2.こういう子ですか
私は、サイド伯爵家の長男として産まれた。
はじめは、跡取りとして育てられる予定だったのだが少しずつ成長して周囲の人達と関わっていくうちに、重大なことが判明した。
私は特異体質なんだそうだ。暗いと目が良く、明るいと悪くなる。
始めは問題とまではならなかったという話だが、時間が経つにつれて、夜は眠れず、朝に眠ることで、家族、使用人との会話が徐々に減っていき、昼に話をしても共通の視界に映る物を話題にすることができないこともしばしば。
跡取りは弟になるのは必然だった。子供ながらに当然としか思わなかったのは、思えなかったのは、私が達観していたからか、それとも・・・自分自身の体質という身近な物に恨みが集中したからなのか。
私にはわからなかった。
両親と関わる機会は減っていくものの、両親は教育、会話で私を露骨に蔑むような発言はなく、たまに聞こえてしまう話声も・・・
「クロイトでは、跡取りとしてあまりにも難しい要因が多すぎる」
「そうね・・・そうでなくても生きるのもつらくなってしまうかもしれません」
「だからこそ、貴族としてではなく本人の能力でできることを探すしかあるまい」
「それもなかったら...」
親からの愛を疑わずに済んだことに感謝しかない。そして、貴族としての教育が始まった。
結論から言うと、飛びぬけた才能はなかったものの、興味の沸いた魔法が見つかった。
―治癒魔法
初めて、教えてもらった時これしかない、としか思えなかった。が、優秀な治癒魔法の使い手は国にいるはずなのに、特異体質について伯爵家の私の家が解決できない時点で、どうこうできることではなかったのだ…。
治癒魔法は学んだものの、望んだことはできるようにならないと諦め始めた頃には、自分の体質と向き合い。端的に、慣れてきた。
生活習慣は、世間に合わせ、片目だけの特殊な眼鏡で外でも見えつつ、暗めの室内でも見えるようにした。
そして、ライト学園の非常勤講師と治癒院の治癒士を兼任して働き始めた頃。
身重の女性と男性が駆け込んで来て赤子が産まれる。そんな、後に印象に残り続ける出来事が起こる。
無事に取り出したものの泣かないのだ。どうしたものかと色々と試してみても泣きはしない。亡くなっているかも含めて調べていくうちに、この子の特異体質がわかる。
その時は目指していたことができないことから自己嫌悪が強かった時期のせいか。珍しいなという乏しい感想しか浮かばなかった。だが、初めて特異体質の子が産まれるのを目にしたからか、頭の片隅に残り続けているのだ。
十二年経っているにも関わらず・・・
十三年が近づいていくにつれて余計に気になり始めたので、調べてみることにしたが、どこにも入学する様子がないようなのだ。だからこそ、久しぶりに実家の伝手を使い。教師、治癒魔法使いとして、そして、貴族として。足を運ぶ。
すると、どうにもおかしいのだ。いるはずなのに、そんな子供を見かけた人があまりにもいない。
準備を整え、家に行くことにした。
両親には会えた。話を聞いてもどうにも、嚙み合わない。悪い人ではないと思うのだが・・・。
扉が少し開いた。そこから、顔を出したのが例の少年。
―白髪...?黒目、茶色っぽい服の上下を着た少年。
黒い髪だったと記憶しているのだが、どうしたのか考えるうちに少年に近づき問いかける。
「あなたが、ユイトさんであっていますか?」
少し怖かったのだろうか、この子に、畏まりすぎた言い方は良くなかったか?
「はい、ユイトって言います?」
「よかった。あなたはこの部屋から出たことある?」
親が監禁なんてしているわけがないと訴えているが今は気にすることじゃない。
「あるよ、外には行ったことないけど」
やはりか、なら、やることは決まった。
「わかりました。ありがとうございます。」
「あ、失礼。私の名前はクロイト・サイドといいます。覚えておいてください。」
「…?はい」
両親に向き直る。特異体質とはな、本当に・・・自身も周囲も変えてしまうのだろう。
私より大変な少年に先達として、教師として、導いてあげたい。
治療魔法使いとして、少しでも治してあげたいと思ってしまうのは、私がそうして欲しかったからだろうか。
「王国法に則り―――」