第十章 最後まで諦めない者が報われる時 1 一筋の光
光の先は、元いたヒューリ城の王座の間だった。だが、俺がスライムクイーンに取り込まれた時とは状況が違うようだ。
シュートとレックスは、オリクと対峙している。だが、オリクの方にやや分がありそうだ。シュートもレックスも、胸に手を当て、苦しげな表情を浮かべている。恐らく、スライムクイーンの中にいた俺に、脱出方法を伝えながら、オリクと交戦していたのだろう。だが、流石に、俺にダッシュ方法を伝えながらオリクと互角の戦いを繰り広げるのは厳しかったのだろう。もう二人とも、満身創痍と表現するのが適切なくらいに弱らされていた。
俺は、石畳の床に『妖斬刀・旋風』と『不壊の盾』が落ちているのを見つけ、それを拾おうと近づいた。と、その時。
「この一撃で二人とも仕留めてあげる」
そのオリクの冷酷な声が俺の耳に届いた。俺は急いで『妖斬刀・旋風』と『不壊の盾』を拾い、オリクと二人の間に向かって飛び込む。
と、その直後、銃声が二回鳴り響く。銃弾は二発とも俺の『不壊の盾』に阻まれ、二人の元へは届かない。
「なっ……楽夜……」
オリクは俺の姿を見て、驚いているようだ。まあ、スライムクイーンという別格の存在に完全に取り込まれかけていた俺がここに戻って来られる確率なんて、相当低いだろうからな。
「もうお前達の好きにはさせないぞ! エミルとオリクは返してもらう!」
俺はオリク達に向かって言い放つ。
「返してもらう? 面白い。私とスライムクイーンの前に、楽夜がどれほど耐えられるのか、見させてもらう」
オリクもそう言い返してきて、お互いにやる気は充分だ。オリクも決して油断はしていないようだし、ここは俺の方から攻めさせてもらうとしよう。
俺は、無詠唱で『神速斬り』を発動し、オリクの懐に入り込む。その勢いのままに、オリクに向けて刀を振ろうと考えるが、その前にオリクも反応していたようで、『金の盾』を構えて、俺の刀を防ごうとしている。
となると、ここで刀を振るう意味は皆無だ。俺は一旦バックステップでオリクと距離を取る。
すると、俺の背中に柔らかい感触が。
「まさか、自分から私の元に帰ってくるなんてね。それだけ私を溺愛しているってことなのね」
その声の主は、スライムクイーンだ。即ち、俺は、バックステップをした結果、俺がついさっきまで捕らわれていたスライムクイーンのところへ戻ってしまったという訳だ。
「また私の中で、あなたを堕としてあげようかしら?」
「お断りする!」
俺は断固拒否の姿勢で、その場から離れる。と、
「隙だらけ。そんな人が戦場に立つ資格なんて無い。消えて」
と言い、オリクが銃弾を放つ。その銃弾はぐんぐんと俺に迫ってくる。俺は盾を構え、銃弾の直撃に備える。すると、
「楽夜、避けろ!」
というレックスの声が俺の耳に届く。レックスには何か考えがあるのだろうと察した俺は、迷わずに逸れる。と、
「うっ……アァ――ッ!」
という悲鳴が俺の背後から聞こえる。俺が驚いて後ろを振り返ると、そこでは、スライムクイーンが胸を押さえて膝を突いていた。
「くっ……長くは持たなさそうね……こうなったら一気に決めるわ! 『スライムソウル』!」
そうスライムクイーンが唱えると、スライムクイーンの体の一部がちぎれて、俺に飛びかかってきた。俺は咄嗟の出来事に反応が遅れてしまう。と、飛びかかってきたスライムが、俺の胸の中にス――ッと入ってきた。と、俺の胸のあたりが激しい痛みを訴える。
俺は、胸に目を向ける。と、俺の胸の辺りがスライムに侵食されていた。さらに、一定間隔で全身がズキズキと痛む。
「もうあなたも長くは持たないわ。あなたの心臓はスライムによって作り変えられ、その動きを止めるかの選択権は私にあるの。つまり、あなたの生殺与奪権は、私が握っているということよ。これであなたは迂闊に動けないわ。ハ――ッハッハッハッハ!」
スライムクイーンがそう嘲笑うように言い放った。




