表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/111

第九章 終わらない地獄 2 楽夜VSスライムクイーン

「グレン様によると、あなた達の迷宮に、一人の男を出向かせたようよ。ちなみに、その男の名は、ラドン」


 俺は、その男の名を聞いた途端、心の中が驚きで埋め尽くされた。何せ、ラドンは、猫魔物との戦いで死んでしまっているはずなのだ。それなのに何故……


「それは、我から話そう」


 そう言ったのは、恐らくグレンだろう。


「どうせお前は、スライムクイーンによって、我らの手に落ちる。仲間になら教えても構わないと判断した」


 ちょっと気が早すぎると思うが、教えてくれると言うのなら、喜んで聞かせてもらおう。


「我は、戦死した者の気配を察知し、そこから、我が生き返らせて配下にしたいと思った者を、ここヒューリ城に呼び寄せることができるのだ。我は、2、3週間前、ある者の気配を感じ、このヒューリ城に呼び寄せた。その者こそが、ラドンだ。ラドンの話によると、楽夜とエミルと共闘し、ニャロニードに挑むも、自分は死に、勝利は絶望的だ、ということだ。そこで、我はこう言ったのだ。ならば、我がお前の主となり、お前を生き返らせることで、ニャロニードや、楽夜とやらへの復讐の機会をやろう、と。ラドンは喜んで受け入れ、我の配下となることを選んだ。それからラドンは鍛錬を積み、今では、世界トップクラスのハンマーの使い手となり、そして、楽夜とエミルが迷宮の守護部屋にいない今を狙って、迷宮を襲撃した、という訳だ。これで、お前が我を倒したとしても、お前達の帰る場所はもう無い! ハ――ッハッハッハッハ!」


 そうグレンが勝ち誇ったように言い放つ。が、ラドンがグレンの配下となっていた事を除けば、全て俺の想定内だ。俺達の守護部屋には、すでにエリュンが向かっているし、そのエリュンに劣らない者と言えば、それこそ、勇者や英雄と呼ばれている、世界トップクラスの……って、ん? そういえば、さっき、グレンは、ラドンについて、世界トップクラスのハンマーの使い手って言ってたよな?

 ……ヤバいかもしれない。早くここを片付けて、エリュンの援護に向かわなければならない。俺はそう一瞬考えた。だが、今は、エミル達の救助とグレンの撃破が最優先だ。ラドンの撃破は……エリュンならできると信じよう。

 さて、俺がそう考えている時だった。


「精神を痛めつけた後は、肉体を徹底的に痛めつけましょう。行くわ! 『ダブルクロス・エックス』!」


 そうスライムクイーンが唱えると、俺の腹と背中の十字型の傷口から、大量のスライムが俺の体の中に入り込んでくる。スライムの感触がネチョネチョとしているのと、傷口が激しく痛むのとで、俺の気分はもう最悪だ。が、その時。

 俺の傷口の中に入ったスライム達が、突如膨らみ始める。俺の腹はパンパンに膨れ上がり、傷口も大きく開いている。と、その時だった。ここにいるはずのない、いるのはまずおかしい存在が俺の前に現れる。その存在とは、スライムクイーンの事だ。ここは、スライムクイーンの体の中だ。故に、スライムクイーン自身の意思をここに持ってくる事は可能だが、肉体を持ってくるのは不可能なはずだ。それなのに、何故……

 と、その時。最悪を超える事態が起こる。スライムクイーンが指をまっすぐに伸ばし、俺の腹の傷口に向かって手を突き刺す。


「な……何?」


 俺がそう声を上げるのと同時に、スライム達が俺の体の中から抜け、俺の腹の膨らみは元に戻る。が、俺の腹の傷口には、未だにスライムクイーンの手が刺さったままだ。

 と、次の瞬間、スライムクイーンの手が、俺の体の奥深くまで突き刺さろうと、暴れ始める。俺は、口から血を吐き出す。それでも、スライムクイーンは、俺の腹の傷口に刺さる手を抜かないどころか、より深くまで手を突っ込んでくる。やがて、その手は、内臓をかき分けて、背中の傷口にまで達する。と、スライムクイーンの腕が、黄金に光り始める。その時、スライムクイーンの柔らかった腕が急に硬化し、細かく震えだす。

 すると、俺の腹の皮膚がだんだん剥がれ、腹の筋肉もほぐされていく。と、俺の体の内部が、スライムクイーンによって斬り刻まれていく。俺はあまりの痛みに声を上げる事すらかなわないまま、意識を失い――


「死なせないわ」


 という声が聞こえたかと思うと、俺の意識は現実へと引き戻される。スライムクイーンの手は俺の体から抜けており、傷口も塞がっていた。だが、その場所はスライムクイーンの体の中のままだ。


「どう? 降参して私の配下になる気にはなったかしら?」

「まだまだだ……こんなところで負けるわけにはいけねえんだよ……」

「そう。じゃあ、あなたを、私に逆らいたくても逆らえない、私の忠実な配下に仕立て上げるわ!」


 そのスライムクイーンの声が、俺の心の中で反響するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ