第一章 冒険の始まり 4 救援と覚醒
ラドンは、エミルとは少し離れたところで、ニャーロの分身と対峙している。
今のところ、分身が不死であるということを考えなければ、ラドンが若干有利である。分身の不死性を考慮するのなら、実力は、ほぼ互角である。
が、ここで、戦況は大きく動く。
バリアに捕らわれていた楽夜が、バリアから解放された。
「楽夜! 大丈夫か!?」
そうラドンが呼び掛けるも、楽夜は倒れたままで、返事をしない。と、楽夜が立ち上がり、ラドンに斬りかかる。
ラドンは、ハンマーで受け流し、距離を取った。
楽夜が、ニャーロに誘惑され、相手の軍門に降った。それは、ラドンにも数の不利が訪れたことを意味する。
別に、一時的な力の差だけを比べれば、まだまだ、ラドンと、ニャーロの分身達は互角なのだ。だが、長期戦になるのならば、話は別だ。分身は、体力の消耗が少ない。それに比べると、ラドンや楽夜は、体力の消耗が激しい。そのため、ラドンは、時間が経てば経つほど、不利になっていくのだ。そして、力が互角なのならば、長期戦になるのは当然であって――ラドンの敗北は、確定したも同然である。
が、ラドンは諦めることはない。冒険者時代の力や心意気は消えておらず、例え、勝つことが不可能と思えるような魔物に出会った時も、それが運命だと割り切って戦い、命の最期が訪れるその時まで全力で戦い、死という運命に抗い続けるのだ。
という訳で、ラドンは、ニャーロの分身と楽夜を相手に、本気を見せる。
「はぁ――! 『打ちつける』!」
楽夜に、その重い一撃をぶつける。
楽夜は、盾でガードして、ダメージを受けるのを防いだが、衝撃を受けた腕がしびれ、刀を落とす。
その隙を見たラドンは、再び、ニャーロの分身と取っ組み合いを始める。
こうして、ラドン達の戦いは、硬直状態に陥ったのだった。
・・・・・・・・・
一方、エミル達の戦いは、早くも戦況が大きく動く。
女がニャーロに向けて、銃を連射する。ニャーロは、何発か当たっていて、大きなダメージをくらった様子だ。
しかし、女は苦しげな表情をしている。
「即死効果が付与できないのか……!」
女は、技の詠唱をせずに、『連射』を繰り出していた。この『連射』には、即死効果が込められていた。が、ニャーロの前にはその効果は通用しなかった。
さらに、ニャーロは、エミルを狙い、容赦の無い連撃を叩き込む。
その内の一撃を、エミルはくらってしまった。
「うっ……」
エミルはそううめき声を上げる。が、エミルは、反射的に盾を構えており、ダメージの軽減には成功していた。
それを見たニャーロは、一瞬驚いていたが、直後、さらに攻撃の手をきつくしていき、そこに、ニャーロの分身とオーラの魔物が加勢していく。
オーラの魔物の爆撃をかわしたエミルは、ニャーロに飛びつかれて、身動きが取れなくなっている。
ニャーロの分身に銃を奪われそうになった女は、ニャーロの分身と肉弾戦になる。
さらに、身動きが取れなくなったエミルに、ニャーロが拳の連打を叩き込む。
激しく地響きを轟かせ、時折、金属音が鳴り響く。
そして、そこに立っていたのは、ほとんど無傷なエミルと、傷だらけのラドンだった。
ラドンは、ニャーロの分身そっちのけで、素早くエミルに駆け寄り、彼女の身代わりとなっていたのだった。
そして、ニャーロはというと、凄まじい殺気を漂わせていた。今の攻撃でエミルを仕留めるつもりだったのだろう。
オーラのムチがニャーロの体中から飛び出している。そして、そのムチが、エミルとラドンを襲う。
「エミルさん、避けて!」
とラドンが叫び、ラドンは右へ、エミルは左へと跳び、ムチの回避を試みる。が、ムチが急に加速し、ラドンに命中する。
オーラは、ラドンの胸を穿った後、ニャーロのもとへと戻って行った。
エミルは、すぐさま、ラドンのもとへ駆け寄る。
「ラドン、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫です。」
「良かった。ひとまず、『光の水』を発動させるね。」
そう言って、エミルは、『光の水』でラドンの傷を癒した。
が、ラドンとエミルの背後には、オーラの魔物が。
「危ない!」
そうラドンが叫び、エミルを突き飛ばす。それと同時に、オーラの魔物から爆撃が放たれる。
爆撃は、ラドンに直撃し、激しい炎と黒煙がラドンを包み込む。そして、炎が収まり、黒煙が晴れたとき、そこには、地面に倒れ込むラドンの姿があった。
「ラドン!」
そうエミルが叫び、ラドンに駆け寄ると、ラドンは顔を上げ、エミルに話し始める。
「すまない……俺は……ここまでのようだ……」
「だ、駄目よ! ここでラドンがいなくなったら、私じゃ、どうにもできない!」
「エミルさん、いや、エミル、あいつに勝つ方法がある。俺の力を、お前に授ける。そうすれば、あの猫魔物に太刀打ちできる。エミル、俺の力、受け継いでくれるか?」
エミルは、少し迷った表情をしたが、直後、決意に満ちた目でラドンを見る。そして、こう言う。
「分かった。ラドンの力、私が受け継ぐ!」
「エミル、手を出せ。俺の力をお前に渡す。」
言われるがままに、エミルは手を出す。そこに、ラドンが手を重ねる。
「これで大丈夫だ。俺はいなくなるが、もうエミルだけでも大丈夫だ。生きていけ、エミル。」
ラドンがそう言うと、ラドンの体が、光の粒子に変わり、天に昇る。ラドンは、最後に微笑んでいた。
その時、エミルの中の力が解放される。
「ラドンの敵は、私が討つわ!」
エミルはそう言い、魔物達に挑みかかるのだった。




