第七章 ヒューリ城 3 楽夜、覚醒
その戦いは、楽夜対ジュリン戦とは比べ物にならないほど過激に繰り広げられる。
クロムの『ムチの雨』を、樹木達が防ぐ。その樹木達を使い、ジュリンが、『樹林化―炎―』を発動するが、クロムは、その攻撃の全てをかわす。クロムがジュリンに急接近し、剣を振るうも、これも樹木に阻まれ、ジュリンには届かない。その間に、クロムの背後に樹木が迫るが、クロムはそれに気づき、一刀の下に切り捨てる。
二人の動きは、一つ一つが洗練されており、無駄がない。その上、ジュリンもクロムも、知能が非常に高く、戦略を立てるのに向いている。それだけでなく、二人とも、力量も申し分ない。そのため、二人の戦いは、力同士のぶつかり合いに見えても、実際は奥が深い頭脳戦になっているのだ。だが、お互いの知能の高さはほぼ互角で、お互いが考えている事も、なんとなく分かる。そのため、互角の戦いを演じる事ができている。だが、どちらかが、相手が考えもしないような攻撃を繰り出した場合、現在の戦況は、大きく崩れる事となる。
ジュリンが、石畳の下に樹木を生えさせ、その樹木をクロムの足元に移動させる。そして、一瞬にして、クロムの右足首に樹木が巻きつく。
「――ッ!?」
クロムは、足首に巻き付いた樹木を、必死で引き剥がそうとする。が、樹木は、強く巻きついており、なかなか外れない。さらに、他の樹木達が、クロムの両腕と左足にも巻きつく。と、クロムの両手両足に巻きついた樹木達が、クロムの両手両足を引っ張り始める。両手両足を引っ張られたクロムは、苦痛の叫びを上げる。
「ああぁ――ッ!」
だが、ジュリンは、その叫びを聞いても、油断することはなかった。ジュリンは、前回の楽夜戦で、油断大敵だと学んでいたのだ。ジュリンは、より一層、攻勢を強めていく。
ジュリンは、無防備となったクロムに向かって跳躍し、クロムの足元の近くに新たな樹木を呼び出す。そして、自身は、その樹木の上に着地し、クロムに顔を近づけ、こう言う。
「楽夜を殺させまいと飛び出してきたのは良いけど、自分が殺されてしまうなんて、惨めね。」
それを聞いたクロムは、力無く反論する。
「私は……まだ終わってないわ……まだ……あなたを殺すことだって……」
だが、ジュリンは、それを聞くと、樹木に、クロムの両手両足を引っ張る力を強めさせる。そして、こう言う。
「まだ、そんな戯言を言う力が残っていたのね。せっかくだわ、長い時間をかけて、ゆっくりといたぶってあげるわ。」
それを聞いたクロムは、ジュリンに対して怯えているようだ。楽夜と戦っていた時の、絶対に勝てるという余裕が消え去り、ジュリンに恐怖心を覚え、ビクビクしているようだ。
と、ジュリンは、クロムから離れ、それと入れ違いに、棘を生やした大勢の樹木達が前に出た。そして、樹木達が、クロムに牙を剥く。
両手両足を引っ張られ、抵抗ができないクロムの体に、棘がチクチクと刺さり、クロムが、苦しそうな表情を浮かべる。両手両足を引っ張られる力も強まっていき、クロムの体力は、限界に近づいていた。
と、その時、
「これで終わりにしてあげるわ!」
とジュリンが叫び、これまでの樹木の比ではない量の棘が生えた樹木が振り下ろされた。
クロムは、死を覚悟し、目を瞑る。その身を貫く痛みを待ち受けながら、その時を待つ。
が、どれだけ待っても、その痛みはやってこない。クロムが恐る恐る目を開けると、そこには、頼れる背中があった。
「いつまで目を閉じているのだ。後は我に任せて、クロムはそこで見ていろ。」
その声を聞いたクロムは、その男の名を叫ぶ。
「グレン様――ッ!」
この男の登場によって、戦況は大きく変わる事となる。




