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第6話 信じる? 信じない?

 金閣寺のきらびやかさは壮観だった。

 しかし、建物が金ぴかというのは、どうなのだろう。

 アクセサリーというものは、さり気ないから身に着けている者を引き立たせる。

 もし金ぴかの人間がいたとしたら、さぞかし不気味に違いない。

 午後からバスで移動して来た金閣寺を眺めながら、誠司は素直な感想を頭の中で巡らせていた。

 先ほどの清水寺観光で知り合った少女とは、時間が押していたこともあり、自己紹介とほんの少し話をしただけでそのまま分かれた。

 そして、そのあと、久保を筆頭にした班の連中から誠司は散々泣きつかれた。


「高木。一生のお願いだ。あの女子たち同じホテルだっただろ。さっきの子と仲良くなって、合コンを催してくれ。お前の飲み食いする分は勿論俺達で出す。このとおりだ」


 往来で堂々と土下座でもしそうな感じで詰め寄られて、取り敢えず「いやだ」という言葉を呑み込んでおいた。もしここで希望を絶ったら、こいつらはストライキを起こしかねない。

 同じホテルに泊まっているのだから、運が良ければ、またバッタリあの少女と出くわすこともあるかも知れない。

 しかし、こっちは神奈川で、向こうは東京だ。そもそも合コンなんてする気ないし、どうやればいいのかも分からない。

 修学旅行先で出会った女子とどうにかなりたいとか考えている久保たちは、頭がおかしい奴らだとしか思えない。

 それに比べれば、あのちょっとズレてる坊主頭の方が、だいぶましだった。


 それなのに……。


「なあ誠ちゃん、よく分からねえけど、合コンやろうぜ。久保のやつ、誠ちゃんにウンと言わせたら、俺の分の飲み食いは無料にしてくれるんだってよ」

「お、おまえ、買収されてるじゃないか……」


 食いもんであっさり寝返った坊主頭を、本当に殴ってやりたくなった。



 私立姫百合女学園高等部は、生粋のお嬢様学校だった。

 規律を重んじ、常に気品ある振る舞いをし、自己研鑽を絶やさない学園生活を送る彼女たちは、まさに現代の淑女と言えた。

 そんな寄宿舎生活を送る典型的なお嬢様。それが一ノ宮綾乃であった。

 文武両道をモットーにしている綾乃は、日ごろから自己研鑽を欠かさない秀才ではあったが、幾分世間知らずな一面もあった。

 外国人に話しかけられていてオタオタしていた少年に、また劇的な感じで再会してしまった。そしてあの気弱そうな感じだった少年の裡にあった本物の強さを目にしてしまい、綾乃は何かしら運命的なものを感じてしまったのだった。


「ワッ」


 不意打ちをするかのように、クラスメートの桐原燈子きりはらとうこが、綾乃の背中を掌でドンと叩いた。

 清水寺での観光を終えて移動した後、ずっと様子のおかしい綾乃の顔を燈子は覗き込む。


「なあに、ぼーっとして、もしかしてさっきの彼のこと?」

「な、何を言ってるの? そんなわけないでしょ」


 完璧な図星に、綾乃の頬がどんどん紅く染まっていく。


「やっぱり。もう、そんなに気になるんだったら、何でさっき連絡先聞いておかなかったの?」

「そ、そんなはしたないこと……男性に女性の方から連絡先を聞くなんて……」


 綾乃と違って、燈子はお嬢様学校の中でも、やや砕けた存在だ。

 ザ・お嬢様の綾乃と、砕けた燈子はお互いに違いを認めつつ、日頃から親しくしていた。


「あのね、綾乃、それって別に特別なことでも何でもなくって、普通にみんながやってることだよ。共学の学校なんか、そんなの日常茶飯事だって」

「そうなの? いや、まさか」


 綾乃は燈子の話を半信半疑な様子で聞き返す。


「うちの学校が特別厳し過ぎるんだって。連絡先聞くくらい、別に恋人同士じゃなくても友達同士ならみんなやってるって」

「学校では携帯禁止だよ」

「そうだけど、みんな普通にやってるって。綾乃だって携帯持ってるじゃない」

「これはお父さんとお母さんに連絡するときに使ってるだけだもん。お友だちとは毎日学校で顔合わしてるし、必要ないし」


 守りに入ろうとする綾乃に、燈子はため息をひとつつく。

 燈子はこのお堅い友人の殻を剥がしてやろうと、頑張ってみる。


「ねえ、そんなこと言ってたら、出会いなんて一生来ないよ」

「仕方ないじゃない。さっきだって、自己紹介しただけだったし、突然連絡先なんか聞いたら変に思われちゃうじゃない……」


 何となく諦め感の漂うコメントに、燈子は口をへの字に曲げる。綾乃の煮え切らない感じが気に入らないようだ。


「ねえ、その話は置いといて、楽しみましょう。ほらピカピカしてるよ」


 綾乃は金ぴかの建築物を指さして、しつこい友人の気を逸らす。


「金閣寺ねえ、何だかいやらしい建物だわ。成金って感じ……」


 そぞろ歩く列の中で、燈子は冷めた感じで素直な感想を口にする。

 その時、つまら無さそうにしていた燈子の目が、パッ大きく開いた。

 そして並んで歩く綾乃の袖を引っ張った。


「ねえ、運命って信じる? 信じない?」


 おかしなことを言いだした燈子に、綾乃は怪訝な顔を見せた。


「急に何言いだすの?」

「今日出会った彼が運命の人だったら、きっとまた会える。そう思わない?」

「そうね。でも、もうその話はやめましょう」


 しつこく絡んでくる燈子を綾乃は苦笑気味に窘めた。


「学生の本文は勉強に在り。先生がいっつも言ってるでしょ。だいたい修学旅行っていうのは、校外学習みたいなもので……」


 担任教師の受け売りを語り始めた綾乃の前で、燈子は無言で腕を真っすぐに上げて、ある一点を指さした。


「なによ? あっ!」


 綾乃はそこで言葉を失った。

 観覧場所で寺院を見上げているあの少年。

 もう一度会いたいと、心の中で思っていた彼がそこにいた。


「うそ……」


 口を押さえて少年を見つめる綾乃に、燈子はもう一度さっきの質問をする。


「運命を信じる? 綾乃」


 友人の問いかけに、綾乃は何も返すことが出来なかった。

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