第七章 ヒューリ城 1 捕らわれの楽夜
俺は、五分ほどクロームとクロムの後をついて行った。すると、ある場所に跪かされた。そこは、立派な王座の前だった。目を凝らすと、その王座に座る者がいるのが見えた。その者が、口を開く。
「お前が新たな客人か。」
その者がそう声を発しただけで、辺り一帯に、緊張した空気が張り詰めた。
「我が名はグレン。ここヒューリ国の、30代目の王だ。」
そうグレンが名乗った。俺も名乗った方が良いんだろうか――などと考えていると、グレンが、言葉を続ける。
「お前が、クロムから聞いた、異世界人とやらか。見た目はただの平凡な冒険者のようだが……お前、ステータスを見せてみろ。」
俺は、そう言われたので、グレンにステータスを見せる。と、グレンは、突如、
「ハーッハッハッハ!」
と笑いだした。俺は、何事かと思い、ビクッとした。そして、グレンの笑いが収まると、グレンは、俺に向かってこう言う。
「お前、何とも不思議なやつだ。謎の呪いをかけられ、レベル86にしては、ステータスもかなり低い。だが、究極の技、『オーバーブレード』を修得していて、武器も、最高級の物で揃っている。非常に興味深いな。」
そうグレンに褒められた。……多分。
「グレン様、それで、楽夜については、いかが致しましょうか。」
そうクロムがグレンに訊いた。グレンは、下を向いて少しの間考えた後、顔を上げ、俺にこう言う。
「良いだろう。お前は、今から、我の配下に加えてやる。我の配下に加われる事、誇りに思うが良い!」
すると、俺の体に、不思議な感覚が走る。自我や自由意思は残されているし、体の主導権も、ちゃんと俺にある。それなのに、クロム達や、グレンの事が、敵とは思えなくなっていたのだ。
「さて、クロム、話がある。我の前に出よ。」
そうグレンがクロムに声をかけた。クロムは、言われた通り、グレンの前に出る。
「クロム、いつの間にか仲間が増えているのは、まだ許容しよう。そいつ――いや、クロームは、我らの事を裏切る心配は無いのだろう?」
「勿論でございます! クロームは、私の忠実なる妹で、グレン様の忠実なる配下です。私がグレンに仕えている以上、クロームが裏切る心配は無用かと……」
「なら良い。それで、次が本題だ。我は、異世界人を二名連れて来いと言ったはずだ。だが、今、この場には異世界人が一人しかいない。これは一体どういう事だ?」
「それは……手短に、隠密に任務を遂行する予定だったのですが、催眠魔法をかけるのに失敗してしまい、戦闘に移行してしまい、結果、楽夜の無力化には成功しましたが、エミルの方は、大変手強く、深い手傷を負ってしまい、無力化にも失敗し、これ以上の戦闘は我々の損になると判断し、撤退してきた次第であります。」
「そうか。クロム、お前の幹部昇格は保留にしよう。今後の活躍に期待するぞ。さて、クロム、こいつを、訓練場へ連れて行ってくれ。厳しく頼むぞ。」
「承知致しました。楽夜、行くわよ。」
「お手柔らかにな……」
俺は、クロムの後をついて行った。




