子の顔はみるみる青白くなっていく。影が肥えていく。


(……これ以上は、あかん)


唯は思わず立ち上がり、まっすぐ2人のもとへ駆け寄った。

「――お待たせ! 行こ!」


突然の声に、2人が同時に振り向く。

唯は"友達"に軽く笑いかけながら、座っている女の子の腕を取った。

「急いでるんよ、話の途中でごめんな」


ぽかんとしたまま立ち尽くす"友達"を置いて、

唯は女の子を廊下へ連れ出した。


ドアが閉まる瞬間、繋がっていた2人の影がぷつりと途切れた。

空気が、少しだけ軽くなる。


建物を出たところで、女の子が立ち止まる。

「……あの。あなた、誰…?一体なに…?」


唯は困ったように笑った。

「ごめんな。見てられんかって」


女の子の瞳が揺れる。

唯は少し間をおいて、静かに言う。

「足、重いんちゃう……?」


その子の唇が震え、ぽろりと涙が落ちた。


「……病院行っても何もないって言われて……

 誰に言っても、信じてもらえなくて......」


唯はそっと手を伸ばして女の子の肩に手を置いた。

その瞬間お守りの甘い香りが漂う。

影が少し退いたのを見て、唯は覚悟を決めて話し出した。


「もしかしたら力になってあげられるかもしれん。

 一緒に来てくれる?」


戸惑う女の子に唯は微笑んだ。

「こわないよ。キツネがおるだけや」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ