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未定世界の知り方を  作者: むち神
第二章 【旅は道連れ】
50/110

48.以前推理

 治癒魔法の偉大さは知っている。深い傷も数秒で治せた実体験があるからね。なら、寝たきりといえど治せない道理はないだろう。

 さっそく、アポを取ってくれる運びとなった。師匠はそのために部屋から退出する。ユウジ、ネル、僕、エレディアナの四名になった段階で――ネルが突然、自らの推論を展開する。


「最初から治癒魔法が狙いだったんでしょ?どこから思いついたのかはわからないけど、Dランクの無名。一回依頼がうまくいっただけで信頼なんて高くはならないよね。実力を多少測れるといっても理由としては弱い。護衛が必要な程狙われてるなら、地方に出た所で狙われる。でも、護衛は雇ってなかったよね。つまり、必要ないとわかっていた。それか、狙われてもいいと思っていた。どっちにしても、僕達を雇う必要はなかった」


 ネルは肩をすくめて朗らかに語る。ユウジはそれを黙って聞いている。


「名声を得るってのは、道中の僕達を見て考えたことで最初は違った。それに、住んでいた場所。家まで買ってあの街にいた理由は?医療の優れた街って訳でも大規模な図書館があるってことでもなさそうだ。調べるなら中央の方がよっぽどいい。お金に余裕があって立ち寄った街全てに、家を買ったなんてことはなさそうに見えた。宿に慣れている様子だったからね。ならなぜか、あの街は一番近かったんじゃないかな。人間の国に」


 静寂が部屋を包んでいる。ユウジが黙っている以上、僕も口を開いていない。エレディアナさえも。


「もしかして、初めて会った時に元気がなかったのは、寝不足?毎日人間を探していたからか、もしくは・・・隣国での人攫い・・・」


「それは違う!」


 ここで静寂を破って否定する。なら、否定しなかった部分は・・・


「まあ、治癒魔法狙い。人間を最初からここまで連れてくるのが、目的だったんじゃないかな。獣人の争いもそこまで活発じゃなかったことは、街に入る前か入ってから色んな人に話を聞いて知れたのか。特に、立場のある人に会いに行っていたから知る機会は多そうだよね」


 その場にいた誰もが固唾をのんで、ネルの推理を聞いていた。合っているのか間違っているのか、間違っていて欲しいのか自分の気持ちがわからないが、真実はどうなのか。それだけは知りたい衝動に駆られる。


「・・・全てが嘘と言うわけではない。ただ・・・治癒魔法しか治す方法がないと考えていたのは紛れもない事実だ」


 懺悔するかのように気持ちを吐露する。


「騙すつもりはなかった・・・。平和を望んでいるのも間違いない。俺はただ・・・」


 待って、とネルが言葉の続きを遮った。


「ごめんね?責めている訳じゃ、いや・・・」


 ネルが言葉に詰まってしまう。何を言いたいかはわかった。代わりに僕が――


「治癒魔法が使えると知っていたこととか、何よりも先に治療に向かわなかった理由、正直に話さなかった訳が知りたいんだよね?あと、ちょっとは怒ってるよね」


 柔らかく笑いながら、代弁してみた。

 初対面で完全に信用なんて、できなくて当然だろう。特に、どうしても手伝って欲しい理由が大きければ大きい程、少しでも可能性の高い方法を考えてしまうだろう。


「かもしれないね。僕が言うのもなんだけど、知らずにやらされるのは好きじゃなくてね」


 それは・・・誰だって嫌なんじゃないだろうか。


 僕もネルに習って一言添えておく。


「僕は、言ってくれても手伝ったし、隠してたからって手伝わないなんてことにはしないよ。でも、説明はユウジさんから聞きたかったな」


 頭が自然と少し下がりながら、答える。


「治癒魔法を使えるかもしれないと思ったのは、今まで見てきた人間の中で実力が高そうだったことだが、ほぼ賭けだった。中央に来てくれる者は皆無の状況。とにかく、一人でも中央に来てもらわなければ、そうすれば使えずとも、いずれ覚えてくれるかもと・・・」

「・・・話さなかった理由は、争いを止めることが最優先だと思い込みたかったからかも知れん。治療に真っ先に向かわなかった理由――」


 腕を組んで黙って直立していたエレディアナも会話に加わる。


「自罰だろう。お前にとって、タマネというのは唯一の身内に思っていたのか知らんが、大衆の被害よりも先に救うことを良しとしなかったんじゃないか」


 力なく頭を垂らして、同意する。


「結局・・・話さなかったことには変わりないな。・・・あれだけ、俺のことを信じてくれてたというのにな...」


 重苦しい空気だ。今から治癒魔法でなんとか助けられるかもしれない、そんな希望の場面に似つかわしくない空気。

 ユウジさんのことは好きだ。協力してくれるかもわからない中で、なんとか説得しようとした。その結果だとしても。全員を助けたい気持ちは嘘じゃない。なら、下を向く必要なんてないはずだ。――こんな時に・・・皆ならなんて言っただろう。


 なんとか空気を入れ替えようと言葉を紡ぐ。


「安心してよ。僕達も治癒魔法でなんとかなるかはわからないけど、できる限りのことはするんだからさ!助けようと頑張ってたのは本当なんだから、胸を張っていいんだよ!」


 張り詰めていた空気がふっと緩む。ネルも僕の心情に気づいたのか、自然と雰囲気を切り替えてくれた。ありがたい。


「そうだね。ごめんね、真実が知りたかっただけだったんだ。それに、良い状況になっていってるからね。逃亡中の僕達よりは」


「たしかに、逃亡犯よりはいいな」


 エレディアナも乗ってくれた。

 顔を見合わせた瞬間、自然と笑みがこぼれた。


 ありがとうと一言だけユウジがぽつりと言った。


 そこに師匠が帰ってくる。不思議な笑いが起こっている僕達を見て一言――


「なにやら、喜ばしいことでもあったようだな」


 一瞬の静けさののち、まるで合図のように笑いが起こった。


 


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