第六章 襲撃者達 2 悪夢連行
「キャァァ――!」
エミルは、そう叫んだ所で、悪夢から覚めた。エミルは、自身の身の無事を確かめた後、楽夜の方へ目を向ける。楽夜は、クロムとの激しい戦いをしているものの、別にケガを負っている訳ではなさそうだ。ひとまず安心したエミルなのだった。
そんなエミルに、クロームが話しかける。
「ねえ、エミル。今、あなたは、悪夢を見て、どう思った? 痛い、苦しい、助けて、そんな事を考えていたのよね?」
「……」
「そう。じゃあ、良い事を一つ教えてあげるわ。私達についてこないと、今の悪夢は現実になるわ。あなたと楽夜が、今の悪夢と同じ、悲惨な結末を辿る事になるの。」
「そんな……そんな訳……」
「別に、私は、口から出任せだとか、ハッタリだとか、そう言った事は言っていないわよ。その証拠を見せてあげるわ。『従虫』、召喚!」
クロームがそう唱えると、先ほど、エミルが悪夢で見た通りの、クモ型のバケモノが出現した。
「どうして……?」
エミルがそう唱えると、クロームが、こう答える。
「何故、さっきの悪夢に出てきた虫がここにいるのかって? それは、さっきの悪夢の虫は、私が召喚したものだからよ。さあ、どうする? エミルが素直に私に従うのなら、この虫は、召喚解除してあげるけど、従わないなら……どうなるか分かっているわよね。さあ、どっちにするか、選びなさい!」
クロームのその言葉がエミルの耳に届くと、エミルは、冷静に考える。
(このままだと、負けてしまうわね……あのクモのバケモノが放たれたら、尚更ね。でも、ここで私が諦めちゃったら、楽夜が、クロムとクローム、どっちも相手しなくちゃいけなくなって、結局、負けてしまうわね……どうする私……勝機のある方は……)
そこでエミルは気づく。どちらを選んでも、現状、勝機は無いのではないか、と。唯一、勝ち筋が見えるであろう事象と言えば、オリク達の目覚めだろうか。だが、まだ、戦闘開始から、一時間ほどしか経っていない。オリク達の目覚めには、後半日ほど待たなければならない。
となると、時間稼ぎをしなければならないが、どちらの方が時間が稼げそうか? とエミルは考える。
(私が諦めたら、楽夜の負担が増えてしまうから、すぐ負けてしまうわね……でも、私が戦う選択をしたら? もしかすると、私次第で、勝てるかも知れない。と考えると……)
エミルは、自身が導きだした、最善の答えを口にする。
「そっちの軍門に下る気は無いわ。負け戦だとは分かっているけれど、すぐに諦めるつもりは無いわ!」
エミルは、そうクロームに向けて言い放つ。と、クロームは、
「そう。自ら死を選ぶのね。良いわ。エミルが死ぬ前に、私が誘惑してあげる! 『従虫』、解放!」
とクモのバケモノに指示をする。と、クモのバケモノは、エミルに向かって、襲いかかって行く。
エミルは、ハンマーを構え、それに立ち向かうのだった。




