第八章 楽夜奪還作戦 3 操り人形
俺は、電気を流され、苦痛の表情を浮かべたまま動かなくなったエミルへと近づく。そして、刀を振り上げ、彼女の首に向かって振り下ろし――途中で手を止める。
俺が彼女達と戦う理由、それは、彼女達の目的を確かめる事だ。人は、決して外見だけで内面まで全てを理解することなどできない。内面にまで目を向けなければ、その者の本心と目的は理解できないものだ。
しかし、今思い返すと、敵である彼女達にそんな事を訊くのは間違いだった。それは、敵に隙を見せる事、すなわち、殺してくれ、と相手に願うような事だからだ。だが、彼女達は、俺のそんなつまらない質問にもしっかりと答えてくれた。それは、俺と同じく、敵に自分の隙を曝け出す事だった。だが、彼女達は、それにも怯えず、俺にしっかりと向き合ってくれた。もし、彼女達が俺を完全なる敵と認識していたならば、こんなにも素直に答えてはくれなかっただろう。しかし、もしも、俺が彼女達の仲間だったのだとすれば、辻褄が合う。彼女達は、俺を仲間に引き戻したかったのだろう。だが、俺は、彼女達のその要望に応えられなかった。これは、俺の過誤だ。
それに、俺は、彼女達に、俺の目的の為の情報を教えるという恩を売ってもらった。恩は、いずれか返さなくてはならない。許されない行為かもしれないが……だが、グレン様に仇なす行為ではない以上、きっと大丈夫だろう。
俺は石畳を蹴り、オリクに急接近し、刀をオリクの首筋に当てる。
「――ッ!? 楽夜、どういうつもり?」
オリクは、突然の出来事に、戸惑いと驚きを隠せないようだ。
「俺は、エミルとオリクに恩を受けた。受けた恩は、いずれか返さなければならない。俺は、今から、エミルを守る事で、その恩を返す!」
「何を言っているの? 楽夜も、グレン様に仕える身。その行動は、グレン様への裏切りに値する。」
「だが、ここではっきりさせてもらう。俺もお前も、グレン様に仕える身だ。故に、グレン様の意思に反する行動を取ることはできない。」
「その通り。だから、早くその刀を私の首から……」
オリクが言葉を続けようとするが、俺はそれを遮り、話し続ける。
「だが、グレン様の目的は、異世界人の捕獲であって、異世界人の滅殺ではない。オリク、お前は、エミルを殺そうとしていて、つまり、それは、グレン様の意思に反する行動を取ろうとしているという事だ。対して、俺は、エミルを守る事で、エミルの死亡を防ごうとしている訳だ。まあ、無力化はさせるが、な。それで、どちらの方が、グレン様の意思に沿った行動を取っているか分かるか?」
「それは……」
オリクは、俺に押され、口ごもってしまう。
「俺は、グレン様の意思を大切にするためにも、エミルを守らせてもらう!」
「……分かった。それじゃあ、私は、楽夜を倒し、エミルをグレン様の元に差し出させてもらう!」
俺は、一旦オリクの首筋から刀を離し、オリクと距離を取って、刀を構え直す。それに対して、オリクも、銃口を俺に向けて、俺を警戒しているようだ。
「それじゃあ、行くぞ!」
「かかってきて!」
こうして、俺とオリクの、グレン様に仕える者同士の戦いが始まるのだった。




