第九章 終わらない地獄 2 楽夜VSスライムクイーン
スライムの触手が、俺の体全体に絡みつき、スライムクイーンの体内の壁に、俺の体が引き寄せられる。俺は、その触手を引きちぎって脱出しようと思ったが、触手は思っていた以上に耐久性に優れていて、なかなかちぎれないどころか、触手の本数はどんどん増えるばかりで、キリがない。しかも、腕にまで触手に絡みつかれてしまい、俺は、徐々に体内の壁へと引き寄せられていく。
「くっ……離せ!」
「離さないわ。このままあなたは、私の中で支配されるの。抵抗なんて愚かな事は考えずに、大人しくしていなさい」
俺とスライムクイーンがそう言葉を交わす間に、スライムクイーンの体内の壁はすぐそこまで迫っていた。俺は最後のあがきとばかりに、体をじたばたさせようとするも、触手にがっちりと全身を固定されているせいで、少し体を動かすことすらもかなわず、そのまま体内の壁に引きずり込まれる。
体内の壁の中も、スライムで埋め尽くされているようで、俺の体を常にスライムがなぞっていく。何とも不快な感触だ。
と、その内に、だんだんと声が聞こえてくる。最初は微かな声で、聞き取ることは不可能なほど小さい声だったが、その声はだんだん大きくなり、容易に聞き取ることができるまでになった。
『グレン様に逆らわなければ、こんなことにならなくて済んだのよ』
俺は、そう囁きかけてきたスライムクイーンの声に、心の中で反論する。
(グレンに逆らった訳ではない、スライムクイーン、いや、エミル、お前に売ってもらった恩を返したまでだ!)
俺自身、今となっては、無理のある言い訳だと思う。エミルへの恩を返すとは言うものの、結局、それはグレンへの裏切りと等しかったはずだ。それなのに、何故当時の俺はそんな選択ができたのだろう……
と、再び、スライムクイーンの声が話しかけてくる。
『あなただって、大切な仲間を失うのは怖いでしょう?』
俺は、その声に再び反論する。
(確かに、大切な仲間を失ってしまうのは怖い。だが、エミルも、それは同じはずだ! 帰ってこい、エミル!)
だが、その声はスライムクイーンには届かない。当然だが、無情だ。こうして心の中で、周りの声から自衛することしかできない俺は、自身の無力さを嘆く。
エミル達や自分の居場所を守るには、傭兵達の主であり、守護部屋の主でもある俺が、もっと強くあらなければならない。そうは分かっているが、口で言うだけでは、それは実現できない。だからと言って、こうしてチャンスを待っているだけで、何かが変わるのか……?
と、その時。
「この一撃であなたを堕とすわ! 『ソウルクラッシャー』!」
そうスライムクイーンの殺意のこもった声が聞こえると、どこからともなく赤いオーラが現れる。すると、だんだん俺の体の力が抜けていく。それだけでなく、俺の精神に、何かが重くのしかかってくる。時間が経つにつれて、俺の体を囲む赤いオーラは濃くなり、俺の体にスライムが張り付いてくるかのような感覚がしてくる。だが、そんな事に気を配っている余裕もない。俺のまぶたに鉄のかたまりを乗せられたかのように、俺のまぶたがゆっくりと落ちてくる。
最早……ここまでか……




