幕間 襲撃前夜
クロムが、四日前、散歩へと出かけた時だった。全身黒ずくめの男から、
「君に聞いてもらいたい話がある。ついて来てくれ。」
と声をかけられた。クロムは、何でよ――と反論しようとしたが、ハンマーを構えられて、仕方なくついていった。
男に連れて来られた場所は、王都の外れの森だった。
「それで、話って何なのかしら?」
そうクロムが訊くと、
「この話は、この世界全体を混乱の渦に巻き込むほど、影響力の強い話だ。くれぐれも他言しないでくれ。」
と前置きをしてから、話し始めた。
「実は、普通ではあり得ないし、信じられないだろうけど……異世界人が出現したんだ。」
「なんですって……?」
クロムは、そう驚きを隠せない様子だ。何せ、異世界人が存在していると言う事が確認される事など、実に、500年ぶりの事だからだ。
「嘘だと思うだろ? だがな、俺は、その姿をこの目で確認し、一緒に行動した。」
「嘘でしょう……」
「異世界人は、二人も出現した。その異世界人の名は、一人は、高藤 楽夜で、もう一人は、ナリ・エミルだ。楽夜は、刀使いで、エミルの方は、術使いだ。ところで、君は、異世界人に対して、強い恨みを持っているようだが、何か、そんなに嫌なことがあったのか?」
そう男に訊かれて、クロムは、話し始める。
「実は……私、七年前の五大魔物襲撃騒動で、両親を亡くしてしまっていて……その時に、五大魔物は、異世界人に支配されていると言う噂を聞いたの。その時の事が頭から離れなくて……」
そうクロムが明かすと、男から驚きの返答が返ってきた。
「実は、俺も、昨日、五大魔物の配下に殺されたんだ。まあ、その途中で、知らない男が介入して来て、俺がその男配下になる事を条件に、生き返らせてもらえたんだけどな。」
と言う答えだった。それを聞いたクロムは、
(五大魔物の配下に殺されたですって!? ここ王都は、五大魔物支配国から遠く離れているのよ……? それなのに、何故……?)
と考え込む。と、そこに、男がある提案をしてくる。
「なあ、君も、俺と同じく、あの男の下についてみないか? あの男の下につけば、楽夜達異世界人と、決着をつけられると思うんだが、どうだ?」
クロムは、その提案を聞くと、深く考え込む。
(確かに、この男の言う通り、その男の下につけば、異世界人との決着をつけられるかも知れない。でも、これは、人生を賭けた、一大決断ね……慎重に考えないと……)
だが、これは、今、この短時間で結論が出るような問題では無い。
「少し、考える時間をちょうだい。流石に、この短時間で結論を出すのは、無理が過ぎるわ。」
とクロムは答えておいた。
「そうか。答えが決まったら、その答えを心の中で念じてくれ。それが、俺の仕えている男に届くはずだから。じゃあな。」
そう言って、男は、去って行った。クロムも、家へと戻っていった。
そして、運命の歯車が、動き出す。
クロムが家に帰ると、クロームが、
「お姉ちゃん、どこ行ってたの?」
と訊いてきた。クロムは、
「ちょっと散歩に行ってただけよ。クローム、一緒に遊びましょう!」
と言い、そこから、クロームと遊び始めた。
と、ふと、クロムは、こう思った。
(案外、あの男に仕えてみるのも良いかも知れないわね。異世界人との決着がつけられるのなら、私は、それで良いわ。)
すると、クロムと、男の間に、支配回路が繋げられる。支配とはいえ、直接会った訳では無いので、自我や自由意思は残っていたが、支配を受け入れた時点で、支配主に逆らう事はできなくなった。
『クロムよ、お前に最初の任務を与えよう。二名の異世界人を我が元に連れてこい。この任務の成果次第で、お前を我の忠実な兵士に迎える事も考慮しよう。邪魔するものは、容赦せずに叩き潰せ。それでは、期待しているぞ――』
というのが、最初の命令だった。その命令に従い、クロームを焼き殺し、王都の兵士団を葬り去った。そして、今、その命令を果たそうとしていた。
・・・・・・・・・
夜が明けてきた。
「クローム、行くわよ。」
「分かったわ。やりましょう!」
クロムとクロームは、そう会話を交わし、大岩に向けて歩き、大扉を開け放ち――
こうして、楽夜達に、未曾有の危機が訪れる事となる――
楽夜達に襲いかかる、クロムとクローム。果たして、楽夜達は、この危機をはねのける事ができるのだろうか――
次回、第六章スタート! お楽しみに!




