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未定世界の知り方を  作者: むち神
第二章 【旅は道連れ】
24/110

23.今、会議中だ

 静寂の中、肘を膝に置き、顔の前で両手の指を交差させる。語らずとも伝わる意志――


「さて・・・作戦会議を始めよう」


 前回と同じである。これはやらないといけない礼節なのだろう。


「あ、あぁ。では、落ち着けるのは今日が最後かもしれないからな。中央に着いてからの行動を説明しておきたいんだ」


 違うのかもしれない。ネルの緊張感漂う雰囲気をなかったことにしながらユウジが会話の主導権を握る。

 

「それとは別に、君たちは俺の想像よりもこの国について知らないようだから。知っている限りの現在の情勢も含めて話しておきたい」


「たしかにそれは重要だね」


 僕も頷く。それを見て語り始める。


「まず今回の主軸となる中央議会。その代表である六人を紹介させてくれ。肉食派閥。『轟雷獅子』ライガルは腕っぷしが強く慕われて議会にまで登り詰めた男だ。昔気質な性格。今まで争わずにこれたのはこの人のおかげと言ってもいいほどだ」

「『幽影狼』ダドマンは指揮能力に秀でている。山脈からの魔物恐慌が起きた時に誰よりも活躍して代表の一人になった。今は建築関係に関わっており、非常事態では頼られる存在だろう。ダドマンが居れば犠牲者が出ないなんて噂になるくらいの奴だ」

「『哄笑の梟』オルウィン制空権はほぼ独占状態だろう。飛翔できる獣人の拠り所とも言える。豊富な知見を持っていて、相談に行く奴も多いと聞く。」


「そして、草食派閥。『温故知新』パラガ・トルエルは法整備を得意としている。それだけ聞くと比較して大したことなく思えるだろうが。パラガは現在の法律五割以上を改正。さらに、新たな法の制定も個人で関わっている奇才の持ち主だ。誰からの信頼も厚い御仁だった」

「『知行合一』セント。教育の祖とまで言われた教育者。知識を求めて旅をしてあらゆる実体験を元に書いた書籍は現在の教育の礎となっている」

「最後に『高説』のシロク。代表の中で一番若い。教育機関をトップの成績で卒業。自由組合に所属してSランクとなった。文武両道の天才。自由組合の推薦と実力を知る人々からの推薦で代表になった。若い者達の憧れの存在だろう」



 お、覚えられないよ...。会ったら印象に残りそうだが...。


 ネルが気になる点を指摘する。


「その二つ名みたいなのは必要なの?どう考えてもいらないよね」


「有名人になると勝手に付くもんだろ?それにかっこいいじゃないか」


 眉尻を下げて疑問符を浮かべてはいるものの、続きを促すことにしたらしいネル。

 それを受けて、続きを話し始める。


「草食だの肉食だの言ってるが、これは昔の名残でな、大胆か消極的かを表してるだけだ。要は国の方針を決めるのは誰かってので話していく内に険悪になっていったってことだろう。俺も調停者になってから十年も経ってない若輩者だからな。昔はどうだったとかは詳しくは知らない。だが、その頃から険悪で喧嘩になるものの、会議以外では不干渉だったはずなんだ。それが、ここ最近北の自然種共が不穏な情報が入ってから国の全体の動きを決めなきゃならない。草食派閥は待ちの防衛一択。肉食も防衛ではあれど、山脈の開拓でそこに防衛網を敷くべきって違いがある」


「それなら、過激化しなそうだけどね」

 

「いや、違いは大きい。まず山脈の開拓だが、わからない部分が多すぎる。調査団を派遣して調べるのは当然だが、調べるだけでも魔物恐慌が起きる可能性がある。開拓ともなれば、国が滅びかねない規模が予想される。とはいえ、開拓をせずに防衛となれば、自然種共が魔物恐慌を無理やりにでも引き起こしてくる懸念がある。間引き含めた未知の開拓防衛、情報収集しつつの防衛。他国はわからないことが多い特に自然種の国はな。結論は五分五分。俺の意見で決めるべきときにあの事件が起きた・・・。」

「そこからは知っての通りだ。肉食派閥は怒り狂った。今はどうなっているのかわからない・・・。」


 ネルが神妙な顔で繰り返す。


「議論が白熱するのはわかるよ?でも、やっぱり過激化するほどではないように思うけどね」


 普段から冷静なネルのこと。衝動的にも見える行動は好きではないのだろう。


「・・・・・・不幸一回で致命傷を負う奴は滅多にいるもんじゃない。だが、不幸なことは連鎖する。例えば、生活費が底を突きかけた奴が金を稼ぐために森に行き、怪我を負う。それを治す金なんてないから治療のために借金をする。金を稼ごうにも怪我は治らず家は追い出される。家のない怪我をした奴を雇う酔狂な奴はいない・・・。似たようなもんだ。今回が最後の着火剤だった。要は複雑ってことだ」


 実感の籠った語り草であった。僕達には具体的には話せないこともあるのだろう。確認のように疑問を口にしたネルはさらに眉間に皺を寄せる。


「なら・・・。争いの原因はこれまでの歴史ってことになるのかな?だとしたら、仲裁なんて不可能だよ」


 たしかに、きっかけに過ぎないとのことであれば、積み重なった感情を取り除くなんてできるとは思えない。だからこそ、調停者を辞めたのだろう。


「その通りだ・・・。派閥の(わだかま)りを無くすのは無理だろう。だが!街を観察していて気づいたんだ!中央以外の獣人関係は想像以上に親密だった!派閥関係がなければ少なくとも争いにまではならない!言い合っているのはごく一部の獣人だってことに!派閥の上層部の奴らだけじゃなく全体を巻き込んで争いを止めることができれば可能だ!」


 なるほど。今まで会ってきた獣人で険悪な態度の人は一人も見かけなかった。強いて言うならユウジさんが・・・。ぐらいだったのだ。全体を動かして少数の争いを止めると考えれば納得のアイデアである。でも・・・


「どうやって巻き込むの・・・演説?」


 僕の疑問と推測を聞いて渋々といった様子で答える。


「・・・名声だ。獣人の代表は功績で選ばれる。獣人は実績のある人物を重視しているからな。特に民衆は...。中央に帰ることを決意した時は、商会のような多くの人に影響力のある者をなんとか意地でも認めさせようと思っていた」


 だが。と続けて別の答えを示す。

 

「君たちを見て考えを改めた。名声を稼げることを裏も表も全部やりたい。まずは・・・裏闘技場で優勝する。その功績を抱えて表の武闘大会に出る!」


 ふんふん。ユウジさんは意外と武闘派の獣人だったのだろう。優勝できるらしい。調停者としての実績じゃだめなのかな?


「だから頼む!ユイト!出てくれ!」


 全力全開で地面と見つめあい、平行になるくらい頭を低くして、そう叫んだ・・・。




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