第五章 襲い来る鎧蛇
俺は、エミルのお陰で、危機から脱出する事が出来たのだが、その反対に、今度は、俺を助けたエミルが狙われていた。まだ一回もダメージをくらっていないのが救いだが、盾を持っていないエミルでは、鎧蛇の攻撃をくらえば、かなりのダメージをくらってしまうだろう。
と、そんなエミルを庇う者がいた。
その人物は、ガードンだ。
ガードンは、鎧蛇に背を向けて、必死に逃げるエミルの後ろに立ち、鎧蛇の攻撃を、全て盾で受け流している。ずっと盾を持っているだけの事はあり、手慣れたものだった。
さて、ガードンが時間を稼いでいる間に、オリクとマジカルの準備が整ったようだ。
「これでどう。『ライフスマッシュ』。」
「くらって! 『暴風』!」
そう二人同時に唱え、ほぼ同時に攻撃が放たれる。
先に攻撃が届いたのは、オリクの方だ。鎧蛇の胴に、銃弾が当たる。とは言え、やはり、そこまでダメージは入っていないようだ。
その直後、マジカルの『暴風』が鎧蛇を襲う。これまでのマジカルの術と同じく、鎧蛇は、術が命中すると、苦しそうにしている。術には耐性が無いのだろうか。
そう俺が考えていた、その時だ。
鎧蛇が、突然うねりだした。と、だんだん、俺達に重圧がかかって来る。この攻撃はヤバいと俺の本能が告げていた。
恐らく、鎧蛇は、全体攻撃を、それも、超強力なものを放とうとしているのだ。
全体攻撃の適切な対処法は、ダメージを受ける人数を減らす事だ。ならば、強力な盾を持っている俺が、回復士で、盾を持たないレックスを庇ってあげるのが正解なのではないか。そう考えた俺は、即座に行動に移る。
俺は、すでに、重圧に耐えきれずに、地面に伏しているレックスに重圧がかからないように覆い被さり、レックスを庇った。
「ちょ、楽夜!?」
「お前を守る為にやってんだ、ちょっと重くて痛いのくらい、我慢してくれ!」
ふと周りを見ると、ガードンやエミル、オリクも同じ事を考えていたらしく、ジョンをガードンが、マジカルをエミルが、シュートをオリクが庇っていた。これで、鎧蛇の強力な全体攻撃を受ける準備は万端だ。
と、急に、上からの重圧が強くなる。来る――と俺は悟った。重圧は、どんどん強くなっていき、すでに、俺は、石畳に、体を叩きつけられている。レックスはとても痛いだろうが、少し我慢してもらおう。
そして、鎧蛇の攻撃が、終わりを迎える。一気に重圧が強くなり、俺の体が激しく石畳に叩きつけられる。その後、重圧は弱まっていき、やがて、攻撃が起こる前の、元の重圧に戻る。
防御我慢強い者が庇ったお陰か、俺達に死者は出なかった。が、俺をはじめとした、庇った者は、かなりの大ダメージを負ってしまった。
と、それを察したのか、レックスが動く。
「楽夜達を守れ! 『ヒールスタンス』!」
レックスがそう唱えると、俺達を、緑色の光が包み込む。が、
「……何も起きないぞ?」
そう、何も起きないのだ。確かに、俺達を緑色の光が包み込んだのは、事実である。が、だからどうしたと言う話で、何も起きなければ、術を発動しても意味がないのだ。
「まあ、待ってろ。あいつが攻撃した時が、この術が効果を発揮する時だ!」
レックスがそう言ったその時、鎧蛇が、俺に向かって、噛みついてきた。俺は、唐突な攻撃に反応できず、その攻撃をまともにくらってしまった。が、何故か、体力が回復したように感じた。
「レックス、これは一体……?」
そう俺が訊くと、レックスは、
「この『ヒールスタンス』は、ダメージを受ける直前に、HPを一度だけ全回復してくれる、すごい術だ。まあ、一回の戦闘につき、一回しか使えないから、気を抜くなよ!」
と解説してくれた。
「よし、行くぞ!」
俺はそう言い、攻撃に移ろうとしたのだが、その時だ。
「待って!」
そう声を上げたのは、エミルだ。
「どうした、エミル?」
そう俺が訊くと、エミルはある提案をしてきた。
「私から提案なんだけど、私のスキル、『観察』で、敵のステータスを見て、戦略を立ててみると良いと思うの。楽夜、どう思う?」
それを聞いた俺は、それもいいな、と考える。
エミルのスキル、『観察』で、あの鎧蛇のステータスが見られるのかどうかは、まだ定かではないが、もしもそれが可能なのだとしたら、一気に勝率は上がるはずだ。それなら、その手に乗るしかない。
「よし。エミル、鎧蛇の観察を始めてくれ。ステータスが確認でき次第、俺に報告してくれ。」
「了解したわ。」
ステータスが確認できたなら、一気に勝率は上がるし、今後の戦闘にも生かすことができる。確認できなかったとしても、その時はその時で、余計な期待を捨てられるし、何とかごり押せば、勝てるはずなので、どちらにしても、勝てる確率は上がるだろう。
こうして、俺達に、勝ち筋が見えてきたのだった。




