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未定世界の知り方を  作者: むち神
第四章 【死角の動き】
72/110

69.どれどれ

 旅館は木造建築なのは変わらなかった。ただ...広い。とても広く大きい。建物の形状はユウジさんの屋敷に似ているが印象は全く違う。全体が木造だからなのかわからないが、自然を感じる建物であった。その原因は建物ではなく、この庭のせいかも知れない。


 なぜなら、庭の広さと美しさは今まで見てきたどこよりも壮麗であるからだ。


 立派な木が等間隔で立ち並び、根元には低木が真っすぐと整然と並んでいる。手入れがされていることは誰でも見て取れることだろう。小岩で囲った池に魚が優雅に泳いでいる居心地が良さそうだ。足元には、一面の緑が柔らかく広がっていた。風にそよぐ草葉が、まるで大地そのものが呼吸しているかのように揺れている。

 ついつい特徴的な木や池に視線が向けられるが、一枚の絵として見れば、この美しさを一番醸し出しているのは一面の緑だと言えるだろう。


「わぁ~綺麗」


「こんなにも華やかな庭園が宿だなんてね。本当はお城の庭って言われても信じるよ」


 マロさんもネルもそう思うのだから相当だということがわかる。


「二人から見てもそんなに綺麗なんだ?」


「うん~こんなに整えられているのは、裕福だからとかじゃなく日々の努力。庭師の実力が明らかだよ」


「そうだね。ここまで丁寧に作られてるなんてね。それを維持しているだけでも、旅館のサービス精神旺盛さがわかるよね」


 まだ、旅館に入ってもいないのに既に旅館への好感度はマックスへと上がっている。期待値も同時に天井まで振り切ってしまっているのは良いことか悪いことなのかは、まだわからないが。


「いつまでも視線が食いついてしまうけど、そろそろ行こうか」


 しばらく見つめていた。たしかに、そろそろ入る方が良いだろう。


「うん。そうだね」


 入り口らしき扉。押し引きではなく、横に引くことで開く引き戸を開けて中に入る。


「ハッ!らっしゃい!三名かい!」


 清らかで趣深い気持ちが心を満たしていた所に、旅館の人の溌剌(はつらつ)な声が染みる。


 見た目は・・・半袖の作務衣に腰に前掛けが付いている、半袖で動きやすそうな服装をした。老婆というには、活発過ぎる動きの人物。かといって、若いとはお世辞にも言えないだろう年季を感じさせる顔立ち。

 あまりの環境とのギャップに一瞬固まってしまう僕達は、滑稽に映っただろう。


「なんだい?三人寄り集まって突っ立って、じろじろと人様を見てからにそんなに珍しいって!?」


 怒らせてしまっただろうか・・・。言葉を選ばずに言えば、旅館の雰囲気とは逆の人物が出てきたことに驚いてしまった。勝手にこちらが妄想してしまった人物ではなかったというだけなのだ。


「ご、ごめんなさい...。外の静けさとの違いに驚いてしまって・・・」


「フン!儚げな美人でも想像してたってことかい。美人なことに違いないがね!元気が取り柄だよあたしゃ」


 いやぁ・・・。冗談っぽく言っている。でも、たしかに綺麗な人なのだ・・・。美人だっただろうし今も誰が見ても美人と言うだろう。でも、時間の流れには逆らえずに年を重ねているのが現れている。

 良い年の取り方とは、この人のことなのかもしれない。


「ん?だんまりかい?今のは冗談だよ。冗談。たく、三人もいて掛け合いもできないとはね!」


「すみません・・・。冗談とは判断できなくて...綺麗だったので・・・」


「んん?そ、そうかい。悪くない子だ」


 うんうん。となにやら納得があったようだ。


「とにかく、『花籠』によく来たね。あたしゃ、ここの支配人でユズキさね」


「ネルです、三人泊まれますか」


 いつの間にやらネルーロと名乗ることも少なくなってきたね。本人はネルーロって名前は呼びにくくて不便だよねと言っていたこともあったから、楽な方にと自然と流れて行っただけかもしれない。


「当り前さね。なんのためにここで出迎えたと思ってるんだい」


「それもそうですね。三部屋取れますか?」


「一部屋なら空いてるよ」


 え?空いてないではないか・・・。


「安心しな。一部屋って言っても大部屋だからね。三人なんて気にならないくらい広々としてる」


 そういう問題なのだろうか。部屋は分けた方が良いんじゃないのか。特に性別を別にして分けるのが常識だろう。なんでなのかは知らないけどね。


「なら・・・なんとか二部屋になりませんか?」


「んん?お前さん男だろ?なら、甲斐性ってのを見せな。どんな関係だろうと、甲斐性がありゃどっちでもいいんだよ。それと、一部屋が二部屋に増えたりはしないよ」


 それはそうである。僕としては気にしないのだ。ただ、常識を間違えると良くないと言う話をしたばかり。言われたとおりにしてもいいのか、視線で窺ってみる。


「ま、仕方ないかな。それに、僕は気にしない質だからね」


「私も~」


 どうやら皆、なんとなく避けているだけのようだった。理由がわからず空気を読んでいたのは、僕だけではないようで安心した。


「なら、案内するよ!ついてきな」


 広々とした赤い布を敷いた廊下を四人で歩く。

 内装も綺麗に整っていて、所々に花瓶が置かれており。木造とも相まって、室内でも自然を感じることができて素晴らしい。


――良い宿だ。


 支配人さんと旅館両方の居心地に満足しながら機嫌よく案内されていった。


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