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第六章 襲撃者達 1 二人の少女

 夜が明けた頃、この守護部屋に、新たな客が訪れる。その客により、俺達は、大混乱へと陥れられる事となる。


      ・・・・・・・・・


 俺達が鎧蛇を倒してから、半日ほど経った頃。俺は今、エミルと交代で見張りをしている。

 大扉の隙間から、陽が差し込んで来た。そろそろ、朝がやって来るようだ。

 と、その時。大扉が、何者かによって、ゆっくりと開けられる。

 日光が、部屋の中にも入り込み、この部屋も、朝を迎える。それに気づいたのか、エミルが起き出してくる。

 大扉を開けた者は、ゆっくりと歩を進める。


「……誰だ。」


 そう俺が問うと、その者は、歩を止める。


「初めまして、ね。高藤 楽夜。」


 俺は、その言葉を聞いた途端、ドキッとした。


「どうして……その名を……?」


 俺の口から、思わずその問いが漏れ出た。が、その問いに対する、返答は無い。


「私は、クロム。見ての通り、人間よ。で、こっちは、私の妹、クロームよ。元は、人間だったけど、今は、悪魔にとりつかれて、悪女になっているわ。」


 そうクロムは名乗ってきた。俺は、


「クロム達の目的はなんだ?」


 と訊く。すると、驚きの答えが返ってくる。


「良いわ。教えてあげるわ。私達の目的は、異世界人の捕獲よ。」


 クロムは、そう言った。が、ここで、俺とエミルが異世界人だと言う事がバレてしまうと、最早、迷宮の守護どころではなくなってしまう。それだけは阻止しなければ。


「何を言っているんだ? ここで俺達は迷宮の守護をしているが、この中に異世界人なんて、一人も――」


 そう言ったところで、俺は、続く言葉を飲み込む。――否、正確に言うならば、続く言葉を飲み込まざるを得なくなったと言うべきだろう。クロムが、


「嘘を言わない方が身のためよ、高藤 楽夜!」


 と言い、オレンジ色のオーラを纏った剣を、俺の首筋に当てられたので、俺は、黙らざるを得なくなったのだ。


「私は知っているのよ。高藤 楽夜と、ナリ・エミル。あなた達、異世界人なのでしょう?」

「なんでその事を……」

「聞いたのよ。ある一人の男からね。その者は、あなた達の名や居場所、ある程度の情報について知っていたわ。まあ、こんなに仲間がいるとは聞いてなかったし、エミルがハンマー使いだとは聞いていなかったけどね。で、今は、目的の話だったわね。私は、異世界人に対して、強い恨みを持っているの。何故かって? 私は、七年前、五大魔物襲撃騒動で、両親を殺されたの。その時に、ある噂を聞いたの。五大魔物は、五人の異世界人によって支配されていた、と言う噂をね。その噂を聞いた時、私は、異世界人への復讐を決意したの。いつか会ったら、絶対に両親の仇を討ってやるってね。それから七年経って、今に至るの。さて、もう、お喋りの時間は終わりよ。クローム、私は、戦闘準備をしておくから、クロームは、『誘言』で、二人を誘惑させておいて。」

「了解!」


 そう言い、クロームが、俺達の前に進み出てきた。


「エミル、絶対に惑わされるなよ。」

「分かってるわ。」


 俺とエミルは、そう会話を交わし、クロームの方へと目を向ける。と、すでに準備はできていたようで、早速、クロームが話しかけてくる。


「ねえ、楽夜、エミル。ここで和解して、私達と共に歩んでいこうと思わない?」


 クロームの声は、耳から入ってくるのではなく、直接精神に流れ込んできた。が、俺もエミルも、この感覚は体験済みなので、戸惑う事はない。


「どういう事だ?」


 と冷静にクロームに問いかける。


「私達の目的は、異世界人の捕獲だけど、復讐をしたいからと言う理由だけじゃなく、もう一つ、理由があるの。そのもう一つの理由は、ある人物に命じられているからなの。で、できれば、戦いたくは無いし、あなた達にとっても、戦わない方が、良いはずなの。」

「何故だ?」

「無傷で来れば、敵対の意思無しと見受けられて、ある程度自由の残った支配になるかもしれない。でも、大ケガをした状態で、支配者の前に行けば、私達と激しく戦闘した事から、敵対の意思ありと見受けられて、自由意思を持たせない、完全なる支配になってしまう。それに、痛い目を見ずに済むのだから、そっちの方が好都合でしょう。どう? 私達と一緒に行動するつもりは無い?」


 そうクロームが訊いてきたが、俺の返事は勿論ノーだ。オリク達を置いて、ここを離れるなんて、とてもできたことじゃ無いし、支配されたら、何をされるかわからない。ならば、こいつらと戦って、勝機に賭ける方がまだマシだ。


「その提案に乗るつもりは無い。自由を求めて仲間を見捨てるくらいなら、最後まで戦い抜いて、お前達に傷を負わせる方がマシだ!」


 そう俺は言い放つ。


「そう。残念。私がせっかく最善の提案をしてあげたのに、自ら破滅の道を選ぶなんて。愚かね。これから地獄を見せてあげるわ。楽しみにしておきなさい。」


 クロームの雰囲気が変わった。その言動が、急に大人びたものへと変わったのだ。何があったのだろうか――と思ったが、それどころではなかった。

 クロムが、右手に剣を、左手にはムチを構えてやってきたのだ。


「クロム、交渉は決裂したわ。」

「分かった。そんな愚か者には、地獄を見てもらいましょう。」


 クロムがそう言い、俺の前に立つ。


「クローム、私は、楽夜を相手するわ。クロームは、エミルを相手して。」

「了解。」


 クロムが、剣を構える。


「行くわよ、高藤 楽夜!」


 こうして、俺達と、クロム達との戦いが始まるのだった。

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