第ニ章 更なる戦い 4 頼れる仲間達
ジュリンは、自身の楽しみの為に、行動に移る。樹木を四本、石畳の中を通らせ、エミル以外の四人の足元へと動かす。そして、その樹木を一斉に地面から飛び出させ、エミル以外の四人に、一瞬で巻きつかせる。
「何だ!?」
「これは……?」
困惑している四人に、『ジュリンカーニバル』の痛みが襲いかかる。
「ああ――っ!」
「ううっ……」
それぞれの身に走った激痛に、四人は叫び声やうめき声を上げる。
「オリク! マジカル達も! 大丈夫!?」
エミルがそう声をかけるが、返事は無い。
エミルには、オリク達への心配の感情と、ジュリンに対する怒りの両方が募っていた。そして、ついに、怒りの感情が、心配の感情を超える。
「あなた、よくもやってくれたわね! 許さないわよ!」
そう怒りに任せて叫びながら、エミルは、ジュリンを攻撃しようと、ジュリンに向かって走っていく。しかし、エミルがそう動くことも、ジュリンにはお見通しだった。エミルは、地面から突然突き出てきた樹木に、突き上げられてしまう。
「うっ……」
そううめき声を上げながら、エミルは、宙を飛んでいく。その先には、別の樹木の姿が。
これも、ジュリンの計算通り。激昂したエミルが、『ジュリンカーニバル』に苦しんでいる仲間達を救う為に、ジュリンを殺しに来ることを読んで、完璧な計画を仕込んでおいたのだ。
ジュリンは、自分の勝利を確信した。エミルは、未だに発動している『ジュリンカーニバル』によって、仲間達と共に、死を迎える――そのはずだった。が、ここで、計画に狂いが生じる。
エミルは、自身に巻き付くはずだった樹木を足場として利用し、ジュリンとの間を詰めた。
「何ですって!?」
驚くジュリンに、エミルが渾身の一撃を叩き込む。
「これならどうかしら? 『ハンマーブラスター』!」
ジュリンは、予想外のエミルの行動に、反応が遅れてしまい、その一撃をまともにくらってしまう。その時。ジュリンが
「くっ……」
と、小さくうめき声を上げた。そのうめき声は、エミルには聞こえていなかったが、それでも、その攻撃は、ジュリンを苛立たせるのには、十分だった。
「もう! ここまで私を怒らせたこと、後悔するがいいわ! 『秘術・爆裂樹林』!」
ジュリンがそう唱えると、部屋の壁や床から、樹木が次々と生えてきた。エミルは、危険を察知し、ジュリンから離れたが、床から生えてきた樹木に躓いてしまう。体勢を崩したエミルの腕や足に、樹木が巻きつく。さらに、壁や床から、樹木が大量に生えてきて、部屋中を樹木が埋め尽くす。が、エミルと、樹木に巻きつかれている四人の直線上だけ、樹木が無い空間がある。何故だろうとエミルが考えていた、その時。
オリク達の方から、巨大な爆発音が聞こえて来た。エミルは、即座に、その方向に目を向ける。その視線の先で、四人に巻きついていた樹木が爆発し、その四人が爆炎に包まれながら落下し、地面に叩きつけられ、倒れたまま動かなくなり――
「シュート! ガードン! マジカル! オリク――!」
エミルがそう叫び、四人の元へ駆け寄ろうとするが、樹木が両手両足に巻きついているため、身動きが取れない。さらに、樹木がエミルの方へ迫り、エミルを取り囲む。
「あなたも、仲間達と同じように、さっさと殺してあげるわ! 樹木よ、やってしまって!」
ジュリンがそう言い終わると同時に、エミルの周りの樹木が、次々と爆発し始める。エミルは、激しい炎と爆風に晒されながら、一筋の僅かな希望に賭ける。
その希望とは、楽夜が、今ここに帰って来て、エミルを守ってくれるというものだった。
そんなこと、起こるはずも無い。そのことは、エミルが一番よく知っている。が、その希望に賭けて、エミルは、ふと呟く。
「楽夜……助けて……」
その時、エミルの前の樹木が、何者かによって斬り飛ばされた。
「えっ……?」
エミルがそう声を上げ、顔を上げると、そこにいたのは……
「待たせたな、エミル。絶対エミルを救い出して、ジュリンを倒してやるからな。」
それは、エミルが待ちわびた人物。一度は死んだはずの人物。エミルにとって、一番大切な人物。
そう、楽夜が、復活したのだ。これによって、エミル達の戦況は、大きく変わるのだった。




