第三章 無双と枷 1 ゴブリンの軍勢
エミルとマジカルは、それぞれ行動に移る。
エミルは、魔法を放ったゴブリンを、ハンマー一振りで吹っ飛ばし、見事に倒した。俺が仕留めようと思っていたのだが、エミルが先に仕留めてしまった。まあ、心配事が減ったのだから、良いだろう。
マジカルは、エミルを庇ってダメージを負ったガードンの回復にあたる。
「今元気にするよ! 『光の水』!」
マジカルが回復させたお陰で、ガードンもすっかり元気になったようだ。
「ありがとうございます。気を抜かずに、勝利を掴み取りましょう!」
「ええ!」
そう会話を交わしたガードンとマジカルは、ゴブリンの群れに向き直った。
と、その時。俺達の頭上に、巨大な火球が出現する。
「マズい! 早く止めないと!」
そう焦るジョンに応じるのは、マジカルだ。
「それなら私が! 『マジックバリア』、発動!」
マジカルがそう唱え、『マジックバリア』を発動した。が、しかし。
「駄目だ……火球が大きすぎて、防ぎきれない……」
火球の直径は、『マジックバリア』の三倍ほどの大きさだった。もし、火球が放たれたら、『マジックバリア』は、時間稼ぎにすらならず、あっという間に破壊されて、マジカル達に火球が直撃してしまう。
「私がお守りします!」
そう言い、ガードンが、盾を、上方に向けて構える。それと同時に、火球が放たれた。
火球は、一瞬で『マジックバリア』を粉砕し、ガードンの盾にぶつかる。そして、ガードンに押し返されるどころか、逆に、ガードンを押し潰し、エミル達の元へ――
マズい、このままだと、エミル達が、俺のように殺されてしまう――
そう考えた瞬間、俺は、本能のままに動き始める。俺は、体の周りの氷を割るために、じたばたと暴れ始める。が、なかなか割れない。
くそっ、割れろ!
俺は、何度も何度も暴れ、氷を割ろうと試みる。すると、氷にヒビが入ったのが見えた。俺は、さらに激しく暴れまわった。そして、ついに、氷が割れ、俺は、氷の呪縛から逃れる事ができた。
「ガードン、エミル達を守るぞ!」
「はい!」
俺とガードンは、再び、盾を構え火球を食い止めようとする。が、木でできた俺の盾は、火球によって焼け、炎に包まれてしまう。
「熱っ! ガードン、すまない。後は任せた。俺は、火球を出したゴブリンを倒して、火球を消せないか、試してみる! 何とか持ちこたえてくれ!」
「承知致しました!」
俺は、火球を出した四体のゴブリンの内、一体の討伐を試みる。と、そこへオリクがやって来て、
「私も手伝う。」
「オリク、ありがとう。やるぞ!」
と会話を交わした。俺は、一体の魔法使いゴブリンの元へ向かって、
「くらえ! 『斬り捨てる』!」
そう唱え、魔法使いゴブリンに斬りつけると、魔法使いゴブリンは、他のゴブリンと同じように、うめき声を上げながら、粉々に砕け散って、消えていった。
それとほぼ同時に、三回銃声音が鳴り響く。オリクが、他の三回も始末してくれたのだ。
「これでどうだ!?」
エミル達の方を見ると、巨大な火球はきれいさっぱり消えていた。
「よし!」
俺はそう喜んだのだが、オリクは、
「喜ぶのにはまだ早い。ここからが本番。あれを見て。」
オリクの指差す方向を見ると、ゴブリンの集団の中から、長い剣と魔銅の盾を構えた、中位兵士のような格好をしたゴブリンが出て来た。
「あれは、今の俺には厳しいな……」
その呟きは、オリクの耳に届いていた。
「分かった。楽夜は待っていて。私が倒してくる。」
オリクはそう言い、中位兵士ゴブリンの元へと向かう。
「無理し過ぎないようにな。頼んだぞ!」
俺は、そうオリクに激励の言葉を贈り、ゴブリンの軍団に向き直ったのだった。




