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第八章 楽夜奪還作戦 2 光か、闇か

 私は、楽夜へ向き直る。その時には、既に楽夜は立ち上がっていた。服には血が滲んでいるけれど、表情は平穏そのものね。

 そんな事を考えていると、楽夜が話しかけてきた。


「二対一か。不利ではあるな。それでも、俺の目的である、お前達がグレン様に仇なす者かどうかを見極めるというのには反していないから良いが……さて、お前、オリクというようだな。」

「ええ。」

「俺が訊きたいのは一つ。何故、お前は、グレン様の下を離れた? 忠実なる主から離れるのは、お前にとっても不本意なものだった、と俺は考えるが?」


 どうやら、楽夜は、私には興味が無さそうね。下手に口や手を出すと、楽夜だけでなく、オリクの逆鱗にまで触れる事になりそうだから、今は黙って話を聞いておく事にしましょう。

 さて、楽夜の質問に、オリクが答える。


「グレン様から逃げた訳ではなく、偶然支配が解けた……などと言っても、あなたは納得しないでしょうから、本当の事を話させてもらう。あの日……約2か月前、私は、五大魔物の調査を命じられた。でも、それは、無茶な任務だった。当然と言えば当然だけれど。それで、私は、主に逆らって始末される事を恐れて、調査へと向かった。私は、支配国の魔の霧を抜ける事には成功したけれど、内部の巡回部隊に見つかって、ニャロニードとの戦闘に持ち込まれた。私は、集団で戦ってきたニャロニード達に押され、最終的には敗北してしまった。私は、死の恐怖と、任務失敗の屈辱から、私は、任務を放棄して、逃走に走った。この世界のほぼ全体を駆け回って、ニャロニードの追手と、自分の責任から逃げ回った。と、途中で、グレン様との『支配の糸』がプツリと途切れた事に気がついた。グレン様の下を離れ、自由の身となった私は、既に心身ともにボロボロで、休まずにすぐ動けるような状態では無かった。けれど、そのまま外で休んでいたら、魔物に襲われて、やられてしまう。だから、私は、どこかに匿ってもらおうと考えた。そして、数時間這いずり回って、やっと見つけた場所、それが、エミル達の迷宮。そこには、楽夜、あなたもいた。」

「馬鹿な。そんな訳がない。」

「いえ、記憶の片隅に、私達と過ごした日々があるはず。過去に目を向けて、深く集中して。」


 オリクは、そう言って、楽夜に、記憶を振り返ってみるように促す。


「俺は……グレン様に仕える前……気を失って……あれ、その前、俺は一体何を……ん……んん……あああッ!」


 と、突然楽夜が叫び出した。と、その時。


「オリク――! 良くも楽夜を苦しめてくれたな! くらえ! 『マリオネット』!」


 グレンがそう言うと、オリクの体が、空中に引き上げられる。


「――ッ!」

「オリク!?」


 そうオリクが驚くのと、私が叫ぶのはほぼ同時だった。


「どうやら、元の我の支配下に戻りたいようだな。それなら、激しく止めようがない痛みを与え続けて、自我や感情さえも消し去ってやろう! 『マリオネットショック』!」


 そうグレンが唱えると、オリクの表情が苦痛で歪んでいき、そして、


「うっ……くっ……やめて……」


 と呻き声を上げ始める。


「オリクよ! 痛みに苦しみ、泣き叫べ! 我の忠実な配下となるのだ!」


 そうグレンが言い放つ。


「いや――ッ!」


 そうオリクが叫ぶ。と、オリクの変化が私の目に映る。

 オリクの目から光が消え、瞳が漆黒に染まる。苦痛に歪んでいたオリクの顔も、無の表情へと戻る。痛みを加えられている表情とは思えない。これは……


「オリクよ、エミルを無力化させろ。」

「了解致しました、グレン様。」


 やっぱり、ね。オリクが、グレンの手に落ちてしまった。これは、決して許される行為ではないわね。


「よくもやってくれたわね、グレン。私の仲間を二人も奪うなんて……許さないわ!」

「ほう? だが、我に挑む前に、倒すべき敵がいるのだろう?」


 そうだ。グレンに挑む前に、まずは、オリクを正気に戻さなきゃいけないんだった。大変だけれど、大切な仲間の為だ。やれる、やれない、じゃなくて、やらなくちゃ。

 私は、オリクに立ち向かうのだった。

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