第四章 最強を名乗りし者 3 指導と頼み
強化が終わったので、俺は一休みしようとしたのだが、ここで、エリュンが俺に向けて話し始める。
「強化が上手く行ったみたいだね。最後に、私から頼みがあるんだけど、聞いてくれる?」
「ああ、勿論だ。」
「ありがとう。それで、お願いなんだけど、楽夜さん達にこれを託したいの。」
そう言って、エリュンが取り出したのは、紫色の卵のようなものだった。
「これは何だ? まるで卵だが……」
「そう。楽夜さんの言う通り、これは卵なの。でも、この卵から生まれるのは、家畜なんかじゃないの。じゃあ、何が生まれてくるのかっていうと、この世の最強に位置する存在、神。その中でも最強とされる、破壊神の卵なの。」
「破壊神の卵だと……!?」
俺は、その破壊神と言うワードに聞き覚えがあった。それは、ジョン達に、自分とエミルが異世界人だということを明かした時だった。マジカルが、異世界人の伝説について語ってくれたのだが、その時に、破壊神と言う存在を初めて知ったのだ。
「確か、善神と他の悪神を全て滅ぼし、地上への悪戯を繰り返し、世界を滅亡させかけた悪神、だったな。」
「そうだよ! それで、その異世界人の伝説から数万年経った今、破壊神が復活して、今はこの卵に閉じ込められているんだ。」
「なるほど。それで、どうして、そんな恐ろしい存在を、俺なんかに……」
「えっとね、この卵は、あと1年くらいすれば、孵っちゃうの。で、優先的に、他の魔物を狙うようにはなってはいるけど、楽夜さん達しか周りにいない時には、楽夜さん達を襲っちゃうの。そして、楽夜さん達が倒されて、迷宮の外に破壊神が出ちゃうと……」
「この世の終わりって事だな。」
「うん。それで、楽夜さん達が、勝てないって思ったら、この鈴を鳴らして。そうすれば、私が駆けつけて、一時的にだけど、破壊神を卵に戻して、その力を封じるから。でも、それができるのも一回だけ。二回目は、破壊神が暴れて、そうする事がだから、楽夜さん達には頑張ってもらいたいの。」
「何でそんな危険なものを俺達によこすんだ? エリュンだけでもなんとかできそうな気がするが……」
「私一人じゃ、どうやっても勝てないの。だから、楽夜さん達の力を借りたいの。それに、まだ、楽夜さん達には、伸びしろがあるでしょ? だから、楽夜さん達に託した方が、勝てる可能性があると思ったんだ。この卵、預かってくれる?」
「……分かった。その卵は、俺が預かる。」
「楽夜!? あまりにも危険すぎるわよ!」
「そうだ。破壊神なんかに、俺達が勝てる訳ないだろ!」
そう反対してくるのは、エミルとジョンだ。
「まあ、確かに、あまりにも危険すぎる賭けかもしれない。それに、今の俺達じゃ、到底勝てる相手じゃない。それくらい、俺だって分かってる。」
「でしょう?」
「それなら……」
「だがな、エリュンが言っていた通り、俺達には、伸びしろがあるんだ。まだ、時間に余裕はある。この時間を有効に活用すれば、破壊神とやらに勝てる可能性もゼロじゃない。そうだろ?」
「そう……ね。やってやろうじゃないの!」
「だな! そのエリュンとやらの協力も得られるみたいだから、もしかすると、勝てるかも、な。」
エミルとジョンの了承を得られた。他の仲間達も、異論は無いようだ。それなら、俺の返事は、勿論……
「じゃあ、改めてエリュン、その卵は俺達が預かる。ただし、条件として、卵が孵った時には、エリュンも戦闘に参加し、勝てないと悟った時は、エリュンが、一時的に破壊神を卵に戻す。それで良いな?」
「うん、勿論だよ! じゃあ、その時は宜しくね!」
俺とエリュンは、そう言い、握手を交わす。
こうして、破壊神の復活時の、俺達とエリュンの共闘の契約が、結ばれたのだった。
・・・・・・・・・
エリュンは、その後すぐに、『死後の世界』への帰還の準備を済ませた。そして、去り際に、
「あ、そうそう。今、ちょっとした強敵が、ここに近づいて来てるみたい。まあ、私がいなくても勝てる相手だから、まあ、とにかく頑張ってね!」
と、爆弾を落としていった。
俺が、おい、待て、詳しく聞かせろ、と言う前に、この場から逃げていきやがった。
いや、それよりも、だ。エリュンの言っていた『ちょっとした強敵』というのは、恐らく、エリュンにとっての『ちょっとした強敵』であって、俺達にとってはものすごい――エリュンよりは流石に弱いが、ジュリンや悪魔を遥かに超える強敵になる可能性がある、というか、ものすごく高い。
「さっきエリュンが言った通り、この迷宮には強敵が近づいて来ている。そいつに対応できるように、ゆっくり休んでおこう。見張りは、俺とガードンで交代で受け持つから安心していてくれ。それじゃあ、ゆっくり休め。」
一難去ってまた一難、たまには、ゆっくりとした休暇が欲しいな――なんて思いながら、俺は、みんなにそう伝えたのだった。
次回、ステータスを挟んだ後、第五章に移りたいと思います。お楽しみに!




