第四章 最強を名乗りし者 1 エリュンへの挑戦
俺は、エミルに駆け寄り、傷を見る。エミルは、肩の辺りから出血していた。命に関わるような大ケガという訳ではないが、恐らく気絶してしまったのだろう、やはり起き上がってこない。エミルが抜けるとなると、勝利は相当厳しくなってしまうな……。
「これでエミルは封じた、と。もう勝てるかな。」
俺が、そう言ったエリュンの方を見ると、エリュンの手に、拳銃が握られている事に気がついた。その拳銃でエミルを撃ったのだろうが、ちょっと考えてみて欲しい。エリュンは、エミルの『大星破壊』を受けて剣が折れた後、僅か二、三秒の間に、武器を拳銃に持ち替え、エミルを撃ったのだ。
という事は、だ。エリュンは、一瞬にして武器を持ち替えたという事だ。つまり、俺達がいくらエリュンの武器を破壊しても、すぐに別の武器で反撃を受けてしまうという事だ。
さらに、武器を入れ替える事が出来るのなら、戦況に合った戦い方をする事ができる。例えば、速射性の高い銃なら、相手が一瞬でも隙を見せれば、そこに一発撃ち込んで、撃破するなんて事もできるし、術なら、詠唱が必須な代わりに、広範囲に、強力な威力を持つ魔法を放てるものが多い。
すると、エリュンは、装備していた銃をしまい、杖を取り出す。そして、早速。
「水の流れに翻弄されて! 『激流』!」
エリュンがそう唱えると、部屋の天井付近から水がじゃんじゃん降って来て、俺の腰の辺りまで水が溜まる。すると、突然水があちこちに向かって流れ始め、やがて、その流れは、激流となる。
「楽夜様、私の側に!」
「ああ!」
「オリク、私じゃ頼りないけど、私の側に――」
「いや、マジカル、あなたが私の側に来て。レックスも。」
「分かったぜ!」
「ジョン、俺達は……」
「俺が守る。俺の側に来てくれ。」
俺達は、盾となる者がいることで生まれた安全地帯に他の者が集まり、ダメージを受ける人数を減らす作戦に出た。
その結果は……
まず、俺を守ってくれたガードンだが、『激流』をくらって倒れてしまった。傭兵だから仕方ないというべきか、俺を守りきってくれたから称賛すべきか。俺なら、間違い無く後者を選ぶだろう。
次に、マジカルとレックスを守っていたオリクだが、何とか耐えていた。が、深い傷を負ってしまったようだ。
最後に、シュートを守っていたジョンだが、ガードンと同じく倒れてしまった。シュートにはダメージは無かったものの、戦闘不能者が一気に二人も出てしまったのはマズい。
この『激流』でひとまずエリュンの攻撃は途絶えたかと思えた。が、むしろ、ここからが本番だった。
「天よ怒れ! 『ライトニングサンダー』!」
エリュンがそう唱える。その瞬間、俺は、ある可能性に至る。
(『激流』が終わった後も、水は残っている。そして、この後、技名からして雷系の攻撃がくる……という事は……マズい!)
俺は、即座に跳び上がり、壁に刀を突き刺して、水から離れた。直後、水に向けて、雷が落ちる。その雷は、水を伝い、部屋の水全体へと広がっていき、そして……
「キャァ――ッ!」
「くっ……あっ」
あちこちから、悲鳴やうめき声が飛び交う。そして、その悲鳴が収まった時、その場に立っていた者は、いなかった。
「何だと……?」
俺は、思わずそう呟く。
「流石は、物理法則をしっかり分かっている楽夜さんだね。でも、残りは楽夜さんだけだよ。」
そう、エリュンの言う通り、残っているのは、俺だけなのだ。
俺は、残り時間を確認する。まだ八分程残っていた。
俺は、これは勝てないと悟った。が、俺は、最後まで戦い抜きたいと思う。負け戦だとは分かっているが、どうせ死なないのだから、手を抜きたくはないし、何より、仲間をやられているのだから、一矢報わないと気がすまない。
「よし、俺も本気を出してやる。エミル達の敵は、俺が討つ!」
俺は、強い決意を持って、エリュンと対峙するのだった。




