5.これであってるよね
ネルと一緒に屋台で買い食いをしながら街を歩いている。竜牛の肉を串に刺した食べ物らしい。柔らかく食べやすい味付けも濃くておいしい。食べ物をあまり食べてこなかった僕としては刺激的な食べ物だと言わざるをえない。
正面に野菜を売っている店が見えてきた。その前にオウキ。同じクラスの短い挨拶をしていた人が買い物をしているようだった。
「同じクラスの人だよね?」
「そうだね、オウキ君だったかな」
「話しかけてみる?」
「う~ん、いいよ」
ネルは少し悩む素振りを見せたがいいらしい。何かダメな理由があるのだろうか、同じ教室なのだから、話しかけれるなら話しておいて損はなさそうなものなのに。
「オウキさんだよね。ユイトです。よろしくお願いします」
「ネルーロだよ」
オウキがユイト達に振り返り、怪訝な顔で返事をしてくれる。
「オウキだ。なにか用か?」
用事は特にないんだけど、なにを話そうかなぁ。
ネルーロがユイトの肩をチョンチョンと二回叩きながら小声で語り掛ける。
「迷惑そうかもよ。話すことがないなら短めがいいんじゃない?」
そうだったんだ。話しかける前に言ってくれてもよかったのに。いや、僕が話すことが決まっていると思ってたのを二度目の自己紹介から初めて考える素振りを見せたから気を使ってくれたってことかな?
なら、短めの話題・・・短めの・・・
「いや、迷惑とは思っていない、苦手なだけだ」
「苦手?ユイトがってことかな?」
僕が苦手ってことなの?でも、話したことないはずなんだけど、他の人と話した会話から苦手って判断でもされたのだろうか。
「いや、話すのがって意味だ」
違ったみたい。
さてなにを話そうかな。再度、考え始めると隣のネルが口を開く。
「なにを買っていたの?」
「野菜だが、本当になに話に来たんだ」
「だよね」
やっぱり正直に話をした方が良さそうに思う。ネルの時もそうやってこうして一緒に今いるわけだしね。問題があったらなにか言ってくれるでしょ。
「オウキさんと仲良くしておきたいなと思って、話しかけたんだ。気になることはたくさんあるけど、とりあえず、オウキさんはどんな人なの?」
「どんな・・・と言われてもな」
そうだよね。と言いながら、ネルがハハハッと笑う。
「特異体質なのかな、だったらどんななの?」
何かを考えているのだろう。何も言わずに待っていると
「体液・・・血とかが他の人には毒って感じだ」
「へえ!すごいね」
使い道まではなにも考えずにただただ珍しいものを見た子供のような受け答えをするユイト。それを見かねたのかネルが割り込む。
「いやいや、想像してたよりも恐ろしい体質だよ。それ、自分には本当になにも問題ないの?」
「さあな、そのための学園じゃないのか」
「そうだけど、今まで問題は起きなかったの?」
と聞いた直後に、野菜を売っている店の人が籠の中に色々な食材を入れて持ってくる。
「まいど、ありがとね」
店の人から籠を受け取ったオウキがこちらを見て
「強い毒ってわけでもないからな。じゃあ、またな」
そういって、今度こそ振り返ることなくおそらく帰り道だろうと思われる方向に歩いていく。
「怒らせたかな?」
初めて心配そうな顔を見せるネル。
「大丈夫じゃないかな、怒ってなかったと思うよ」
「それは、わかるんだ・・・。」
「話すようなことでもないって感じなんじゃないかな。それか、言っていた通り話すのが苦手で疲れたのかもね」
「ふーん」
唸り声のような返事をしながら
「じゃあ、今日はこのへんでいいかな。ユイトまたねー」
ネルのいつも通りの声色にユイトも普通に返事をする。
「さようならー」
特別な日でもなく、たった少しの思考、少しの変化、少しの新しいこと。
それらを、経験しながら帰り道に歩いていく。ユイト。
今日から寮生活であり、帰り道はネルと同じで、学園ではクロイトもいつ来るのだろうかと待っているのだが。そんなことは露知らず。いつもの家に帰っていく。
――初めての学園だったけどこんな感じであってるよね?