動き出した日常
次の朝、登校すると何か視線が痛い。嫌だと思っても、ここまで来てどうすることも出来ない。密かに気合いを入れて、歩き出した瞬間だった。
「百合ちゃん。おはよっ」と、軽いノリで、私を抱き寄せながら言う。『この男子生徒は、学校一喧嘩が強いと言われている 志岐はやと 見た目は、端正な顔立ちで、ひどい傷をつくってるのは見たこと無い。頭も、悪くない。どちらかというと、確実に良い方だろう。何故か、私を気に入ったと言い、いつも、朝このような挨拶をしてくる。』
「志岐くん、おはよう。…離してくんない…歩けないんだけど」
そっけなく言いながら、手で押し退ける。そうすると、すぐ体を退き、何かあった?と聞かれた。勘の鋭い彼は、私に対する視線を心配してくれているらしい。その質問に、どう答えようか、迷った。まだ、何か起こるわけでは、無いかもしれない。根拠の無い、望みを胸に取り敢えず答えておく。
「私は、何かしたわけでは無いつもりなんだけどね」というと、その時、私の小さな、声を聞いたらしい女子が、睨み付けてきた。すると…、前から、「白井百合さん、一緒に来てくださる?少し話がありますの。」
数人の女子が私の前にはだかっていた。
(あぁ、やっぱりねぇ)諦めてついていこうとすると、志岐が「百合ちゃんとの時間奪う気?」と不機嫌そうに言うと、女子はややたじろいだ。唯一恐れなかった女子は、「では、改めます。ただ、白井さん?私達のお話は、聞いてもらいますからね」と言うと、他の女子を率いて去って行った。志岐にありがとうと言い、下駄箱に行く。念のため、注意しながら開ける。昔、ちょっとした悪戯がされていて、顔に怪我をしたことがあった。怪我はしたくない。慎重に開けたのがバカらしくなるほど、何も変わりはなかった。上履きにも硝子などは入ってないようだ。今脱いだ靴を、袋に入れ歩き出す。今回何もなくても、次は、わからない。慎重に行くことが、自分を守る術なのだ。志岐がこちらに向かってくる。教室の方向は、違うのに送ってくれるらしい。
「白井さん、おはよう」歩いていくと、優しい声で挨拶をされた。「おはようございます。会長。」軽く、会釈をしながら挨拶をする。
『生徒会長 冷泉院隼人 二年なのに、会長で学校をまとめている。眉目秀麗という言葉があてはまるが 実は、嫌いな人間には、とても冷酷で私も引いてしまうほどだ』
「白井さん、大変そうだね。駒井をつけるよ。」と言うと、後ろから、おはようございますと言い、私の荷物を代わりに持った。駒井、白井さんを守るんだよ、じゃあねと言って、会長は、去って行った。
(おぉ〜ぃ。こんなことされたら、余計大変なんだけど〜)心の中の叫びは、聞こえるはずもなく、駒井さんが、「さぁ、白井様、参りましょう」と促した。
志岐は、私に下らないことを話しかけながら、教室へ向かって行く。
駒井さんは、私が荷物を持ちますと言っても、頑として譲らず、私の、一歩後ろを歩いている。
『駒井沙耶香 会長の秘書らしい…いつも、側に居て指示通りに動く。私と、同じクラスだが、なぜか、私を白井様と呼ぶ』そうしていると、教室についた。じゃあと志岐が去って行く。私も、じゃと返事をして席につく。クラスで何も無くても、呼び出しには、行かなければならない。ふうっと、ため息をして、鞄の中から、必要なものを取り出した。
そうしていると、HRも、始まり、いつもと同じような、時間が過ぎていく。昼休み、駒井さんが近づいてきて、お昼はどうするのか聞いてきた。いつもなら、静かなお気に入りの場所で弁当を食べるが今日は、無理だろう。
「呼ばれてるから、行って話してくる。そのあと、パンでも食べるよ」そう言うと、驚愕し「なりません。どうしてもと、仰るなら駒井も、共に着いていきます。」予想は、していたことだ。じゃぁ着いてきてと、教室を出て、呼び出した人達が居る南棟に向かった。カツカツと、靴の音が鳴り色んな人がこちらを見る。本来、一年が居る筈の無い場所だ。私は、目的の教室に行きザッと見回した。
「白井さん。わざわざ来てくださったのね。」柔らかな言葉とは、裏腹に笑っていない目が私を見た。
「笹原先輩の呼び出しですから…どこでお話ししますか?」私は、少し無鉄砲だと思いながらも、どうせなら早く済ませたいと話をしに来たのだ。「お昼はまだでしょう?お弁当をお持ちでなかったら、カフェに行きましょう」私は、承諾した。
ここからやっと、少し盛り上がってきます。
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