第三章 無双と枷 2 弱体化
俺がエミルを待っていたその時、エミルが、石畳の上に出現した。
「エミル!」
俺は、そう叫び、エミルに駆け寄る。
「エミルが、復活した……だと……?」
「な? エミルを救うための作戦だって言ったろ?」
その時、エミルが目を覚ます。
「楽夜……」
「エミル、おはよう。気分はどうだ?」
「元気よ、ありがとう。楽夜が助けてくれたんでしょ?」
「ああ、そうだ。」
「良かった……」
その時、ジョンから質問が飛んでくる。
「楽夜、エミル、訊きたいことがある。楽夜がエミルを殺し、その後、エミルが復活した。これは、一体どういう事だ?」
げっ。
訊かれたくない質問が来てしまった。
俺とエミルが異世界人だとは知られたくないのだがな……。
その時、俺の頭の中で思考が始まる。
(そもそも、この世界に、異世界という概念は無いんじゃないか? そう言えば、『迷宮の守護者』の制作過程で、異世界人絡みのストーリーは一切入れてなかった……ということは……いける! この場を切り抜けられるぞ!)
俺は、とっさに、こう答える。
「いや、実はさ、俺とエミルって、異世界から来たんだ。」
「ちょっ、楽夜!?」
「何だって!? 異世界人なのか!?」
あれ? ジョンの反応が思ってたのと違う?
「あ、ああ。俺達は異世界人だ。」
「異世界人だと……!?」
「マジか……」
「嘘でしょ!?」
あれ? どうした、皆して驚いて……もうちょっと、異世界人というワードの意味が分からなくて、別の意味で困惑するんじゃ……
「異世界人って、そんなに珍しいのか?」
そう俺が訊くと、ジョンが答える。
「珍しいどころの話じゃないぞ、この世界に存在する異世界人は、現状、ゼロのはずだった。唯一、古典に記されている異世界人の伝説には、異世界人という言葉が出てくるが……本物を目の前で見るのは初めてだ……」
「伝説?」
何でだ? そんなもの、作った覚えないぞ?
と、その伝説について、マジカルが語ってくれる。
「今から数万年ほど前、今よりも高度な技術、経済で世界が動いていた頃、天には、五柱の善神と、三柱の悪神が住まっていた。善神は、悪神の悪戯から地上に住まう人々を守り、時折、困った人々に手を差し伸べる役割をし、悪神は、地上を混乱に陥れるため、様々な悪戯を仕掛けていた。そんなある日、三柱の悪神の間に、新たな悪神が誕生する。それが、破壊神。破壊神は、生まれながらに、他の三柱の力を凌ぐほどの強力な力を持っており、善神を次々と負かし、消し去って行く。そして、最後の善神が消滅した。その時、破壊神は、他の悪神三柱を一瞬で消し去った。破壊神は、その世界の唯一の神となった。破壊神は、邪魔する者がいないのをいいことに、自分勝手な行動を取った。ある時は、ある国の産業を破壊し、またある時は、国の中核都市を潰して回った。このままでは世界が滅んでしまう――そう人々が思った時、破壊神に立ち向かった者達がいた。それが、異世界人。剣使い、槌使い、銃使い、術使い、弓矢使いの五人で編成されていて、チームワークにも優れていた。そんな異世界人達でも、破壊神の始末には手こずった。けれど、地上の人々からの支援を受けて、何とか破壊神を撃破した。が、破壊神からの最後の攻撃を受けてしまった異世界人達は、息絶えてしまった。これが、古典に載っている、異世界人の伝説の要約だよ。そして、その後、地上の高度な文明は衰退していき、結果、今のような魔法に頼る生活になっていったんだ。」
とマジカルが説明してくれた。が、俺は、ある可能性に至っていたので、俺の耳には、よく入らない。
その可能性とは、この、俺のゲーム世界が弄られているというものだ。
そういえば、ここまで、エミル達と冒険をしてきた訳だが、思い返してみると、おかしな点がいくつも見受けられた。猫魔物と戦った時の、エミルの異常な強化、ジュリンのスキルの『死者体現』もそうだし、ゴブリンを大量に倒した時の、大幅ステータスアップもだな。ゴブリンの時は、大量の経験値を獲得し、大幅にレベルが上がった事による、不自然なまでのステータス上昇が原因とオリクは言っていたが、絶対、何かしらのウラがあると俺は考えている。
そして、今、新たな謎が。
身に覚えの無い、伝説の存在である。
ここまで来たら、もう、確信するしかない。
この一連の謎のウラには、何者かがいる、と。
そして、俺は、その人物に、心当たりがある。
そう、その人物とは、俺がこのゲーム世界に来る前に起きた、一つの事件――『迷宮の守護者』ハッキング事件の犯人である。
もし、仮に、そいつが黒幕で、このゲーム世界がハッキングされ続けているとしたら……俺は、俺の知っているゲーム世界とは違う、イレギュラーな世界を攻略しなければならない。しかも、イレギュラーな世界では、何が起こるか分からない。そのため、最悪の場合、このゲーム世界自体が消滅して、俺とエミルも消滅してしまうかもしれない。
恐らく、俺の人生史上、最大の試練だ。が、元はと言えば、エリュンの提案を俺が飲んだ結果的にこうなったのだから、最終的には、俺が悪いという結論に至る。これは、自分で自分に課した試練なのだ。それなら、乗り越えてみせて、前とは違う、新たな俺に生まれ変わって見せようじゃないか!
俺は、その決意を胸に、また一歩、ゲーム世界攻略へと歩を進めるのだった。




