第八章 楽夜奪還作戦 2 光か、闇か
楽夜は、刀を構えたまま動く様子は無かった。ずっと動かないのか、と思ったその時、私の腹に激痛が走る。その時には、すでに楽夜の姿は掻き消えていた。
後ろを振り返ってみると、さっきまで私と向かい合っていた楽夜の姿があった。でも、そこまでで、楽夜が動いたような様子は見受けられなかった。という事は、楽夜は、私の認識可能速度を超えた速度で動いて、私に攻撃を加えた可能性が高いわね。
さて、今の一撃で、甚大な、という程では無いけれど、少なからずダメージを受けてしまった。まだ余力は残っているけれど、何発もくらうのは避けたいわね。そして、やられたままでは終われない。私は、ハンマーを構えたまま楽夜に突撃し、無詠唱で『大星破壊』を発動しようとして、楽夜に向かってハンマーを振り下ろす。けれど、その時。
私の手が、途中で止まった。ハンマーが楽夜に触れるよりも前に、私の手がピタリと止まってしまった。と、楽夜が、私の体に斬りつけてくる。
「キャァ!」
私は倒れ、石畳の上をゴロゴロと転がる。と、楽夜が私を見下ろして、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。
私は、ハンマーを杖代わりにして立ち上がり、再び楽夜と対峙する。今度は、楽夜が攻撃をしてくる時に、反撃をする形で向かい合いたいわね。なので、私は、『ハンマーカウンター』を発動して、楽夜の攻撃を待つ。と、ほんの一瞬だけ、楽夜が動いたのを感じた。楽夜の攻撃地点を予想して、そこにハンマーの柄の部分を構える。と、その時、ハンマーを握っていた私の右手に、硬い衝撃が走る。私は、口元に笑みを浮かべながら、衝撃を感じた地点に向けてハンマーを振り上げる。と、何かを跳ね飛ばしたような感覚が確かにした。恐らく、楽夜へのカウンターが成功したのだと思うわ。……でも、やらなきゃやられるのは分かってるけれど、楽夜を手にかけるのは……いえ、今は戦いに集中しなくちゃ。
楽夜は、私から離れたところで様子を窺っているようね。私から仕掛けに行こうかしら。
私は、ハンマーを振り上げてから、楽夜に近づき、楽夜に向けてハンマーを振り下ろす。けれど、楽夜に命中したような感覚はしなかった。確かに楽夜に当たるように振り下ろしたはずなのに……
と、突然、私の体に、水が纏いついてきた。その水は、私の肩からつまさきまでを覆った後、一瞬にして弾ける。と、水が纏いついていた所に、痛みと痒みが走る。私は、思わず座り込んでしまった。慌てて立ち上がろうとしたけれど、痒みを堪えきれず、なかなか立ち上がる事ができない。すると、楽夜が、私の首筋に刀を当ててくる。
「グレン様の目的は、異世界人の捕獲だ。殺害ではない。だから……許せ!」
楽夜は、そう言うと、刀に電気を纏わせる。そして、楽夜の刀に触れている私の首筋から、その電気が流れ込んでくる。私の体を激しい痛みが貫き、これでは、意識を保つのも……
と、その時。
石造の部屋に、銃声が響き渡る。その音で、途切れかけていた私の意識は、現実へと引き戻された。さらに、私の体に電気を流していた楽夜の刀も、私の首筋から離れた。私は、まだ体に残る痒みを堪えながら立ち上がる。けれど、体中に残る痒みが気になって、戦闘に集中できない。と、楽夜が刀を構えながら、私に突進してきた。私は、この後体に走るであろう痛みに怯えて目を瞑る。と、その時。再び銃声が部屋中に響き渡る。私が目を開けると、楽夜は、胸を押さえて、石畳に膝を突いていた。
「エミルは……あなた達の物にはさせない! 例え、相手が楽夜だろうと手加減しない……楽夜とグレンは、私のこの手で倒す!」
オリクは、いつもと雰囲気が大きく異なっていた。いつものような無口さは見る影もなく、また、冷静さまでもを失いつつあるように見えた。あからさまにいつものオリクとは違うと分かっているけれど、今のオリクと協力しなければ、楽夜への勝機は無いわね。
「オリク、行きましょう!」
「ええ!」
私は、オリクとそう会話を交わし、楽夜へと向き直った。




