第ニ章 更なる戦い 2 力の差
ジュリンに近づいた俺とエミルだったが、やはり、ジュリン相手には苦戦を強いられる。
「やって欲しいんだったら、やってあげるわ! 『樹林化』!」
ジュリンがそう唱えると、樹木が俺とエミルの周りを囲む。そして、その樹木が、次々と俺達に襲いかかって来る。
「避けるわよ、楽夜!」
「おう、エミル!」
「樹木よ、ボッコボコにしてあげて!」
そんな声が戦場に飛び交っている。
樹木は、俺とエミルを、何度も何度も叩き潰そうとしてくる。それを、俺とエミルは、何とか避け続けているのだが、一瞬の遅れが、命に関わりかねない状況になっている。と、その時。
「キャァ!」
とエミルが悲鳴を上げる。俺が慌ててエミルの方に顔を向けると、俺は、一気に、危機を感じる。
そこでは、エミルが、樹木に体を押さえつけられていた。さらに、他の樹木も、エミルに襲いかかる。
「エミル!」
俺は、エミルのもとへ駆け寄ろうとした。が、その時、エミルの声が、俺の耳に届く。
「楽夜……こっちに来ちゃダメ……楽夜まで死んじゃう……」
それを聞いた俺は、はっとした。
(確かに、今の俺よりも、エミルの方が強い。生き残る確率は、まだエミルの方が高い、か。でも、流石にこの猛攻じゃ……)
そう考えた後に、こう願う。
(頼む……エミル、耐えてくれ……)
エミルは、少し前までは、赤の他人だった。だが、今では、大切で、強力な仲間だ。それ故に、何かあった時に、俺を残してエミルだけが先に死んでしまうなんてことや、その逆のことがあったりして欲しくないのだ。
そんなことを考えていると、俺の体に、激痛が走った。
何故だ? と思うとほぼ同時に、ジュリンの猛攻が止まり、エミルを押さえつけていた樹木も、エミルから離れる。そこで俺の目に写ったのは、地面に倒れ込むエミルの姿だった。
「エミル! 大丈夫か!?」
そう呼びかけるも、返事がない。
「もう後はあなただけね。私の手にかかったことを後悔して消えていきなさい!」
ジュリンがそういい放ち、俺に牙を剥く。それを見た俺は、覚悟を決める。
(エミルの為にも、オリク達の為にも、やるしかないよな!)
俺はそう考え、ただ一人、ジュリンに斬りかかる。
「くらえ! 『一刀両断』!」
俺は、新たに覚えた技を繰り出す。その刃は、ジュリンに触れる。が、ジュリンは余裕のようだ。
「決して弱くはない。でも、脅威になる程ではないわね。さっさと終わらせるわ。『樹林化ー毒ー』!」
ジュリンがそう唱えると、さっきの『樹林化』と同じように、樹林が俺の周りを囲む。すると、樹木が紫の液体におおわれて、俺に襲いかかる。
「ふふ。毒に包まれて、紫色に染まってしまいなさいな!」
ジュリンのその声を合図にするかのように、樹木が一斉に、俺めがけて振り下ろされる。
「これでどうだ! 『斬り捨てる』!」
俺はそう唱えつつ、樹木を次々と斬っていく。が、背後から迫っていた樹木に気づくことができず、地面に叩きつけられてしまった。
そこに、樹木の猛攻が降り注ぐ。
「ヤベッ……!」
俺がそう声を上げた時には、もう遅かった。俺は、毒樹木のラッシュを浴びせられてしまった。
俺は、盾で樹木を防ぎ、受けるダメージを減らそうとする。が、一撃一撃が重く、何発かくらってしまう。
そして、ジュリンの攻撃が収まった時、俺の皮膚の色は――紫。樹木からの攻撃によって、俺は、猛毒の呪いにかかってしまった。
「フハハハハ! 紫に染まったわね! もう私には、何をしても勝てないわ! 諦めて、私の前にひれ伏すがいいわ!」
そう言い放ち、勝ち誇るジュリン。俺は、そのジュリンの言葉に、こう返す。
「そうか? まだまだわからないぞ!」
そして、俺は、倒れているマジカルの手から、杖を抜く。
「マジカル、ちょっと借りるな。」
それから、俺はこう唱える。
「勝利のカギを掴む一手となれ! 『召喚魔法』!」
すると、俺の目の前に、魔法陣のようなものが出現する。その魔法陣は、徐々に明るくなって行き、やがて、目を開けていられない程に輝きを強める。その後、光は弱くなって行った。と、一人の男の人影がうっすらと見える。光が完全に消え去った時、魔法陣のあった場所には、一人の男が立っていた。
「ここ、どこだ!? それに、なんだこのモンスターは!? こんなの、見たことないぞ!」
案の定、男は戸惑っているようだ。
「落ち着け。俺は、この迷宮の守護者をしている、高藤 楽夜だ。」
「なるほど。俺は、王都で冒険者をしている、ジョンだ。にしても、一瞬で、別の場所に移動してきたということは、『召喚魔法』でも使ったのか?」
「当たりだ。詳しいんだな。で、早速だが、ジョンに頼みたいことがある。俺と協力して、こいつを倒してくれないか?」
「無理だ、と言いたいところだが、せっかく召喚されたんだし、俺の見聞を広める機会だ、付き合ってやろう。」
「感謝する。いくぞ!」
ジョンは、俺とそう言葉を交わし、共闘を承諾してくれた。こうして、ジョンという新たな仲間が加わり、さらに戦闘は激化していく。




