第七章 ヒューリ城 1 捕らわれの楽夜
俺は、ふと意識が戻った。俺は、石畳の上に寝かされていた。が、そこがいつもの守護部屋の石畳の上では無いのは明白だった。
俺が寝かされていたのは、三方を石造の壁に囲まれ、残りの一方を鉄格子に閉ざされた、天井までの高さが10メートル以上もある、巨大な牢獄の中だった。
と、鉄格子の近くに立っていたクロームが、俺の目覚めに気づいたのか、声をかけてきた。
「あら、もう起きたのね。流石は『パーフェクトヒール』ね。あっという間に傷が癒えて、目覚めるまでの時間も短くなるとは、ね。さて、それじゃあ、我が主の元へ行くわよ。」
「何故だ?」
俺は、そう問い返す。と、クロームから、驚きの答えが帰ってきた。
「勿論、我が主に、楽夜を生かすか、殺すかの判断を下してもらう為よ。」
それを聞いた俺は、呆れと怒りを感じた。
「何で、お前達の主に、俺が生殺与奪権を差し出さなきゃならないんだ?」
内なる怒りを押し殺しながら、俺がそう問うと、クロームが、
「それは、すでにあなたは私に誘惑されているからよ。私は、我が主に仕えていて、あなたは、私に誘惑されている。これが意味する事が何か、楽夜なら分かるわよね?」
とクロームが言った。俺は、
「つまり、俺は、その『我が主』ってのに仕えているも同然、って事か?」
と答える。
「正解よ。あなたは、我が主に仕え、私にも仕えているの。そして、仕えている以上、もう、あなたは、我が主にも、私にも、逆らえないの。」
「そうか。だが、そう言われて、俺が素直に従うとでも思ったか!」
俺は、そう言い、刀を抜き、鉄格子越しに、クロームに斬りかかる。が……
「楽夜よ、ひれ伏しなさい。」
そうクロームが指示をした途端、俺の体の所持権が、クロームに奪われた。厳密に言うならば、体を自分で動かせなくなり、俺の代わりに、クロームに体を動かされている、とでも言うべきか。
俺は、クロームの目の前に迫った次の瞬間、石畳の上にひれ伏していた。
「なっ……」
「ふふふ、体は素直なみたいね。流石はクロームの誘惑ね。たとえ、対象が明確な拒否意志を持っていたとしても、クロームには逆らえないようね。」
そう言い、クロムが俺の背後から出てきた。どうやら、さっきクロームが言っていた通り、クロームには逆らえないらしい。
「さて、もうそろそろ時間かしらね。ついてきなさい、楽夜。」
俺は、そうクロームに指示され、クロムによって開けられた鉄格子の戸を通り、クロームの後をついていく。
果たして、クローム達の主の判断はいかに……




