第八章 楽夜奪還作戦 2 光か、闇か
私は、ふと意識が戻ってきた。目を開けると、石の天井が真っ先に目に入った。私は、起き上がって周りを見回す。
辺りは、さっきの通路とは違い、円形になっていて、通路よりもずっと広い部屋になっていた。でも、オリクは天井から伸びるアームに両腕を掴まれたままで、シュートは氷像のままだし、レックスも影の手に襲われているままだった。しかも、後ろを振り向くと、電気を纏った鉄の棒のような形をした機械が、私の背中の近くで待機していた。
さらに、前を向くと、王座があって、その王座に、一人の男が座っていて、その王座の両脇には、クロムとクロームが控えていた。
と、王座に座る男が口を開く。
「やはり来たか。お前がエミルか。その仲間が二人と、それと……」
男は、そこまで言うと、視線をさ迷わせ、そして、視線をオリクで固定させる。そして、
「オリク、我から逃げるとは、どういう事だ?」
とオリクに向けて言い放つ。
「グ……グレン様……」
なるほど。この男がグレンなのね。
オリクは、グレンを恐れているようだった。仕えていた主から逃げて、そこに戻って行くなど、普通に考えると、自ら死にに行くようなものなのだ。それを恐れずに私の判断についてきてくれたのだから、オリクには、本当に感謝しなければ、ね。
さて、グレンは話し続ける。
「死んだかと思って支配を解除してみれば、今度は敵になって帰って気おったか……良いだろう、我のこの手で葬ってやろう! クロム、クローム、オリクをアームから下ろして、捕らえろ!」
「はい!」
「承知致しました!」
クロムとクロームは、そう返事をすると、オリクをアームから下ろし、オリクが動けないように、腕と足を掴む。そして、グレンは、拳に闘気を纏わせ、オリクに近づいていく。
早くオリクを助け出さないと、とは思うのだけれど、今は動くことができない。何故なら、動けば、後ろの機械に電気を浴びせられて、無力化されるのは明白だから。でも、早く助けないと……
と、その時。
「グレン様、この者の拘束が終わりました!」
「よし。さあ、オリクよ! 我から逃げた罪を、永遠の痛みで償え! 『永呪痛殺拳』!」
そうグレンが唱えると、グレンの拳が、闇色に染まる。そして、グレンが拳を握り締め、オリクに向かって拳を突き出す。私は、現実から逃げるのは卑怯だと知っていながらも、この後目の前で起こる惨状から目を背けて、オリク、ごめん……と心の中で謝り、オリクの死に恐怖して……
と、次の瞬間。
何か硬い物と硬い物がぶつかり合ったかのような音が、私の耳に届いた。でも、オリクの悲鳴は聞こえてこない。私は、恐る恐る目を開けてみる。と、オリクの前に、誰かが立ち塞がっていた。そして、その誰かが盾を構えて、グレンの拳を受け止めていた。でも、一体誰が……
私が顔を上げてみると、グレンの拳を受け止めていたのが誰か分かった。
盾を構えて、グレンの拳を受け止めていたのは、楽夜だった。
私は、楽夜はまだ支配されていないのだと思い、表情を喜びに染めた。でも、すぐに、それは甘い考えだと私は知る。
「楽夜、何故我の拳を止める? 楽夜、お前は我の配下であろう?」
とグレンが言った。それを聞いた私の顔から、笑みが消えた。楽夜は、グレンにすでに支配されてしまっていたの。でも、それなら、何故、オリクを庇ったの……?
と、楽夜がグレンに対して自分の意見を述べ始める。
「俺は、確かにグレン様の下についています。ですが、あくまでも、グレン様の今の目的は、異世界人の捕獲でしょう? 裏切り者の始末ではありません。
さて、それでは、彼女らの目的は何なのでしょう。ヒューリ城の占拠……という訳ではまず無さそうです。ですが、彼女らは、強い信念を持ってここに来ています。……グレン様、この俺、高藤 楽夜が、彼女らが、グレン様を邪魔する者なのか、否か。いわば、光か、闇か。それを、俺が戦って判断しようと思うのですが、出撃許可を頂けないでしょうか?」
「……」
「返事が無いのなら、暗黙の了解と見なしますが……」
「分かった。楽夜の出撃を許可する。ただし、無理をするな、そして、出し惜しみをして負けるなよ?」
「勿論承知しています。さて……」
楽夜は、そこまで言うと、私達に向けて刀を構えて、そして……
「今言った通り、お前達の相手は俺がする。お前達が、光か、闇か、俺のこの目で確かめさせてもらう!」
と、言い放つ。
どうやら、戦闘は避けられなさそうね。
私は、立ち上がり、鉄の棒が動かない事を確認し、ハンマーを構えて、楽夜に立ち向かうのだった。




