あるお料理番組
なんかよくありそうな料理番組をネタにしてみました。
「番組をご覧になっている皆様、こんにちは。 本日もご家庭で簡単に出来る、美味しい料理やおやつをご紹介したいと思います」
番組タイトルから収録スタジオに切り替わると、この番組の司会が隣にいる誰かと1度お辞儀をしてから、番組冒頭でお決まりの挨拶を始めた。
隣の人物の表情は、出演している人によって違う。
営業スマイルの人もいれば、無表情の人もいるし、いかにも昔気質な職人らしいムッツリ不機嫌そうな顔をしている人もいる。
今回は営業スマイルバチバチの、人前に出るのに慣れている事を窺わせる人だった。
「今回はこちらの、根古賀 大介先生に教わりたいと思います。 根古賀先生、今日はよろしくお願い致します」
「どうも、根古賀です。 本日はよろしくお願い致します」
「根古賀先生は主に家庭料理の料理教室をなさっているお料理研究家の方で、現在は家庭で簡単に美味しく作れる料理のレシピ本が2冊出版されているそうです」
司会の礼を受けて、根古賀も丁寧に返礼。
それから司会により根古賀の出版物の宣伝が入る。
「では早速、お料理を教わりたいと思います。 先生、よろしくお願いします」
「ええ、始めましょう」
番組冒頭のお決まりの流れが終わり、ここからが本番となる。
「今日は少し変わったパンケーキを作っていきたいと思います」
「少し変わったパンケーキ……ですか?」
「ええ。 普通のご家庭ならホットケーキミックスで焼くだけでしょうが、それでは教える意味がありませんので」
教える意味が無いと言われ、そりゃそうだと小さく苦笑する司会。
「そうですよね。 ホットケーキミックスを焼くだけではすぐ終わってしまいますしね」
「と言うわけで、今回はグルテンフリーな米粉で作っていきます」
「米粉のパンケーキですか! それはそれで良さそうですね!」
「ええ。これを出すと、とても喜ばれますよ」
「いいですねえ! では今回使う材料はコチラとなります。 お手持ちのスマホで撮影して、見返せるようにすると便利ですよ」
なんて司会が言いながら、画面に使う材料一覧が現れる。
「へえ、豆乳を使うのは珍しいですし、砂糖も不使用なのもなかなか見ませんね!」
「ええ。 ヘルシー志向のパンケーキです。 果物は任意と書きましたが、お好みのものでどうぞ。 と言うわけで、早速生地のタネ作りですね。
豆乳や卵、お好みの植物油をしっかりかき混ぜて馴染ませてから、米粉を気合を入れて混ぜましょう」
「はい、先生」
「んんんんん〜〜〜〜!! タネを混ぜている腕がツラいです!」
「ですよねえ。 なのでみなさんも、こちらにあるハンドミキサーでしっかり掻き混ぜましょう」
「…………先生? ハンドミキサーがあったんてすか?」
「はっはっはっ!」
「笑って誤魔化さないで下さい! ……ところでふと思ったのですが、パンケーキとホットケーキの違いってなんでしょうか?」
泡だて器でずっとガシャガシャやっている間に、司会は余計な考えをしていたらしい。
「日本ではあまり大きな違いはありません」
「ないんですか!?」
「ええ。そもそものパンケーキのパンとは平たい鍋……フライパンみたいな物を指し、パンで作ったケーキです。
ホットケーキは、パンケーキが外国から伝わってきて、気がついたらホットケーキと呼ぶようになっていただけ。
もしかしたらパンケーキのパンが普通のパンと混同しない様に変えたのが真実かも知れませんが」
「へえ! パンケーキとホットケーキは大きな違いが無いんですか! ビックリですっ」
「あくまでも聞いた話ですから、話半分で聞いて下さいね」
「そうですか、いやー。 それにしても、この生地って本当にヘルシーそうですよね」
「そうですね。 1つ焼いてみて、もし味が足りないと思いましたら、砂糖や塩を少しだけ足して調節してもらっても構いませんからね」
「あ、味を足しても良いんですね。 でも、最初から足すのはダメなんですか?」
「そうですね。 まずは足さずに作って頂きたい。 それからでも遅くありませんから」
「素材の味を見てほしい……と言うことでしょうか」
「いや、それとは違…………タネはもう良いと思います。 次へ行きましょう」
「あ、そうですね。 では次に行きましょうか」
確かにいい具合にタネが混ざったのだが、根古賀の言葉は明らかに話題をぶった切るものであったため、司会の眉が少し寄った。
「次は豆乳ホイップでも作りましょう。 これは豆乳をハンドミキサーで泡立てて、レモン汁を少し入れてやるのが一番簡単ですね。 レモン汁を泡立った豆乳に入れると、豆乳が少し固くなりますので、お好みでレモンの量を調整して下さい」
「わかりました。 では早速――――」
司会が次の作業に取り掛かろうとした瞬間に、根古賀が割り込んでくる。
「生地作りと絵面が一緒ですので、省略します。 後はレモン汁をいれるだけのところまでやったものが、こちらです」
「………………」
なんだか「段取りが違う!」と驚いていそうな司会をよそに、根古賀が宣言通りのものを取り出していた。
「この豆乳に……これ位です。 まずは少しだけレモン汁を垂らし、混ぜる」
ギュイーンとハンドミキサーの回転音が1秒有るか無いか程度響き、止まる。
止まったのを確認してから根古賀がハンドミキサーを持ち上げると、引き上げられたミキサーを追いかける様にニュルっと伸びる豆乳。
「わあ、本当に豆乳がホイップになるんですね!」
「面白いですよね」
「今回のホイップはこの位の固さにしましょう。次は生地を焼いていきましょうか」
「はいっ!」
段取りを無視されたと驚いていた司会の様子はどこへやら。
なんだか、ちょっと変わった科学実験ショーで楽しむ観客みたいになっている。
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パンケーキを焼くタネをフライパンに流し込む様に落とし、根古賀は焼いている間に添える果物のカットを隣で行うと宣言し、パンケーキを焼く係を司会に押し付けた。
「見えてますか? 焼いているパンケーキを裏返すタイミングは、焼いている生地がこう、ポコポコっと大きめの泡が出て来た時ですね」
「よく聞きますね。 でもその泡の具合を間違えて、半生だったり焼きすぎてしまったりしてしまうんですよねえ」
「その辺は経験を積むしか、対策は無いですね」
「ですよねえ」
果物をカットしながら司会をチラ見しつつ口を出す根古賀の指導に、司会が自身の失敗談で返す。
その2人をよそに、フライパンの上のパンケーキの気泡の動きが活発になる。
「あ、ポコポコ言ってますね? この位なら良いですか?」
「……そうですね。 そろそろひっくり返し時だと思います」
「では早速…………やあっ!」
「おっ。 おーー、良いですね。 ちゃんとキレイに裏返せてますよ」
「ふふんっ」
「その調子で、食べられる分をドンドン焼いちゃいましょう!」
「はいっ!」
「……と言いたいですが、まずは味見を兼ねた1人2枚で焼きましょうか」
「あっ。 そう言えばタネの味の調整をする前提でしたよね」
「そういう事です」
なんてやり取りを挟み、根古賀と司会の2人分のパンケーキをパッと焼いて、豆乳ホイップと果物をそれぞれの感性で気ままに盛り付け、少し小粋なトークをしながらパンケーキを完成させた。
「よし、出来ました! 犬も人間も食べられる、犬用パンケーキの完成です!!」
「…………えーーーーーーーーー!? 根古賀先生って動物向けの料理研究家さんなんですかーーーーーー!!?」
「いえ、ちゃんと人間用の料理“も”研究してますよ?」
画面のテロップにも【犬用 パンケーキ】の文字が踊り、テレビスタッフらしき笑い声が映像に乗った。
根古賀大介とか言っといて、犬用のおやつを作ったんかーーーーい!!?
なお根古賀大介は犬派である模様。
それと犬用と書きはしてるけど、もちろん猫にも安心してお出しできます。




