第七章 ヒューリ城 3 楽夜、覚醒
俺は、新たな刀、『妖斬刀・旋風』を手に、ジュリンに立ち向かう。
「あら、楽夜。もう復活したのね。また私に痛めつけられに来たのかしら?」
そうジュリンが、俺への煽りを含めて言うが、俺は焦らず、
「いや、俺は、強くなって、お前を倒すためにここにいる! ジュリン、お前は、俺を斬る!」
俺がそう言うと、ジュリンは、俺の持つ刀に目を向け、顔をしかめる。
「楽夜、あなた、その手に持っているのって、まさか……」
「これか? これは、『妖斬刀・旋風』だ。クロムによると、この刀は……」
だが、俺のその言葉は、途中で遮られる。
「やっぱり、それは妖斬刀なのね。どうやって手に入れたのかは知らないけど……少なくとも、あなたのような未熟者が持って良いような代物ではないわ。今、ここであなたを倒して、脅威を消してあげるわ! 行くわよ!」
ジュリンの纏う気配が一瞬にして変わった。先ほどまでは、俺を軽く見ていたようだが、今は違う。ジュリンは、俺を、完全なる脅威として認識しているようだ。
そして、ジュリンが本気で俺に向かって来ることで、俺の、この戦いに対する意識も変わっていく。これまでは、少し過激な模擬戦だと思っていたのだが、今では、危機感を抱くようにまでなった。それほどまでに、ジュリンが本気を出すというのは、恐ろしい事なのだ。
さて、俺とジュリンの激しい攻防が始まる。十本ほどの樹木が、炎を纏い、俺を囲む。だが、俺は、『回転斬り』でその樹木達を斬り倒す。だが、その後ろから、新たな樹木達が出てきた。すると、その樹木達が爆発し、俺を襲う。しかし、詰めが甘い。俺の背後までは包囲しきれていなかったのだ。俺は、後ろに後退り、逃げようとした。だが、その時。後ろから強い衝撃を受け、背中に激しい痛みを感じながら、石の壁に向かって、一直線に飛んでいく。俺は、その時に、何が俺を突き飛ばしたのかを見た。
光の手の形が、まるで、デコピンをした後の手のような形に変わっていた。きっと、光の手は、俺の背中をデコピンし、その勢いで、俺を突き飛ばしたのだろう。
そう考えている内に、俺の体が、石の壁に叩きつけられる。俺は、あまりの痛みに、顔を歪める。と、すぐに俺の体は、石畳へと落下を始める。俺は、また激しく体を打ちつけ、けがをするのかと思い、身構えたのだが、そうはならなかった。
樹木達が絡み合い、器のような形になり、俺を優しく受け止める。すると、俺の元へとジュリンが近づいて来て、こう言う。
「あなたを殺すのは後にするわ。それよりも、もっと効率良く、手っ取り早くあなたを無力化させる方法があったから、そこで見ておきなさい。」
すると、ジュリンの手が樹木に変わり、それが、俺の持つ『妖斬刀・旋風』に向かって振り下ろされる。俺は、とっさに腕を動かし、刀への攻撃を避ける。と、
「動かれては困るわね。ちょっと痛くさせてもらうわ。」
そうジュリンが言うと、俺の腕や体が、樹木の器に拘束されてしまう。これで、『妖斬刀・旋風』を守る物が無くなってしまった。もう一度、ジュリンの腕の樹木が振り下ろされる。マズい――そう俺が思った時だった。
「はぁ――っ!」
その気合いの声がしたかと思うと、ジュリンの腕の樹木が、何者かの剣によって受け止められた。
「楽夜、私も手伝うから、さっさとケリをつけましょう!」
そう声を発したのはクロムだった。




