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第九章 終わらない地獄 1 地獄の実験

 エミルは、拘束から外されてはいたものの、無事とは言えない状況にあった。

 皮膚は見える限りの所までスライムに覆われ、そのスライムは、エミルの服の中にまで入り込もうとしているようだ。さらに、守護部屋で俺達と戦った巨蜘蛛もおり、巨蜘蛛は、その鋭い足でエミルの服を破り、エミルの皮膚を突き刺す。しかも、エミルの右側からはクロームが、左側からはグレンが、エミルに話しかける。


「私の配下になれば、楽夜とオリクと一緒にいられるの。どう? 私達の配下になるつもりは無い?」

「そん……なの……私が……なる訳ない……」

「そう。いよいよ、痛みを与えないといけないようね。スライム、エミルの全身に刺激を与えて! 巨蜘蛛は、エミルの皮膚が露出しているところを狙って、足を突き刺して!」


 そうクロームが言うと、スライムは、プルプルと震え出す。すると、エミルの顔に僅かに苦痛の色が見えた。

 巨蜘蛛は、自身がエミルの服を引き裂いた所で、皮膚が露出している箇所を探し、足で突き刺していく。エミルの綺麗な肌が、血の色に染まっていく。


「うっ……」


 そうエミルが呻き声を上げる。


「これでも、私に従う気にはなれない?」

「こんなので……あなたみたいな人に……従うわけ……」


 エミルは、それでもクロームの誘いに乗らない。俺としては、そうしてくれた方が、作戦を練る時間も増えるし、その方がエミルを救い出せる確率も上がるのだが、ただ、エミルはその分だけ苦しい思いをすることになってしまう。早く助け出さないと……

 と、その時。クロームが口を開く。


「そう。それじゃあ、あなたの体内にスライムを入り込ませて、体の中からあなたを破壊しちゃおうかしら?」

「え……? うそ、やめて、そんなことされたら、私……」

「やめてあげない。だって、あなたは、私とグレン様の手に落ちる運命なんだから。怖がることも、抵抗することも無いわ。私達のところにおいで」


 そうクロームが囁くように言うと、巨蜘蛛はより一層攻勢を強める。それとほぼ同時に、スライムは薄く広がり、俺から見える部分のエミルの皮膚を覆い尽くす。


「やめて……イヤッ!」


 エミルのその悲鳴を聞いて、ただ呆然とエミルとクローム達を見るだけだった俺の意識は、まるで夢から現実に引き戻されるかのように、現実に戻る。


「クローム、やめろッ!」


 俺はそう大声で叫ぶ。だが、グレンとクロームは、俺のことを全く気にかけていないようだ。


「クローム、気にするな。どうせ、楽夜は動けぬ。エミルはゆっくりと落としていけば良いのだ。」

「その通り、ね。さて、エミル! スライムに体を乗っ取られて、ゆっくりと私達の手に落ちなさい。まずは、腕から。」


 クロームがそう言うと、エミルの両腕に見えていたスライムが、完全に消える。と、体のあちこちについていたスライムを振り払っていたエミルの手の動きが止まる。


「あれ、手が動かない……なんで!?」

「だから、言ったでしょう?」

「クローム、やめて! スライムには染まりたくないの!」

「そのおしゃべりな口には、少し黙っててもらいましょう」


 スライム達がエミルの口を塞ぐ。


「えっ……やめっ……んん!」


 エミルは、スライムによって、声を出すことができなくなってしまう。


「おい、クローム、やめろ!」


 俺は、そうクロームに向かって叫ぶ。が、


「楽夜、エミルは、痛くて、私達に強制的に従わせられるのと、痛くなくて、自主的に私達に仕えるのと、どっちが良いと思う?」


 と言い返され、返す言葉がなくなってしまう。さらに、クロームは、


「これは、エミルへの、私なりの慈悲なの。でも、楽夜がそれをやめろ、と言うのなら、エミルを痛くするしかなくなるのよ。楽夜、どうする? エミルが痛くされて、私達の手に落ちるか、今と同じようにエミルを精神的に痛めつけて、私達の手に落ちるか。エミルが話せない今、選択権はあなたにあるわ。まあ、どちらを選んだとしても、あなたが動けないことに変わりは無いけれど、ね。さあ、選びなさい!」


 俺は、そうクロームに選択を迫られる。どちらを選んでも、エミルが苦しい思いをするのは同じだ。


「そんなの、選べるわけッ!」


 無いだろと俺が続けようとしたその時だった。


「そう。高藤 楽夜、あなたには失望したわ。こんなに簡単な質問にも答えられないなんて。私が思う最適な回答は、もうすでに精神を痛めつけられているから、これから肉体を痛めつける必要は無い、よって、精神を痛めつけて、私達の手に落ちる、が私の思う最適な回答よ。楽夜、それじゃあ、あなたには、エミルがもがき苦しむ様子を、嫌でも見せてあげるわ。」


 クロームがそう言うと、新たな半円が出現し、俺の眉毛の辺りを通って、俺の頭と石造りの壁を固定する。さらに、その半円にまぶたを引っ張られ、俺は目を閉じられなくなってしまい、嫌でもエミルの苦しむ姿を見なければならなくなってしまう。


「じゃあ、次は足ね」


 クロームがそう言うと、エミルの足にまとわりついていたスライムが、エミルの皮膚の下へと入り込んでいく。


「ん……んん!」


 エミルは何か言いたげな様子だったが、スライムのせいで喋ることができていない。


「それじゃあ、最後ね。頭とお腹にスライムが入るわ。」


 そのクロームの言葉の通り、エミルの頭とお腹にスライムが入り込んでいく。


「ん、んん……んん!」


 そうエミルが悲鳴のような声を上げる。


「さて、エミル。これからは、スライムに身を任せて、私達の配下になるつもりはない? 私達の配下になれば、そこの楽夜と一緒にいるよりも、ずっと楽しい生活が送れるわ。さあ、

エミル。私達のところへいらっしゃい」


 クロームがそう言うと、エミルは、ぎこちない動きで立ち上がり、俺の方をチラッと見た後、クロームの方へと一歩踏み出した。


「エミル!」


 俺がそう呼ぶと、エミルは、俺の方を振り返った。が、すぐにクローム達の方へと向き直り、クロームの元へと行ってしまう。


「エミル……」


 俺がそう呟いたのに反応したのか、クロームが俺を嘲笑うようにこう言い放つ。


「残念だったわね。エミルにまでも見捨てられるなんて。もう、あなたを信じてくれる人なんて、いないんじゃないかしら? ア――ッハッハッハッハッ!」


 俺は、その言葉を放ったクロームに対して、顔をしかめる。だが、そのクロームへの苛立ちは、すぐに収まる事となる。

 エミルの体が、エミルのものではなくなりつつあった。血に染まった赤色の肌が、水色へと変わっていく。一目見ただけでも、これはいつものエミルではないと分かった。エミルの体を、スライムが乗っ取っているのだ。

 エミルの体の改変が終わる。顔や体型などは普段のエミルを装っているが、肌はスライムと同じ水色になっており、表情も、いつもとは異なっている。俺が、いつものエミルとどう変わったかを探していると、


「そんなにジロジロ見ないで。私のことがそんなに気になるの?」


 とエミル――厳密には、エミルの姿をした何者か――が、話しかけてきた。俺は、驚きつつも、エミルとの会話を始める。


「……まあ、あながち間違っていないな。お前は何者だ?」

「私は……スライムクイーン。クローム様に仕える、スライムを統べる女王の一人。クローム様に逆らう者は、私の中で徹底的に叩きのめして、クローム様に逆らうとどうなるのか、分からせてあげるわ!」


 そのエミル……いや、スライムクイーンのその声が聞こえたその時、俺の拘束が外れる。クローム達の意図したものなのか、偶然起きた事なのかは分からないが、制限なく動けるようになるのはかなり嬉しい。

 スライムクイーンは、たくさんのスライムを出して、俺を迎え撃つ。俺は覚悟を決め、刀を構えるのだった。

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