56.それが、どれだけ
「ルキ様は・・・自らの意志で戦場に戻られた...。我々がどんなに止めても・・・最後の希望だと」
「紛れもなく君主の風格を備えたお方だった...」
丁寧に布を被せて街から持ってきたのか運びやすい台に載せる。
「あなたも・・・我々と一緒に・・・」
「あの・・・鎧の騎士はどこにいった・・・?」
先ほどまでいたはずの場所にはもう誰もいなかった。
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全速力?それすら超えた速度が出ているだろう。気配察知の線をさらに引き延ばし全方位を探査した。異常な人数が北と思われる方向に多数存在している。根絶やしにしなければならない。
遠目に見ても戦闘を続けている様子が見える。エレディアナが撤退している軍に対して追撃戦を繰り広げている。ユイトもそれに参加する。足を引っ張ることはないだろう。自分の魂の奥底から来る全てをぶつける。全身全霊の一撃。
なにも考えてはいない。時間の流れを反射で感じ取り最適だと思う動作を取る。魔法をぶつけても被害は少ないだろうと、魔法を飛ばさずに操る芸当ができるとは思えない。ならば、物理。
剣を大剣に大剣を巨剣にする、人を越えるどころではない、建物を越える大きさまで生成し続ける。
軍勢が一方向の敵に夢中になっていた所に急に影が差し込む。
それによって、ようやくユイトの存在を認識するが、その頃には剣は止められない距離まで接近していた。
アダマンタイトで作っていない。大きくするには重すぎるからだ。だが、ユイトは知っている。頑丈で軽い別の鉱物を、ミスリルの巨剣を横薙ぎに振り回す。一振り目で五百人近い自然種を殲滅せしめた。
ありえない。魔法で作った剣にも刃こぼれはある。いくら頑丈と言えど何百と斬って耐えれる訳もない。加えて、何十と斬った頃には最初の勢いも弱まっていた。無理やりの魔力による修復と腕力で誤魔化す。限界がなければ千人を一撃で殺していたかもしれない。
警戒度が変わる。今までエレディアナ八割、他二割で戦っていた軍隊がユイトに九割向く。
「全力で叩き潰せ!!!」
「一人であの魔力量だと・・・あいつがもしや!!!破滅の騎士!」
その言葉でさらに急激に状況が変化する。
「奴だ!!忌まわしき人間を!!ここで我々が終止符を打つのだ!!!」
全軍がユイトを狙う。エレディアナがほとんど無視される。近い五、六人以外はユイト狙い。前提が崩れる。小さな魔法ではない、同士討ちすら厭わずに中規模の魔法を連発する。
囲まれた人の檻で火球を避けるなどできる訳がない。
だが、ユイトにはどうでもよかった。
火球が飛んでくれば直撃する。岩に押しつぶされようとしても関係がない。滅ぼすことができたと安堵の息を吐くころには、ユイトは火の中から岩の下から拉げた身体と鎧を修復しながら出てくる。まるで、自身の身体も物かのように。
終わらない戦いが始まった。
「なんなのだ!!ここまでの化け物だなんて!!生物では―――」
言い切る前には死んでいる。巨剣に押しつぶされて。
避ける防ぐことなどできない。なぜなら、突如目の前に巨剣が現れるからだ。ユイトは剣を小さく大きくを自在に操り攻撃の一瞬だけ敵の頭上に振り下ろしている。近くにいる者であれば反応できるかもしれないが、ユイトの姿すらあまり見えてない距離の者が多数。近くの一人だけの魔法で防げる程、矮小ではなかった。
それでも、減っている気がしないのだから嫌になる。どんなに殺そうともすぐに似たような存在が死んだ者の後を埋めるのだ。繰り返しているせいで、殺せる人数は次第に減っている。相手もただでやられてはくれない。
元々、エレディアナが追撃戦を仕掛けている時には軍隊の間隔は離れていたが、さらに散開している。
犠牲覚悟の中規模魔法もいつの間にか大規模魔法に近くなっているがそれすら関係がない。
「全てを賭けるのだ!死んででも・・・!」
段々と相手の声も小さくなっている気がする。
――僕はなにをやっているんだろう
目の前が見え始める。己の思考速度が速すぎて考えているのかすらわからなかった、脳が身体と同期し始めた。
――そうだ。ただ・・・胸の奥に空白ができたみたいな・・・内臓が消えたような錯覚が・・・
ユイトは常に動いている。いや、動いているだけだ。
――結局意味がない。なくなったものを取り戻そうと咄嗟に思っただけで・・・
――今からなにをすれば・・・
中身のない漆黒の鎧が剣を振り回す。空から糸で手足を操られた人形のように。
魔力は切れた。あんな無茶苦茶なことしてたら当然だよね。
――みんなに・・・。クロイトさんはどうなったかな・・・
――ルキさんはさすがだったな・・・
――オウキさんは元気だろうか・・・
――マロさんは・・・逃げれたのかな・・・
――スイラスさんなら・・・適切な行動ができただろうか・・・
――ネル・・・ごめん。
正面から来る超大規模魔法。今までのよりも大きな王都すら亡ぼせそうな魔法が迫る。避けるのは不可能。迎え撃つのも不可能。
「諦めるな!!!!!」
膝を着き脱力したユイトが最後に顔を動かす。
エレディアナがこちらに走ってきていた。エレディアナの速さでも間に合わないだろう。
――エレディアナさん、ありがとう。
・・・だが、エレディアナの脚の速さはユイトが知るスピードを越えていた。
ユイトの脇に片腕を通して命を懸けた走りから、流星の如くユイトを投げ飛ばす。
「お返しだ」
それだけ言って、燃え盛る太陽に飲まれて消えていく・・・。ユイトを残して―――




