第十章 最後まで諦めない者が報われる時 1 一筋の光
俺は完全に目を閉じ、スライムクイーンによって、グレン達の元に堕とされかけていた。このままだと、俺達の全滅は必至だ。それは分かっているのだが、力がどんどん抜けていき、重いまぶたを開くだけの力も残っていないのだ。さらに、
『大丈夫よ。私達の配下になってしまえば、元の仲間のことなんて考えなくていいわ。私とオリクと一緒に、楽しく暮らせるの。痛くされるよりは、そっちの方が良いでしょう?』
などとスライムクイーンが俺を誘惑してくる。平常時なら軽く聞き流せるはずのその言葉が、今は、心に深く突き刺さってくるようになってしまった。
確かに、それも良いかもしれない、そう俺が思い始めた時だ。
「……や……」
そう微かに声が聞こえたような気がする。
「かぐや……」
それは、果たして気のせいなのだろうか……
「楽夜!」
……いや、気のせいじゃない。確かに声が俺の耳に届いた。
『鬱陶しい声に耳を傾ける必要は無いわ。あなたはこうして、私の声だけ聞いていればいいのよ』
そうスライムクイーンは俺に囁きかけてくる。だが、
「楽夜、目を覚ませ!」
という声に、俺の意識は現実へと引き戻された。それは、レックスの声だ。レックスが、スライムクイーンの外から俺に話しかけてきているのだろう。
「楽夜、スライムクイーンに誘惑されちゃ駄目だ! エミルを、オリクを、お前の大事な仲間たちを救うんだろ!」
そうだ。俺は、エミルとオリクを救わなければならないのだ。ここでこうしていては、その目的を達成できない。俺は、体中に巻き付いている触手達を、力ずくで引きちぎる。
「楽夜、スライムクイーンの体の中に、鉛の玉のようなものはあるか?」
鉛の玉か。それがスライムクイーンの弱点なのだろうか。ひとまず探してみよう。
俺は、視線を右上に向ける。と、そこには、鉛の玉のようなものが突き刺さっていた。
「鉛の玉を見つけたら、その鉛の玉を、ぐっと力を込めて押してみてくれ!」
俺はそのレックスの声に従い、思いっきり力を込めて、鉛の玉を押し込む。と、
「やめて……あぁっ!」
と、スライムクイーンの悲鳴が聞こえる。が、俺のことをここから出すつもりは無さそうだ。と、
「駄目か……それなら、楽夜、反対側も調べてみてくれ。もしかすると、そこにもう1つ、鉛の玉があるかもしれない」
というレックスの声が聞こえてくる。俺は、レックスに言われた通り、反対側も探してみる。と、そこには、しっかりと刺さった鉛の玉があった。俺は、その鉛の玉も思いっきり押し込む。と、
「アア――ッ!」
というスライムクイーンの悲鳴のような叫び声が聞こえる。と、スライムクイーンは暴れているのか、地震のような揺れが起こる。かと思うと、その動きと共に、俺はスライム達に押し流されていた。俺の流れていく先には、明るい光が見える。
俺は、スライム達に押し流され、光へと飛び込んでいった。




