第一章 冒険の始まり 5 エミルの力
「くらって! 『アクアブレード』! 『暴風』!」
エミルは、ラドンから託された力を存分に発揮し、ニャーロに続々と攻撃を仕掛ける。
ニャーロは、その攻撃を全て受けているが、これは、わざと受けている訳ではない。回避しようとしているのだが、なぜかかわすことが出来ないのだ。
だが、いくら覚醒したエミルとはいえ、エネルギー量の上限は存在している。
「『暴風』! ……あれ、発動しない!?」
そう、エネルギーが足りないのだ。
エネルギーが少なければ、消費エネルギー量の多い技は使えなくなってくる。さらにエネルギーが少なくなり、エネルギーが0になってしまうと、エネルギー消費を伴う技は発動できず、ただの攻撃しか出来なくなってしまうのだ。
今のエミルは、エネルギーが0になっている訳ではない。が、『暴風』は、消費エネルギーが大きいため、現時点では使用出来ないのだ。
さて、ニャーロ達は、エミルの様子から、相手は術を使えないのだと悟った。その隙を見て、ニャーロ達は、エミルに、総攻撃を仕掛ける。
ニャーロの分身が、エミルを空中に放り投げる。そのエミルを、ニャーロのもう一体の分身が、パンチで攻撃する。さらに、オーラの魔物が、エミルを殴り付ける。
「うっ……」
そうエミルが小さくうめき声をあげる。が、ニャーロ達は攻撃の手を緩めない。
地面に叩きつけられたエミルを、ニャーロが叩き潰す。さらに、楽夜が『高速斬り』を繰り出した。
「キャァァ――!」
エミルが悲鳴を上げる。
エミルにニャーロが近づき、とどめを刺そうとする。と、エミルがふらつきながらも立ち上がる。そして、こう唱えた。
「『光の水』よ! 私を癒せ!」
すると、エミルを緑色の光が包み込み、エミルを回復させる。
が、ニャーロは、自身の持つ、最強の必殺技を放っていた。
「消し飛べ! 『パワークラッシュ』!」
そうニャーロが言うと、ニャーロは、エミルとの距離を一気に縮め、パンチを繰り出す。が、それはただのパンチではなく、必殺の意思が込められていた。
そして、ニャーロは、そのパンチを、エミルに叩きつけた。
激しく砂ぼこりが舞うが、エミルの悲鳴は聞こえて来ない。
そして、視界が開けた時、エミルはまだ立っていた。それを見たニャーロは、激しく動揺する。
(何故だ!? 何故あの女はまだ立っていられる!?)
砂ぼこりの中で何が起こっていたのか、説明をしよう。
エミルは、覚醒時に修得したスキル、『ダメージ譲渡』を使用していた。このスキルは、自分が受けたダメージを他人に分け与えるという効果がある。ただし、ダメージを分け与えることが出来るのは、味方に限られる。
エミルは、このスキルを使って、何とか死を免れたのだった。
さらに、エミルに好機が訪れる。
ニャーロは、今の『パワークラッシュ』でエネルギーをかなり消費していた。これまでに消費した分と合わせると、残りのエネルギー量は、0。ニャーロは、普通の攻撃を出すことしか出来ない。
ここで、エミルはあることに気づく。ラドンが倒された場所に、ラドンのハンマーが残っていたのだ。それにエミルが気づいた瞬間、エミルは、頭をフル回転させて思考する。
(私のハンマーよりも、ラドンのハンマーの方が、性能は良いはず。しかも、ラドンから力を受け継いだから、ハンマーの方が、ステータス的にも、高くなってるはず。それなら……)
エミルは、杖と盾を床に置き、ラドンの使っていた『金のハンマー』を手に取った。
すると、エミルと、『金のハンマー』が、金色の光を放つ。その時、エミルは、『打ちつける』を修得した。その技は、例え、ラドンが、強い技を修得したとしても、使い続けていた、基本技だった。
(楽夜、ラドン、待っててね。猫魔物を倒して、楽夜を解放して、ラドンの敵を討って見せるからね。)
エミルは、その思いを胸に、ニャーロとの戦いに決着をつけるため、果敢にニャーロに挑みかかって行くのだった。




