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第九章 終わらない地獄 3 正義と悪の激突

 私は、楽夜さん達の迷宮の守護部屋に辿り着いた。そんな私の口から飛び出たのは、


「これは、派手にやってるね。私でも少し手こずりそうだね」


 という、微かな驚きと、称賛の混じった言葉だった。

 迷宮の守護部屋は、楽夜さん達が転移してきた時の綺麗さは見る影もなく、何者かによって荒らされていた。

 石畳は、ところどころに穴が開いており、足元に気をつけないと、すぐに転んでしまいそうな程に乱れていた。さらに、部屋のあちこちに、血痕のようなものがついていて、それらが、激しい戦闘の様子を物語っていた。

 そして、私は、この惨事の元凶へと目を向ける。


「ずいぶんと激しくやってくれたね、ラドンさん」


 そう私はラドンさんに向けて言い放つ。


「……お前は何者だ? 俺と直接的な関係は無いはずだが?」


 ラドンさんは、そう冷静に言い返してくる。私は、それに負けじと、事前に用意していたセリフを発する。


「私は、悪を滅する正義の執行者、エリュン! 罪を犯したあなたを罰するためにここにいる! 覚悟しなさい!」


 決まった! こういうセリフ、一度でもいいから言ってみたかったんだよね。まあ、ただの自己満足でしかないと言われたら、反論できないけどね。


「俺は、お前と戦うためにここにいる訳ではない。痛い目を見たくないのなら、今すぐにでもこの場を立ち去れ。さもなければ、この俺の力を以て、お前を駆除してやるぞ?」


 駆除? 私は野生動物でも、異形種でもない。スプレーをかけられたぐらいで引きはしないし、知性が無い訳でもない。


「舐められたものね。あなたはかなり強そうだし、私が本気を出してもいいでしょう。さあ、私の力の前にひれ伏して! 行くよ」

「引く気は無いようだな。覚悟を決めろ!」


 お互いにそう言い合い、私は剣を、ラドンさんはハンマーを構えて、荒れ果てた石畳を蹴る。その直後、守護部屋に激しい衝撃と旋風が起こる。ぶつかった剣とハンマーの衝撃で、部屋中に火花が飛び散り――

 こうして、私とグレンさんの戦いが始まる。


      ・・・・・・・・・


 グレンさんのハンマーと私の剣が交差する。私はそのグレンさんの勢いに押され、剣がジリジリと押し返されているのを感じた。このままでは、剣が折られてしまう、そう感じた私は、左手に銃を召喚し、グレンさんに向かって一発発砲する。


「くっ……」


 グレンさんは、そう驚きと苦しみの混じったような声を上げると、ハンマーを私の剣から離し、銃弾に向けて大きく降る。と、次の瞬間、私の銃から放たれた銃弾が、グレンさんの振るったハンマーによって、部屋の端へと弾き飛ばされた。これは、普通の人間なら到底、理解すらもできないような、神業だ。でも、グレンさんは、この一瞬で、そんな人間にはできないような神業を成し遂げた。こんな人、これまでに見たことがない。でも、いや、だからこそ、強い人と戦うのは面白い! 秘めた実力の底が知れない相手と戦うからこそ、楽しい、面白いと思えるの。

 でも、私をこれ以上楽しませることは、楽夜さんにも、ラドンさんにも、私自身以外の誰にもできない。何故なら、私を超える人は、この世界にいない、いるはずがない、いてはおかしいんだから。え? どうして、そう自身を持って断言できるのかって? 簡単な話だよ。理由は、ただ一つ。私は、この世界の創造主だから。国王を超える権力を持つ平民がいないように、世界の創造主を超える力を持つ人間もいない、いてはいけないの。それに、この世界の創造主という優れた権限を、そう簡単に他人に渡すことは許されない。自分で飼っているペットは、自分で責任を持って最後まで飼わなくちゃいけないように、自分で造った世界な以上、最後まで自分で世界を管理しなければならない。故に、私に敗北は許されないの。

 さて、ラドンさんが、私に向かって突っ込んできた。私は、剣でラドンさんの腕を斬り落とそうと、剣を振り下ろす。けれど、途中で強引に体の軌道を変え、その剣を止める。


「へえ、なかなかやるな。俺の狙いに瞬時に気づくとはな」

「びっくりしたよ。まさか、『デスカウンター』を使ってくるなんて思ってなかったからね、危うく手を出しちゃうところだったよ。やっぱり、ラドンさんは、一筋縄ではいかなさそうだね。私も本気を出させてもらおうかな?」

「ははは、勘弁してくれよ。俺も、ラドン様に仕える身なんだ。こんなところで負けるわけにはいかないんだよ。俺の目的は、俺を殺したニャロニードと、俺を死へと誘導した楽夜への復讐だ。その目的を達成するまでは、お前なんかに負けてらんねえんだよ!」

「そう。じゃあ、私も、楽夜さんの期待に応えなくちゃいけないから、本気を出させてもらうね。……覚悟して」

「かかってこい!」


 これを境に、戦闘は、さっきまでのお遊びみたいな攻撃の応酬ではなく、高度な技の展開が続く、激戦へと変貌していく。

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