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第ニ章 更なる戦い 3 苦痛の時間

 楽夜が苦痛の時間を味わっていた時、他の場所にも、苦痛の時間を過ごしている者がいた。

 それは、王都の兵士達である。

 彼らは、王都に突如出現した、暴走した少女の対応に追われていた。

 彼らは、『マジックガード』という、魔法を反射するスキルをその身にかけて、暴走した少女の捕獲へと向かっていた。しかし、少女の放った魔法は、『マジックガード』を無視して、兵士に大ダメージを与えているのだ。

 この事に、この兵士軍の指揮官はとても驚いていた。少女の放っている魔法は、いずれも少し経験を積んだ魔法士なら誰でも使える、低級魔法と呼ばれる物だった。そんな低級魔法に、『マジックガード』を貫通するものなど存在しないはずだった。それなのに、この少女の魔法は、『マジックガード』を貫通している。これは異様だと思った指揮官は、全軍に指示を飛ばす。


「全軍、聞け! 魔法士は、『マジックバリア』を展開せよ! その他の兵士は、近接戦闘状態へと移行せよ! 『マジックバリア』の展開が完了し次第、交戦へと入れ!」

「承知!」


 その指示を聞いた兵士達は、各自が指示されたことを実行する。

 兵士達は、武器の戦闘状態を、近接戦闘モードへと変更する。そして、魔法士は、少女が範囲内に入るように広がり、


「『マジックバリア』、展開!」


 と唱える。すると、半径百メートルほどの半球型の結界が、少女の周りに出現する。その瞬間、


「かかれ――!」


 という指揮官の声が戦場に響き渡り、それを聞いた兵士達が、少女に向かって、次々と走り出す。

 その一方で、少女は全く動じていないようだ。

 兵士達が、次々と結界の中へと侵入する。

 その時、少女が動く。


「愚か者ばかりね。こんな結界を展開しても、私には意味がないのに。こんなに大勢でかかってきても、ただの兵士の分際で私を倒すことなんて、夢のまた夢でしかない。そんな愚かな希望など、必要ないわ。私が打ち砕いてあげる。あなた達の心や体と一緒に、ね。『仮想武器・刀』召喚」


 少女がそう言うと、少女の手に、ピンク色のオーラをまとった刀が出現する。

 そして、一人の兵士が、少女の持つ刀の届く範囲に入る。


永久(とわ)なる痛みを与えよ――『幻痛撃(げんつうげき)』」


 少女がそう唱え、刀で兵士を斬りつける。


「ぐああっ!」


 少女に斬られた兵士は、悲鳴を上げる。すると、その兵士は、違和感を覚える。一度斬られた後も、痛みが収まらないのだ。普通なら、痛みはだんだん引いていくはずなのに、だ。

 それが、少女が放った技、『幻痛撃』の真なる効果だ。いくら歴戦の勇者と言えど、斬られた時の痛みがずっと続くような状況では、本気を出すことなど出来はしない。この技は、永久に痛みを感じさせるようにし、相手を一撃で確実に無力化させる事が出来るのだ。

 すぐさま別の兵士が襲いかかって来る。この兵士は、銃を手にしており、少女の刀の届かないところから、少女を攻撃する。


「くらえ! 『連射』!」


 そう唱え、その兵士は、銃を連射する。が、その銃から放たれた銃弾は、少女の刀に全て打ち落とされてしまう。そして、少女は、その兵士との間合いを一気に詰める。


「さっきのお返しよ――『効果反撃』」


 そう唱え、少女は兵士を斬りつける。

 少女の技『効果反撃』は、その名の通り、相手から受けた技の効果を跳ね返す技だ。そして、『連射』の特殊効果は、即死だ。つまり、『連射』を放った兵士に、即死効果が渡ったのである。その兵士は、バタリと倒れ、動かなくなってしまう。

 戦況は、少女が兵士を次々と撃破し、少女が有利かと思われたが、実際はそうでは無かった。王都軍には次々と増援が到着し、王都軍の全戦力が揃いつつあった。刀では分が悪いと悟った少女は、


「『仮想武器・刀』を解除。『仮想武器・二丁拳銃』を召喚」


 と、赤いオーラをまとった二丁拳銃に武器を変える。

 少女は、二丁拳銃を連射する。その銃弾に当たった兵士は、バタバタと倒れていく。

 実は、銃弾一発で王都軍の兵士が倒れるのは、普通は考えられないことなのだ。何故なら、王都軍の兵士は、普通、銃弾が二発当たっても倒れないように訓練されている。それなのに、銃弾が一発当たっただけで倒れているというのは、普通では考えられないことなのだ。

 では、何故銃弾一発で倒れてしまったのか。それは、偶然でも、ましてや、兵士が鍛練を怠り、通常よりも弱くなっていたからでも無い。オーラの色に秘密があるのだ。

 少女の武器がまとっているピンク色や赤色のオーラだが、このオーラには、それぞれ特別な効果があった。例えば、ピンク色のオーラには、特殊な効果を操る効果がある。そして、赤色には、一撃必殺の効果が込められている。

 こうした効果は、『仮想武器』でないと得られない。その為、こうした効果を使用できる者はほとんど存在しないのだ。

 さて、兵士達も黙って殺される訳ではない。しっかりと抵抗しているのだ。兵士達は、盾を構えており、銃弾を防ごうとしているのだ。が、その盾は、銃弾によって砕かれてしまい、さらに、銃弾の威力を落とすことさえできず、結果、少女にあっけなく殺されてしまっているのだ。

 そんな光景を見た指揮官が、我慢ならないといった様子で、前線へと進む。


「私が出るしかないか……全軍、下がれ! ここからは、私と彼女の一騎討ちで勝負を決する。皆は、城へ行き、更なる増援の要請をせよ! 私が時間を稼ぐ。増援を確保でき次第、ここに戻ってこい! 行け!」


 指揮官の指示に素直に従った兵士達は、


「承知致しました!」


「ご武運を!」


 そう言い、王都の城へと向かう。だが、指揮官を心配して、動かない者もいた。そのような者には、


「私は大丈夫だ。増援がなければ、勝利を勝ち取ることができない上、王都にも甚大な被害が及んでしまう。行け!」


 と指揮官が言い、兵士達を動かす必要があった。その言葉に、


「分かりました。早急に兵を送ってもらえるように要請致します。」


 と従う者もいた。が、それでも、


「ですが……」


 と言って、なかなか動いてくれない者がいた。

 そうした者には、少女が手を下す。少女が、なかなか動かない者に対して、銃を連射した。その銃弾は、兵士の心臓を正確に撃ち抜き、少女の格好の的となった兵士達は、次々と倒れていく。

 その時、指揮官が動く。


「お前の相手はこの私だ! ついて来い!」


 指揮官はそう言い、王都の外へと走り出す。その後を、少女が追いかける。それは、数分間続き、王都のはずれの森で、少女が追いついたことで、終わりを迎える。

 指揮官に追いついた少女は、早速銃を発砲する。しかし、


「甘い!」


 と指揮官に避けられてしまう。さらに、


「くらえ! 『オーバーブレード』!」


 指揮官の大技により、少女は大ダメージを負う。と、


「くっ……分が悪い……こうなったら、圧倒的な物量で叩き潰す! 『仮想武器・二丁拳銃』を解除、『仮想武器・槌』を召喚!」


 そう少女が唱え、武器をハンマーに変える。そのハンマーの色は――金色。そして、その色が表す効果は――完全なる勝利だった。


「消え去れ! 『大星破壊(たいせいはかい)』!」


 その技は、『オーバーブレード』と同じく、技の最高峰に位置する。その技と、金色のオーラが組み合わさることで、星さえも軽く破壊できる威力に発展した。今回は、星を砕かないように手加減したが、それでも、指揮官を殺すには十分な威力があった。そんな一撃を真っ向からくらった指揮官が、耐えられるはずがなかった。

 指揮官の体にハンマーが触れると同時に、轟音と共に、激しい痛みが指揮官を襲う。


(何だ、この痛みは!? このような力が一体どこから出てくるのか……)


 と激しい痛みを感じつつ、そう不思議に思う指揮官だった。しかし、徐々に指揮官の体が崩れ始める。


(私でも敵わないのならば、私の下につく兵士では、敵うはずもなし、か。一撃入れたことを誇りに思って、この世を去ろう……)


 そう最後に思考した指揮官の体が、砕け散る。


(終わったわね。早く目的の場所に向かわなければ……)


 少女は、そう考え、迷宮に向けて、再び歩きだす。と、その後を、少女よりもさらに小さい女の子が追いかける。


「お姉ちゃん! 私も連れてって!」


 それは、少女の妹だった。それを見た少女は、疑問を抱く。


(さっき私が『ファイアボール』で焼き殺したはずなのに、何故……?)


 すると、そんな姉の思考を察したのか、妹が答える。

「私は、お姉ちゃんに殺された後、ある目的の為に、生き返った。その目的は、お姉ちゃんの目的を達成すること。お姉ちゃんについていってもいい?」


 そう言った妹に、姉がこう言う。


「別に私は良いけど、あなたが危険な目に遭うリスクだとか、死ぬリスクを、あなた自身が負うことになるの。それでもいいのなら、あなたの勝手よ。」


 妹は、それを聞いて、迷うことなく、頷く。その瞳は、決意に満ち溢れていた。

 それを見た姉は、妹に目的を伝える。


「分かった。あなたがそうしたいのならば、別に構わないわ。さて、肝心の目的だけど、とても大事で、他の人には言えないことだから、よく聞いておいて。その目的は――」


 それを聞いた妹は、一瞬驚くような素振りを見せたが、すでに彼女の覚悟は決まっている。


「分かった。私の『誘言』と『従虫』のスキル、存分に使って!」


 そう妹がそう言うと、妹が黒煙に包まれる。


「え……!? 一体何が……?」


 姉も戸惑っている。と、


「うう……ふっ」


 妹のうめき声が、笑い声に変わる。やがて、黒煙が晴れると、そこにいたのは、悪魔のような生物だった。


「悪魔……なの?」

「そうだけど、厳密には違うわね。私は、悪魔に肉体と精神の機能を奪われた、悪女。自我はあるけれど、慈悲はない。『誘言』はとても得意ね。」

「悪女……聞いたことのない種族ね。まあ、何にせよ、戦力の強化に繋がるのなら、私は大歓迎よ。目的がより達成しやすくなったわ。よろしく。」

「ええ。」


 そのような会話を交わした後、姉と、悪女となった妹は、激戦の跡をその場に残して、迷宮に向かうのだった。

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