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第九章 終わらない地獄 1 地獄の実験

 グレン様は、手始めに、エミルに『パーフェクトヒール』をかけて、気絶状態から意識を呼び戻した。


「あれ、なんで私、こんな壁に貼りつけられて……?」


 と戸惑っているエミルを見ていた俺に、グレン様が近づいてくる。すると、グレン様は、俺の胸に手をかざす。と、俺の胸の中で渦巻いていた支配の(つら)みの感じが、一瞬にして吹き飛んだ。


「さあ、始めようか! まずは、火炎耐性を見るか。『フレア』!」


 そうグレンが言い、左手を俺の方に、右手をエミルの方に向ける。と、グレンの両手から、炎が放たれる。


「くっ……やめろッ……!」

「いやッ……熱い……」


 俺とエミルは、そう悲鳴を上げる。痛い、というよりは、熱い、という方が大きい。しかも、どんどん炎は強くなっていく。俺の体が焼きちぎれる直前、炎は止まった。すると、グレンは、


「休憩だ。『パーフェクトヒール』!」


 と唱え、俺とエミルを完全に回復させる。削られたHPは即座に回復するが、疲労は残ったままだ。


「では、次は、氷耐性のチェックだ。『瞬間冷凍』!」


 グレンがそう唱えると同時に、俺の体は、氷に包まれる。一瞬にして、俺の体の中を冷気が駆け巡る。『フレア』の時との温度差もあり、ただ氷漬けにされるだけの時とは比にならないくらい寒く感じる。

 このままでは氷像にされてしまう――その直前、俺を覆う氷が砕ける。


「休め。『パーフェクトヒール』!」


 グレンは、再び俺とエミルを癒す。


「くっそ……逆らいたいのに……動けねえ……」


 俺は、そう呟く。


「ハア……ハア……」


 エミルもそう息切れしている。


「次は、電撃耐性だ。『ライトニングサンダー』!」


 そうグレンが唱えると、俺とエミルの上に雷雲が発生し、次の瞬間、俺とエミルに、雷が降り注ぐ。


「ああ――ッ!」

「キャ――ッ!」


 俺とエミルは、そう悲鳴を上げ、意識を失い……

 すぐさま意識を蘇らせる。恐らく、グレンがまた『パーフェクトヒール』を発動したのだろう。

 そして、ようやく俺は、この実験の地獄さに気づく。グレンが『パーフェクトヒール』を発動させる限り、俺とエミルは、永遠に実験を受け続ける事になる。しかも、俺とエミルには、エリュンによる生き返り機能がある。つまり、俺とエミルは、5回グレンに殺されるまで、いつまでも実験台にされるという事で……

 それは、実験ではなく、最早拷問だ。しかも、五回殺されるまで、グレンに何をされるか分からない。精神を徹底的に痛めつけてくるかもしれないし、その逆かもしれない。何をされるか分からない状況下に置かれる、それは、俺としてはとても嫌なことだ。

 さて、俺がそう考えている間にも、グレンは次の行動を始めていた。


「行くぞ。『ダークネス』!」


 グレンがそう唱えると、黒い霧が部屋全体に充満する。俺は、最初の内は警戒して呼吸をせずにいたが、流石に苦しくなってきたので、空気を吸う。と、それと同時に、黒い霧も吸い込んでしまう。と、途端に、肺が焼けるような痛みが走る。さらに、


「ゴホッ……ゲホッ……」


 と咳も出始める。

 まさか、この霧、毒ガスなのか?

 俺の脳裏にそんな考えがよぎったその時、俺のその考えに答えるように、グレンが話し始める。


「これは、肺の破壊と咳を促進させる、毒霧だ。人を殺すことだって、いとも簡単にできる」


 だが、今の俺に、そのグレンの話を聞いている暇はない。何故なら、もう息が持たなくなっているからだ。このままでは、酸欠で死んでしまう。

 助けてくれ……俺がそう心の中で叫んだその時、霧がきれいにきれいさっぱり消え去る。そして、これまで通り、グレンが


「回復だ。『パーフェクトヒール』!」


 と唱え、俺の壊れかけていた肺は修復される。だが、心に受けた傷は大きい。

 さて、次はどんな実験なのだろうか。


「次は、死への耐性を見よう」


 えっ、ちょっと待っ……


「行くぞ! 『デスハンド』!」


 グレンが、自らの拳に死のオーラを纏わせ、その拳を俺の体に叩きつける。その拳の直撃を受けた俺が無事で済む訳もなく……

 直後、俺の目の前が真っ暗になる。


「ああ――ッ!」


 俺は、そう叫び、その直後、意識がプツンと途切れたのだった。

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