第四章 最強を名乗りし者 1 エリュンへの挑戦
守護部屋の天井付近に、『10:00』と表示されている電光掲示板のようなものが浮かび上がる。そして、カウントダウンが始まり、戦闘がスタートする。
その瞬間、俺の視界からエリュンが消える。その直後、
「うっ……」
というエミルのうめき声が。
「エミル!?」
そう声を上げつつエミルの方を向いた俺は、思いもよらない光景を目にする。
「なっ……!」
戦闘開始からのたった一瞬。その一瞬で、エリュンはエミルの元へと接近し、その手にある剣で、エミルを斬っていた。エミルは、よろめきながら、俺の所へ来た。
「エミル、大丈夫か!?」
「ちょっと油断してた……回復を……」
エミルは、力を振り絞って俺にそう伝えて来た。
「レックス、頼む、来てくれ!」
俺は、大声でレックスを呼ぶ。
レックスが、俺の方へと走って来る。が、レックスは、背中ががら空きだった。背後からエリュンに狙われてしまう。
「くそっ……」
俺は、レックスの背後を盾で守る。が、
「楽夜、私が代わる。」
と言いながら、オリクが俺の元へと猛ダッシュしてきた。俺は、オリクに言われた通り、レックスの背後の守護を代わった。と、直後、エリュンの剣が、レックスに向けて振るわれる。
オリクは、その剣を盾で受け止め、反撃とばかりに、銃を発砲する。
エリュンは、銃弾を剣で弾き、オリクから一旦距離を取る。
その間に、レックスがエミルの元へと到着し、回復術をかける。
「エミルを癒せ! 『光の水』!」
エミルは、すっかり回復したようだ。
「ありがとう。」
「ああ。それよりも、もう気を抜くんじゃねーぞ。今ので分かった通り、あいつはバケモノだ。少しの油断で、地に伏す事になるからな。」
レックスの言葉の通り、エリュンはバケモノだ。あの一瞬でエミルを傷つけるなど、エリュンのようなバケモノにしかできないはずだ。
さて、エリュンの凄さを語っている場合ではないのが現状だ。戦闘に集中しなければ。
と、次の瞬間、エリュンが高く跳び、俺目掛けて剣を振り下ろす。
俺は、後方に跳び、エリュンの剣を回避する。が、エリュンは、俺が着地する瞬間を見計らって、追加攻撃を仕掛けてくる。
俺は、とっさに盾を構え、その攻撃を防ぐ。
「なかなかやるね。でも、これならどう?」
そうエリュンが言うと、地面から黒いツタのようなものが生えてきて、俺の足や腕に絡みついてくる。
「何だ、これは!?」
俺は、エリュンから距離を取ろうとした。が、ツタは、とても頑丈で、なかなか離れない。
「エリュン、何をした!?」
「これはね、『影拘束』。地面から、影でできたツタを出して、対象を動けなくしちゃうの! そうして楽夜さんを捕らえたら、後はこっちのもんって訳!」
エリュンは、そう言うと、俺に向かって斬りつけてくる。この技には見覚えがある。『斬り捨てる』だ。だが、威力が全然違った。俺は、エリュンの剣を受けて、改めて、俺とエリュンとの格の違いを知った。
『斬り捨てる』のはずなのに、俺の使う『斬り上げ』と同等かそれ以上の威力を持っている。そんなエリュンが、『オーバーブレード』を使ったなら……とんでもない事になりそうだ。
さて、仲間を攻撃されたエミルは、黙っていなかった。
「これでもくらって! 『大星破壊』!」
エミルは、エリュンに向けて、本気の一撃をぶつける。
エリュンは、剣でハンマーを受け流そうとしたが、ラドンの愛用していたハンマーに、ただの剣が敵うはずも無く、エリュンの剣はポッキリと折れてしまう。なおも、エミルのハンマーは、勢いを落とすことなくエリュンに向かって進んでいく。そして、ハンマーが、エリュンに命中する。
「やったわ!」
エミルは喜んでいる。が、その直後、銃声が鳴り響いた。そして、
「楽夜……」
とエミルが声を上げると、エミルが倒れる。
「エミル? ……エミル!」
俺が何度そう呼び掛けても、エミルが起きる事は無かった。




