第九章 終わらない地獄 2 楽夜VSスライムクイーン
「行くぞ! 『一刀両断』!」
俺は、そう叫びながら、先制攻撃を仕掛けにスライムクイーンに迫る。振るった俺の刀は、スライムクイーンを完璧に射程圏内に収め――だが。
「そう簡単にはいかないわよ! 『スライムバリア』!」
そうスライムクイーンが叫び、その水色の手を俺の方に向けてかざすと、俺とスライムクイーンとの間に水色のバリアが展開される。俺の刀は勢いあまってそのバリアにぶつかる。と、俺は違和感を覚える。
そのバリアにぶつかった俺の刀は、跳ね返されるのではなく、クッションに当たったかのように、優しく受け止められた。そして、刀を振るって勢いがついていた俺の体も、そのバリアに衝突する。だが、
「痛……くない?」
刀がぶつかった時点で、ぶつかってもあまり痛くないのではと思っていたが、案の定だった。俺は、そのバリアに弾かれる。と、そのバリアは、だんだんと俺の方に曲がってきて、やがて、俺の周囲を囲む結界のようになる。すると、俺を囲むだけだった結界の一部が溶け出してスライムとなり、俺の体にまとわりついてくる。俺は、スライムによる体の侵食を防ぐために、体にくっついてくるスライムを必死で引き剥がす。が、量が多くて、キリがないどころか、余計に俺の体にまとわりついてくるスライムは増えてくる。
「アハハハハ! そのスライム結界に捕らわれたら、もう抜け出せないわ! スライムに体を乗っ取られてしまう前に、早く降参しなさい! じゃないと、スライムに、その体だけでなく、心までも支配されてしまうわよ?」
そうスライムクイーンが、勝ちを確信して、俺を嘲笑うかのように言い放ってくる。だが、恐らく、スライムの壁なら、刀を突き刺して切り裂いてしまえば……
すると、予想通り、スライムの結界に穴が開いた。俺は、その穴から外へと脱出する。
「なっ……いや、まだ焦る時じゃないわ……それに、手段はまだまだ用意しているわ……」
そうスライムクイーンは、自分に言い聞かせているようだった。だが、次の瞬間。俺の体が、一本のしなやかなムチのようなしなやかな触手に絡め取られる。
「何!?」
俺は、思わず驚きの声を上げる。
「フフフ、ハハハハハ! やっぱり引っかかったわね! 果たして、抜け出せるかしら?」
そうスライムクイーンが勝ち誇ったように言う。俺は、その自信を打ち砕いてやろうと思い、俺を絡め取っている触手の根元に刃を近づける。だが、しかし。
「そうはさせないわ!」
そうスライムクイーンが叫ぶと、俺を絡め取っている触手のすぐ隣から、同じような触手が生えてきて、俺の右腕と『妖斬刀・旋風』を絡め取り、俺の行動を阻害してくる。さらに、二本の触手は、締めつけをよりきつくしてくる。俺はそれでも、刀で触手を斬ろうと力を込めるが、触手も締めつけを強くし、俺の『妖斬刀・旋風』に斬られまいと抵抗してくる。と、その時。
触手に絡まれている『妖斬刀・旋風』が、触手に奪い取られてしまう。
「なっ……」
「アハハハハ! ついに刀を奪われて、戦意を喪失したかしら?」
そうスライムクイーンが言ってくる。それに対して、俺は、
「くっ……まだまだ……こんなもんじゃねえ……」
と応じる。すると、
「そう。じゃあ、次は、私の中で教えてあげる。ゆっくり、じっくりとね」
そうスライムクイーンが言うと、スライムクイーンの体の形が変化する。スライムクイーンは、人の形を保っておらず、完全なるスライムの形状へと変化していた。すると、スライムクイーンは、触手ごと俺を取り込もうと近づいてくる。スライムクイーンの体が広がり、俺の全身にヒヤリとした感触が走り、そして……
「捕まえた」
スライムクイーンの声が、俺の耳元に響き渡った。




