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第11話 君の近くで

 女子班と一緒の班行動。

 行動的な女子の後に続いていたお陰で、誠司たち男子班も結構色々見て周ることが出来た。

 結局のところ、ひかりが二つの班をまとめてくれたおかげで、誠司は労せずしてこの嵐山観光を満喫したことになる。

 優秀な班長のありがたさを痛感した誠司だった。

 それにしても、振り返る人を数えるときりがないほど、どこへ行っても時任ひかりは人目を惹いていた。

 誰もがひときわ垢抜けたその美貌に視線を向けているのを目にして、誠司は余計なことを考えてしまう。


 こんな人とお付き合いしたら、気の休まる暇もないんだろうな……。


 憧れの少女と肩を並べて歩いている自分を想像してしまい、誠司は赤面しながら頭を横に何度も振った。


「そこ! 何ジロジロ見てんのよ!」


 唐突に振り返った宇佐見美鈴に指摘されて、誠司は飛び上がった。


「やらしい視線後ろから向けないでよね。もう、高木君、ちゃんと班の男子たちを見張っててよね。特に久保のこと」

「えっ? うん、そうだね……」


 心の内を見透かされていたのかと内心焦ったが、どうやら違ったようだ。

 それにしても、宇佐見美鈴の様子から察するに、誠司はクラスの女子から安心安全な草食系の男子だと思われているみたいだ。

 信頼されていると受け取っていいのか、はてまた、男として見てもらえていないのか、誠司は微妙な心境だった。



 渡月橋より北西に足を伸ばし、嵯峨野屈指の観光スポット「竹林の道」を、ひかり率いる一行はゆるりと散策していた。

 頭上を覆うように連なる青竹が、まるで緑のトンネルのようだ。

 観光名所だけあって人の流れが絶えない。

 そして、やはり時任ひかりは行き交う人たちの中で、人目を惹いていた。

 そしてひと組だけ、勇気をもって一緒に写真を撮って欲しいと言ってきた他校の修学旅行生がいたが、誠司が出るまでも無く宇佐見美鈴に蹴散らされていた。

 男子に対してアレルギーでもあるのかといった様子の宇佐見美鈴に、誠司はどうしても後ろ向きな思考をしてしまう。


 集合写真でも何でもいいから一枚だけでも撮れないかな……。

 でもきっと宇佐見さんにダメって言われるんだろうな……。


 誠司はポケットに入れてあるカメラを掴んだまま、言い出そうかどうか葛藤していた。


「高木君ちょっと」


 名前を呼ばれて、慌てて返事を返すと、宇佐見美鈴が手招きをしていた。


「えっと、どうしたの?」

「あのさ、有名な撮影スポットだし、せっかくだから集合写真撮りたいなって思ってさ」


 言い出す前に向こうから提案してきた。誠司は喜びを顔に出さないよう気をつけながら、落ち着いて返した。


「そうだね。じゃあ、班のみんなを呼んでくるね」

「え? いいよ高木君だけで」

「えっ! 俺だけ!」

「うん。ここ押すだけだから。じゃあお願いね」


 美鈴は誠司にカメラを手渡すと、女子班の輪の中に戻って行った。


「そうゆうことか……」


 内心がっかりしつつ、可愛くポーズをとる憧れの少女に、またくぎ付けになった。

 そして他人のカメラであったとしても、その可憐な姿を自分が写しているのだということに、誠司は喜びを覚えてしまうのだった。

 さらに何枚か撮ったあと、美鈴は誠司のもとへと写真の確認をしに来た。


「ありがとう高木君。あ、男子も集合写真撮るよね。私、シャッター押したげよーか?」

「えっと、そうだね。お願いしようかな」


 そして男子の集合写真を撮ってもらった。

 いらねー。きっと撮ってもらった男子全員がそう思っていた。


 集合時間が近づいてきた頃、時任ひかりにどうしても行きたいお土産物店があるからと言われ、誠司たち男子班も女子班の後に続いて京友禅をあしらったアクセサリー店へと足を運んだ。

 何となく京友禅という名前だけは聞いたことはあったが、友禅染めを使った可愛い小物は、上品さと雅さを兼ね備えており、小物の良し悪しすら分からない誠司の眼にも、これが良いものだということだけは分かった。

 女子同士がお土産を選んでいる間に、誠司も店内にディスプレイされた幾つかの小物を手に取ってみる。


 昨日買いそびれた千恵ちゃんのお土産、ここで買っておくか。


 そう思ったものの、それほど広くない店内に修学旅行生たちがひしめいているせいで、誠司は少し居心地が悪い。

 圧倒的多数の女子の中でお土産を選んでいた誠司は、ふと我に返った。


 ここって、男子の入る店じゃなくない?


 突然感じてしまった気恥ずかしさに、手に取っていた小物を戻そうとしたときだった。


「それすごく可愛い」


 涼やかな声。

 フワリと香った蜜柑のような香り。

 目を向けるまでもなく、それが誰だか分かった。


「色違いもあるんだね」


 ぎこちなく首を巡らせると、意中の少女が片手で髪をかき上げながら、誠司の手にしていた小物と同じ物を手に取った。

 いつの間にか傍に並んでいたひかりに、誠司は呼吸することを忘れた。


「お母さんに買って帰ろうかな……でも私用にも一つ欲しいかも……」


 ほんの少しだけ悩ましげな顔をしたひかりに、誠司の眼はくぎ付けになった。

 あまり見ないようにしないと。そう普段から気を付けていたけれど、こうなるともう何も考えられなかった。


「高木君もこれにするの?」


 何気なく尋ねられ、誠司は真っ白な頭で必死に言葉を探した。


「う、うん。これにしようかな……」


 誠司はなんとなく手に取った、いったい何に使うものなのかすら分からない小物を買うと決めた。


「じゃあ私も真似させてもらうね」


 そう言い残して、ひかりは色違いの小物を二つ手に取って行ってしまった。

 誠司はぼんやりとその背中を見送ったあと我に返ると、手にした物の正体を確認しておいた。


「小物入れだったのか……」


 手の平に収まるくらいの友禅染の小物入れ。

 いったい彼女はあの中に何を入れるのだろう。

 少女の残して行った余韻にしばらく浸ったあと、誠司はレジへと向かった。

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