第一章 冒険の始まり 5 エミルの力
エミルと女は、二手に分かれ走り出し、罠を次々と設置して行く。その後を、ニャーロの分身や楽夜が追いかけて行く。が、それは、エミルと女の策の内だった。
エミルを追いかけていたニャーロの分身は、床に設置されていた罠を踏み、その体が炎に包まれていた。また、女を追っていた楽夜は、罠により全身が凍りつき、身動きが取れなくなっていた。罠により、戦況は、エミル達が有利になったのだ。
が、ここでもニャーロはここでも冷静だ。罠の設置されている場所を見極め、そこを避けて、女を追っている。
「それなら、せめてこれで……」
女は、ニャーロに向けて何かを投げる。それは、ニャーロに直撃し、爆発した。が、ニャーロは全く怯む様子も無く、女に向かって走っている。それを見た女は、
「怯みもしないのか……いくら攻撃力の補正が無いとはいえ、まさかここまでとは……」
と呟く。
女が投げた球は、敵に当たると爆発する、爆弾だった。が、その球に対応した攻撃力がステータスには無い。そのため、攻撃力補正が適用されないので、通常の武器と比べると、威力がガタ落ちしてしまうのだ。ここから見て取れる結果の通りだった。
さて、軽いダメージを受けたニャーロは、黙っていなかった。ここで反撃に出る。
ニャーロが女に飛び付き、動きを封じる。そして、自らの分身を呼ぼうとして辺りを見回す。が、ニャーロの分身だけでなく、楽夜やオーラの魔物までもが、罠にはまり、身動きが取れなくなっていた。
すると、ニャーロの体からオーラのムチが飛び出し、女を攻撃する。女の体力が徐々に削られて行く。
「これで最後だ!」
そうニャーロが叫び、女を仕留めようとした、その時だった。
「させない! 『打ちつける』!」
エミルがそう唱えながら、ニャーロの背後から、『打ちつける』を繰り出した。
ニャーロは、『打ちつける』をくらって、ある程度、ダメージを受けた。が、まだ体力に余裕はある。そのため、まだ女の始末を諦めてはいないようだ。
再び女を狙うニャーロだったが、またもやエミルに邪魔をされる。
ニャーロが女に一撃を入れて、倒してしまおうとしたが、エミルがムチを防いで、女に一撃が入らない。
これに、ニャーロは激昂した。
「俺の邪魔をするなぁ――! 『パワークラッシュ』!」
この必殺技を放ったニャーロに対抗するのは、女である。
「させない……『ライフスマッシュ』」
女の銃から放たれた銃弾は、虹色のオーラをまとい、ニャーロに向かって飛んで行く。
そして、『パワークラッシュ』と、『ライフスマッシュ』が衝突する。と、激しく砂ぼこりが舞う。
その砂ぼこりが晴れた時、エミルの目に映った光景は、女が、ニャーロから飛び出したオーラのムチに、縛り上げられていたというものだった。
「大丈夫!?」
とエミルが呼びかけるが、反応は無い。
「終わりのようだ。残念だったな。」
そうニャーロが言い、女を始末しようとした。が、ここでもエミルがその邪魔をする。
「くらいなさい! 『打ちつける』!」
そうして、ニャーロにダメージを与える。が。
「お前が先に死にたいのか。いいだろう。先に殺してやる。」
そうニャーロが言うと、ニャーロの体から新たなムチが出てきて、エミルを襲う。
すんでのところでムチをかわしたエミルだったが、横から迫っていたムチに反応出来ず、弾き飛ばされてしまう。
そこにニャーロが近づいて、とどめの一撃を刺そうとする。
「これで終わりだ! オーラのムチ、やれ!」
そうニャーロが命令し、オーラのムチが、エミルに最後の一撃を入れようとする。が、その時。
「……油断は禁物。援護お願い。」
そう女が言い、ニャーロに向けて銃を発砲する。ニャーロが、女の方を向き、エミル側に隙が出来る。これはいける、そうエミルは確信する。
「これで終わりよ! 『打ちつける』!」
エミルのハンマーがニャーロに直撃する。と、ニャーロの体が光り始める。
「すみません、カロリーニャ様、カローニャ、みんな……もっと俺が強ければ……」
と、ニャーロの耳に、ある声が届く。
『良いのです。ニャーロ、あなたは十分な戦果を出しました。ゆっくりと休み、力を蓄えましょう。』
そう、それは、カロリーニャの声だった。それを聞いたニャーロは、闘志を燃やす。
(人間よ、俺はまた帰って来る。その時には、手加減などしない。覚悟して待っていろ!)
ニャーロは、その覚悟を胸に、この場を去った。
こうして、ニャーロとの戦いは幕を閉じた……のだが。
エミルの表情は曇っていた。




