第十章 最後まで諦めない者が報われる時 2 エミルの奪還
俺が目を開けると、そこには、荒れ果てた石造りの部屋があった。荒れてはいるものの、一応、グレンの部屋ではあるようだ。
そして、エリュンに会った覚えが無いということは、恐らく俺は死んで、エリュンの治療を受けたという訳では無さそうだ。残りの死亡数を減らすことが無く復活できて良かった。
だが、今は、『心臓蘇生術』が神によって授けられたものだったのか、などと考えている場合では無い。今いちばん大事なのは、エミルがきちんと復活できているか、ということなのだから。
俺は、体を起こし、辺りを見回す。と、俺の視界にエミルの姿が入る。エミルは、俺を見るなり駆け寄ってきた。果たして、それは、俺が倒れていたのを心配して駆け寄ってきてくれたのか、もしくは、俺が意識を取り戻したのに気づいて、俺を仕留めに来たのか――
俺は、緊張感を持ちながらエミルの行動を注意深く見守る。エミルの口が開かれる。その口から発せられた一言は……
「楽夜、大丈夫だった?」
という、俺を心配するような言葉だった。俺はひとまず安心する。エミルは正気を取り戻していたようだ。
「ああ。レックスのお陰でな。それにしても、ひどい荒れようだな……」
俺は、そう言いながら、もう一度辺りを見回す。壁はあちこち凹んでいるし、王座にも傷がついている。どれだけ派手にやったらこんなことに……
「この部屋の凹みや傷のこと? これ、全部私がやったの」
そうエミルは言い放つ。一体、何があったらこんなにこの部屋を荒らすことになるんだ……
「実は、楽夜が意識を失った後、レックスが、楽夜に『心臓蘇生術』をかけようとしてたんだけれど、クロムやクロームが出てきて、その邪魔をしてきたの。それで、私は、邪魔をさせまいと、いつもより大きく動いて、術の発動の妨害を防ごうとしたの。その結果、あちこちにハンマーをぶつけて、結果、こんな荒れ方になっちゃったの」
そうエミルは話すが、それにしたって、ひどい荒れ方だな。まあ、レックスの術の発動の邪魔を防いだのだから、ありがたいな。
「なるほど。ありがとう、エミル。そのおかげで、俺はここに生きていられている。もしも『心臓蘇生術』が発動していなかったら、今、俺はここにはいなかっただろう。エミルの健闘に感謝するよ」
「そんなに言ってもらっちゃあ、私としても嬉しいわね……でも、これで終わりじゃないわよね?」
「ああ。俺の大切な仲間たちを奪ったグレン達には、重い罰を与えないとな」
「そうね。グレン達、覚悟しなさい!」
エミルのやる気も満々だ。無論、俺だって仲間を奪われて黙っているわけがない。俺は、刀を構え、グレン達を睨みつけるのだった。




