第四章 最強を名乗りし者 2 楽夜VSエリュン
エリュン達が、俺に襲いかかって来る。
刀を手にしたエリュンと、大剣を手にしたエリュンが、俺を挟み撃ちにしてくる。刀を手にしたエリュンが、俺に向けて、刀を振るう。俺は、刀を手にしたエリュンに向けて、盾を構える。俺は、刀を盾でガードする事に成功した。が、一息ついているひまは無い。俺の背後では、大剣を構えるエリュンが、攻撃を仕掛けて来ているはずだ。普通、大剣を持っている者は、動きが鈍くなる。が、エリュンなら、そんな制約を受けずに行動してくるだろう。ならば、それを見越して行動するまでだ。
俺は、『分身』を召喚し、分身に大剣を受け止めさせる。
俺は、分身の持った盾と、エリュンの分身の大剣がぶつかる音を聞きながら、刀を持ったエリュンへと斬りつける。が、確かにエリュンの分身を斬ったのに、斬った感覚が無い。
と、俺は、後ろから近づく気配を察知する。
「これで終わりかな。やっぱり、このくらいみたいだね。」
そう言い、さっき俺が斬ったはずの、刀を持ったエリュンが、俺の背後から攻撃を仕掛けて来る。唐突すぎて、盾でのガードは間に合わない。ならば、回避に賭けるしかない。
俺は、全力で回避行動に移った。正直、ここで、捨て身の覚悟で回避をしていなければ、確実に俺は敗北していただろう。しかし、俺が全力で回避行動を取ったお陰で、エリュンの刃から逃れる事ができ、何とか、戦闘の続行に持ち込む事ができた。
が、今は、俺の覚悟を称えている場合ではない。次の攻撃が俺を襲う。
「楽夜さんを仕留めて! 『ライトニングサンダー』!」
「本気を見せてあげる! 『サイコバスター』!」
二体の魔法使いエリュンが、それぞれ違った術を唱える。
先に攻撃が来たのは、『ライトニングサンダー』の方だ。俺の頭上に黒雲が出現する。俺は、慌ててその場を離れ、雷を受けずに済んだ。が、今度は『サイコバスター』が来る。俺の周りを、モワモワとした妙な気配が覆う。すぐにその異変に気付いた俺は、部屋の端の方へと逃げる。と、次の瞬間。俺の元いた場所が、爆発した。あの爆発に巻き込まれていたとしたら、確実に一撃死していただろう。
さらに、エリュン達は、俺に休むひまを与えない。十一体が、一斉に俺を狙う。
右側からは、二つの銃弾が迫り、左からは、大剣とハンマーによる攻撃が俺に牙を剥く。背後からは、刀と突剣が、それぞれ、俺の首と心臓を狙い、正面からは、武器を持たないエリュンが二体、それぞれパンチと回し蹴りを仕掛けて来る。そして、上からは、火球と雷、大量の矢が降ってくる。
俺は、あまりの情報量の多さに、一瞬、思考が停止しそうになったが、今は、体と頭を休ませている場合ではない。
(まずは、銃弾への対処と、刀と突剣の無力化だ。それなら……)
俺は、考えると同時に、体を動かす。銃弾を盾で防ぎながら、背後に先ほど召喚した『分身』に、刀と突剣のエリュンの対処をさせる。
俺のその判断は、間違っていなかったようだ。銃弾は、俺の盾に弾かれ、刀と突剣のエリュンも、分身が何とか押さえつけてくれた。
それなら、次だ。魔法や矢から逃れるには、周りのエリュン達をどうにかしなければならない。だからと言って、一体ずつ処理していたら、時間とエネルギーを無駄にしてしまう。ここで使うべき技は、あれだな。
「散らせ! 『回転斬り』!」
俺は、回りながら、エリュンの分身に斬りつけ、エリュンの分身を散らしていく。俺の刀が触れたエリュンの分身は、俺から離れ、様子を窺っている。
『回転斬り』が終わった頃には、俺の周りに、分身はいなかった。その隙を見て、俺は、すぐさまその場から離れた。おかげで、俺は、危機を脱出する事ができた。
そんな俺の耳に、エリュンの声が届く。その声は、
「あと五分か~。案外楽夜さんも、この世界に適応できているみたいだから、ちょこっとギアを上げて行こうかな。」
というものだった。その言葉の通り、十分という、とても長く感じた時間が、半分まで減っていたのだ。
とはいえ、仲間が俺一人なのは変わらないので、戦況が回復したとは言い難いのも事実なのだが。まあ、少しは気が楽になった、くらいだろうか。
さて、エリュンが言った通り、エリュン達のギアは、上がっていく。それも、ちょこっとどころではなく、先程までとは比べ物にならない程に、だ。
その変化の一つが、仲間との連携を取るようになった、ということだ。
銃使いのエリュンと突剣使いのエリュンが、俺を挟み込んで攻撃をし、俺の気を引く。まあ、この攻撃は、俺と、俺の分身で、何とか対処可能なレベルだったのだが、ヤバいのはここからだった。
大剣を持ったエリュンが、空中から、強力な一撃を繰り出してきた。俺は、新たに、『分身』を召喚し、それを身代わりにして、その一撃に対処したが、それで終わりでは無かった。
大剣使いのエリュンの後ろからは、巨大な火球が迫って来ていた。俺は、防御しようと考えたのだが、俺の木でできた盾では、火球を防御するのは不可能だととっさに考えた。ならば、俺は、回避に移ろうと考えた。が、俺の周りには、エリュンの分身が集まっており、その場から離れるのも、困難だ。
そして、そうこう考えている間に、火球が俺に迫り――。
こうして、決着がついたのだった。




