第三章 無双と枷 2 弱体化
何者かが、大扉をすり抜けて、この部屋に入って来た。が、見張りをしていたのが功を奏し、すぐに敵に気づく事ができた。
「みんな、敵が来たぞ! 起きろ!」
俺が、そう大声でオリク達に知らせて、オリク達を起こす。その中で、一人だけ起きてこない者がいた。
「マジカル……全然起きないな……」
「マジカル、起きて!」
エミルが、マジカルに駆け寄り、マジカルの体をゆする。が、
「……まだ寝させて……」
マジカルは、それでも起きない。
「エミル、もうキリがない。マジカルを抜いて戦おう。」
「でも……」
とエミルは言い、少し迷ったような様子を見せたが、ついに、迷いを捨てたように、俺の隣に来た。
「分かったわ。マジカルが抜ける代わりに、私達七人で、マジカルの分もカバーすればいいのね。任せて!」
「ああ、頼んだぞ。」
エミルも、ハンマーを構えて、すっかりやる気のようだ。
「楽夜、あいつは、悪魔だろう。悪魔は、物理攻撃も魔法攻撃も効きにくい相手だ。それに、多種多様な魔法を持っていて、人間よりも優れた頭脳の持ち主でもある。十分に注意して戦おう。」
とジョンが説明をしてくれた。
「よし。それじゃあ、俺達のレベルアップの成果、存分に見せつけてやろう!」
こうして、戦闘が始まる。
「初めは私が行くわ! 『大星破壊』!」
エミルが、悪魔に急接近し、新しく修得した、名前からしてヤバそうな技で、悪魔に攻撃する。が、そのハンマーが悪魔に触れる前に、悪魔も動く。
「これは、この世界の最高峰に位置する技の内の一つか。だが、単なる物理攻撃なら問題ない。『アタックウォール』発動。」
その瞬間、悪魔の体を透明な膜のようなものが覆い、それが、エミルの『大星破壊』を、いとも容易く防ぐ。
「何で!?」
「そのまま返す。『ウォールカウンター』」
悪魔がそう唱えると、悪魔を覆っていた膜が、悪魔から離れ、代わりにエミルを覆う。と、エミルの体を激しい痛みが襲う。
「キャァ――!」
「エミル!?」
俺は、すぐさまエミルに駆け寄る。パッと見た感じ、外傷は無さそうだ。
「エミル、大丈夫か?」
「ええ。ただ、あの『ウォールカウンター』って技、とても危険だわ。むやみに攻撃すると、痛い反撃を受けるようね。むやみに攻撃するのは、止めた方がいいわ。」
「分かった。」
エミルも、まだまだ戦えるようだ。
俺は、エミルから言われた通り、むやみに攻撃を仕掛けず、様子を見る。と、悪魔が動く。
「今の一撃で、よく分かった。お前達は、このままだと、全ての魔物や魔人の脅威になりかねない。だから、今、俺が倒す事ができなくとも、せめて、お前達の力を弱めて、十分に活躍できなくしてやる! 『デーモンカース』、発動!」
悪魔がそう唱え終わると、紫に黒を少し足したような、暗い色の球が、五つ出現する。その球は、少しの間宙を漂い、その後、俺とエミル、オリク、ジョン、レックスを包み込む。すると、俺は、自分の力が、大幅に吸いとられるような感覚がした。俺は、慌てて、自分のステータスを確認した。
「何だこれは!?」
そこには、驚きの数値が記されていた。
高藤 楽夜 HP 657(-65130) エネルギー量 130(-12894)
【剣類攻撃力】 204(-20228)
【剣類防御力】 173(-17160)
【ハンマー防御力】 118(-11722)
【銃防御力】 44 (-4406)
【術防御力】 71 (-7094)
【弓防御力】 143(-14183)
【物理防御力】 139(-13818)
修得技・術・スキル
・斬り捨てる ・斬り上げ ・高速斬り ・一刀両断 ・天空斬り ・回転斬り ・オーバーブレード
・二刀流 ・分身 ・新技開発 ・翻訳 ・召喚魔法
LV 79 501ポイント
何と、俺のステータスの、HPやエネルギー量、攻撃力や各種防御力が、大幅ダウンしていた。
「お前……何をした?」
俺が怒りを殺しながら訊くと、悪魔は、こう答える。
「お前、『名を名乗れ!』とか、『待て!』とか言われた怪盗が、名乗ったり、待ったりしないように、『何をした!』と訊かれて答える悪魔もいない。そうだろ?」
これは……少しどころか、とてつもなくイラつく答えだな……もし、俺がまだ何もされていなければ、冷静に受け流せていただろう。だが、今は、弱体化をされていて、俺は、気が立っていた。そんな俺では、悪魔の挑発に耐えることができなかった。
「おい、お前、しっかりと答えろよ……?」
「あ? 何かあったのか?」
「……許さねぇ」
俺は、そう呟き、悪魔に斬りかかろうとした。が、突然、左手首を掴まれた。
「楽夜、落ち着いて! 気が立ってる……策に乗せられちゃダメだよ。冷静になって。楽夜がいなくなっちゃ、みんな困っちゃうよ。」
そうエミルが、俺に話しかけてくる。それを聞いた俺は、ようやく、冷静さを取り戻した。
「あ、ああ……そうだな。少し、気が立っていたようだ。エミル、ありがとう。おかげで冷静になれたよ。」
俺はそう言い、自身が頼られていることに、ようやく気づいた。よく考えてみると、俺の仲間達は、みんな、俺を頼りにしていたように思える。俺の言うこと全てに従っている訳ではないが、俺を無視したり、俺に冷たくしたりしている訳でもない。そう考えると、案外、俺は無くてはならない存在なのでは無いかと思った。もし、そんな俺が、いなくなってしまったら? エミル達は、混乱して、いつものように戦えなくなってしまうかもしれない。そうだとしたら、俺は、常にいつも通りでいたほうがいいのかもしれない。強要される事ではないにしても、だ。
さて、エミルのおかげで、冷静になることができた。あとは、悪魔を片付けるだけだ。
「エミル達、行くぞ!」
俺は、悪魔に向かって行ったのだった。




