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卒業アルバム 前編

「結婚おめでとう」

 今も想いがあるわけではない。けど、心の中のよりどころを1つ失ったような虚無感に襲われた。


 中学生の時、片想いしていた彼女が子供を産んだとSNSで知った。


 中学生の頃は、人の顔色を伺うとか自分の行動、言動が周りにどう影響するとかあんまり考えていなかった。楽しかったらおっけー、今さえ楽しめればいいって考えだった。

 だから、人見知りもなかったし、男女問わず物怖じせず話しかけていた。


 僕が育った町は田舎だった。田んぼと山しかないようなドがつくほどの田舎というわけではなく、車を出せば、ショッピングモールはあるし、近くに商店街もある。小学校は全部で500人くらいいたし、同じ学年は90人の3クラス。そのくらいの田舎だ。


 同学年全員とは顔見知りだし、小学6年間過ごした友人たちとそのまま中学校にあがる。中学生になることに浮かれることはなかった。6年間通った小学校の隣の中学、そして変わらないクラスメイト達。中学校に上がれど特に心の変化はない。


 そんな中、引っ越して来たのが天然パーマの目がくりくりした女の子だった。きっかけは覚えてないがすぐ仲良くなった。休み時間の度に話した。会話の半分以上がお互いをからかうような内容だったが、2人ともよく笑っていた。彼女の笑顔が見たくてたくさん冗談を言った。


 けど、そんな関係が変わるのもすぐだった。ある日、授業中男友達が僕に手紙を渡してきた。


 手紙の内容は

「彼女のこと好きなの?」


 きっとその男友達は、彼女のことが好きだったんだろう。彼女があまりにも僕と仲が良いから探りをいれてきた。中学1年生。恋愛のれの字も知らない時期。男女の関係を揶揄われるのに1番多感な時期。僕は、思ってもないようなことを書き。その子に手紙を返した。


 返してしまった。


 授業終わりにその男の子が聞いてきた。

「これ、本人に見せてもいい?」


 自分でも分かるくらいに顔が引き攣る。見せていいわけがない。けれど、首を縦に動かしていた。


 昼休みの終わり際、彼が彼女に手紙を渡していた。


「これ見て、あいつとの手紙のやり取り」

 僕と手紙を往復するように指を指していた。


やっぱり見せたらダメ、そこに書いたことは嘘だ。と声をあげようとした時、


 5時間目が始まるチャイムがなった。


 彼女が嬉しそうな顔で手紙を開けたのを今でも覚えている。

 しかし、文字を目で追うごとに口角が下がっていった。


 違う。そこに書いてあるのは、嘘。うざいなんて思ってもいない。話しかけてくるのをうっとおしいとも思ったことない。嘘偽りしかない文字がどんどん読まれていく。

 そんな悲しい顔にさせたかったんじゃない。僕のつまらないプライドなんか捨てればよかった。可愛いよねとか、一緒に話してるとすごく楽しいとか正直に書けば良かった。友達としてすごい好きとか。


 友達として好きじゃないな。違う、異性として好きだな。ってその時、気づいた。


 彼女は泣いていた。授業中、誰にも気づかれないように一人こっそりと涙を溢していた。


 この授業が終わったら謝ろう。そう思った。


 授業が終わるチャイムが鳴った。今までの人生の中でで1番長い50分だった。

 席を立ち、彼女の席に謝りに向かおうとすると、彼女は逃げるように教室を出ていった。


 僕は、お手洗いかな、なんて呑気なことを考えていた。追いかけ腕を掴んででも謝ればよかった。この時はまだ取り返しのつかないことになるとも思っていなかった。


 僕は、彼女が教室に戻ってくるのを待っていた。けど、彼女が教室に戻ってくることはなかった。その日、彼女は早退した。


 そんな状況でも僕は、体調が悪くなったのかな。大丈夫かな、なんてまた呑気に考えていた。

 マイペースすぎる自分を殺してやりたい。この時の僕は罪悪感を感じ明日の朝1番に謝ろうと思った。


 僕は、毎朝学校のチャイムが鳴ると同時に学校に着くくらい、朝が苦手だった。けど、彼女に一刻も早く謝りたいと思い、朝早く学校に行った。彼女は、僕とは正反対でいつも朝余裕をもって登校をしていた。そんな彼女の真面目なところも好きだった。


 学校に早く着きすぎた。教室には誰もいない。


 はやく教室にこないかな、と教室で待った。いつもは聞こえない教卓の上の時計の秒針の音、朝練をしている野球部の声。朝ってこんなにきもちいいんだとぼーっと外を眺めていたら廊下から足音が聞こえた。


 彼女にどう言おうかな。誤解を解きたい、早く好きだと言いたい、そんなことを思いながら彼女が教室に入ってくるのを待った。


 一歩一歩教室に足音が近づいてくる。思わず息を飲み込む。


 教室のドアがガラガラと開いた。


「あれ、今日珍しくはやいねー。おはよ」


 彼女じゃなかった。気持ちが昂ぶりすぎて思わず舌打ちをしてしまった。

 ごめんね、あの時のクラスメイト。


「くやし〜!私が1番乗りを逃すなんて。なんで今日は早いの?」

 なんてクラスメイトが話しかけてくれるが正直話している余裕はない。

 今か今かと彼女がくるのを待ちわびていた。しかし、一人また一人と教室に入ってくるクラスメイトの中には彼女の姿はなかった。


 結局、HRが始まっても彼女が姿を現すことはなかった。


 それから彼女は1週間学校を休んだ。インフルエンザだったようだ。


 その1週間後、彼女が登校してきた。謝ろうと彼女の方に話しかけようとすると顔を背けられる。話しかけそうにもなんだか気まずい雰囲気が流れ話しかけることができなかった。


 会えなかった1週間はあまりにも長かった。僕たちの溝が深まってしまうには充分な時間だった。話そうとしても話かけれなかった。ずるずると2週間、3週間話すことができず


それから中学3年生になるまで僕たちが話すことはなかった。




彼女に彼氏ができるまでは。



 中学2年生の時、小さな変化が起きた。周りからしたら大きな変化だったのかな。

 天然パーマだった彼女の髪が真っすぐになったそうだ。2年生では彼女と同じクラスになれなかったから噂で聞いた。縮毛矯正をしてからすごく可愛くなったって。先輩もわざわざ教室に見に来るくらい可愛いって。


「可愛くなったんだって」

クラスメイトが話しかけてくる。あの朝が早い子。

「僕には関係ない」

「機嫌損ねないでよー。ねぇ、ねぇ数学で分からないところあるんだけど」


 めんどくさかったので無視して視線を廊下に移した。

「ほんとにお願い。今日授業で当たるからさぁ。ジュース奢るからさ」


 しつこかったから数学を教えようと視線を机に向けようとした時、彼女が廊下を通った。

 そこには、笑いながら話す彼女といかにもチャラそうな男がいた。心がモヤモヤした。

 モヤモヤする資格なんてないはずなのに。確かに彼女は可愛くなってた。けど、元々彼女は可愛いじゃないか。なんで、少し外見を変えただけで、


「ちょっとずっと廊下ばかり見てどうしたの。あっ」

 クラスメイトの声で正気に戻った。


 その後、仕方がなく数学を教えた。




 人の噂も七十五日というが、彼女の可愛さは揺るぐわけがない。彼女は、後輩から先輩まで相変わらずモテていたらしい。


 そんな中、彼女と1番仲がいい子から

「あの子まだ君のこと好きみたいだよ」

 と言われた。この時どんな気持ちだったか覚えていない。心が踊ったのだろうか、なんで未だに思ってくれているのかと疑問を持ったか、揶揄っているんだけなんだろと無視したのだろうか。



 ただそのことを聞いた時にはもう遅かった。


 僕は既にクラスメイトと付き合っていた。そう、朝1番に教室に来る子、勉強を教えたあの子だ。アプローチを受け、現実逃避をするようにクラスメイトと付き合った。


 付き合う少し前のことは、彼女の周りの仲のいい人女の子たちに告白しろよとよく揶揄われていた。


 1年間も話してないのに...人の気もしらないでと思い、無視した。


 男の子達にも、よくトランプのゲームとかじゃんけんとか勝負事をけしかけられ、その勝負に負けるたびに罰ゲームで彼女に告白しろと言われた。それも無視した。


「彼女と君全然釣り合ってないよ、諦めなよ」

 と知ったような口でいってくる友人もいた。それは、


それは無視できなかった。


 今の僕に何の価値があるのだろう。人気のある彼女と意気地ない僕。


 周りから告白しろと言われたり、諦めなよと言われたり、なんだか行動一つ一つを監視されてる気分になった。学校での居心地が悪かった。その時からだろうか人一倍周りの目を気にするようになったのは。

 人と話す気もなくなった。もう空気になりたかった。


 けれど、クラスメイトは僕に話しかけてきた。僕も相当冷たい態度を取っていたと思う。けれど、クラスメイトは笑顔で話しかけてきた。幸いなことにクラスメイトは彼女の話題を出さなかった。クラスメイトといるのに居心地の悪さはなかった。


 人間関係に疲れた僕は、部活にも行かずにぼーっと教室で過ごしてた時があった。その時もなぜかクラスメイトが教室にいた。そして、笑顔で話しかけてきた。ふいに聞いた、


「なんで、そんな僕に構うの?」


「好きだから。だから、私と付き合って」

 夕日がかった彼女の顔は真剣そのもので、真っ直ぐな言葉で僕に伝えてくれた。彼女がひどく眩しく見えた。けれど、僕は断ろうと思った。

「私のこと好きじゃなくてもいいから付き合って」


 僕は思わず頷いてしまった。


この日からクラスメイトは恋人になった。


 すくなくとも、学校の中でクラスメイトの隣が居場所に感じていたからだったのだろうか。


 付き合いだしてからは、学校での居心地は悪くなかった。あまり周りも気にならなくなったし、彼女のことで揶揄う人もいなくなった。いつもと変わらぬ日常が戻ってきた。朝ぎりぎりに登校して、休み時間は恋人と話す。変化があるとしたら休みの日だった。恋人が行きたいといった場所にいったり、ファーストフードに一緒に食べに行ったり、公園で運動したりと中学生らしいデートをした。


 そんな平和な日が続いたのもたった3ヵ月だった。恋人に放課後教室に呼び出されたのだ。

 太陽が落ちかかった夕方、教室は少し赤く、恋人が告白してくれた日を思い出した。


「改まってどうしたの?」

 恋人に聞いた。


「あのね、別れてほしい」

「いいよ」


 僕自身が別れたかったか、別れたくなかったかはわからない。けど、恋人が別れたいからと思ったなら別れるしかないと思った。


「なんで理由を聞かないの?やっぱり私のこと好きじゃないんだ」

 泣きながら僕に言ってきた。好きかどうか分からない。けど、好きじゃなくてもいいからと言ったのは彼女だと思う。なんで泣かせてしまったのだろうと思った。


「君は、君はいつもそう。君の意見は言わずに私のわがままはすぐに受け入れてくれる。君に意見なんてないの。いつもどこかにふらっと消えそうな気がして私はもう耐えられない。どこかに消えちゃいそうで。私耐えられない」


そんな風に見られていたのか。


「あと最後に君は絶対まだ彼女のことが好きだよ。1年生の頃からずっと。気づいてないでしょ。廊下ですれ違う時とか、体育祭の時とか、部活の時とか自然に目でおってる。じゃあね」

 まくし立てるように言って教室を出て行った。僕は、彼女が好きなのだろうか。もはや自分でもわからなかった。けれど、ずっと僕のことを見てくれたクラスメイトのいうことだ。きっと僕はいまだに彼女のことが好きなんだろう。なんだかその事実が呪いのように感じた。


恋人はクラスメイトに変わった。


 教室はすっかり暗くなっていた。肌寒くなってきた季節、僕は教室に一人だった。




 次の日、学校に行ったら女の子達が僕の方を見てひそひそと話すようになった。居心地が悪かったが付き合う前に戻ったと思えば多少は心がましになった。昼休み、辛うじて話をする女の子がいきなり「謝りなさいよ」と言ってきた。


 別れたことか。確かに僕が悪かったよと、とりあえず返事した。


「何、その態度。浮気したくせにそんな謝り方じゃ許せない」

 ちらっとクラスメイトの方を見る。クラスメイトは目が合うやいなや俯く。恐らくクラスメイトは別れた理由を浮気されたからだと言ったのだろう。教室にいる人たちが僕の方を見る。気持ち悪くなり、保健室に逃げた。


 逃げ回っている僕に罰が下ったのだろうか。僕は病気になってしまった。治らない病気。

続きます。

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