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戦争で得られるものはなんですか?

作者: 椎井 三折
掲載日:2023/03/14



戦争で得られたものは何なのか?


私は死地にあの人を送った


皆が皆あんたの旦那は立派に戦ったと口を揃えて言ってそれぞれの称賛の言葉を送った


旦那の部下らしき男が言った。

「春奈様の旦那様は、立派な死を遂げました。」


右腕、左足を根本から欠損している男が誇らしげに言った。

「塹壕戦の中生き残れたのはあいつのお陰です。ありがとう」


隣人の妻が笑いながら羨ましそうに言った。

「春奈さんの旦那さんはかっこいいわね。私の旦那なんてね臆病者だから逃げてきたのよ」


彼の死は、周囲の称賛の声と賛美の眼差しに私は、喜悦した。

「ありがとうございます。あの人もお空で私達を見守っています」

これが正しい事なのだと疑う事もなかった


それから数日過ぎれば、酷く感情が冷静になり、疑う心を持ち始める

あの人が死ぬことを喜んでいいのか...。と



あの人が残した木造の長屋

食事は水に浸した米粥に大根の葉をみじん切りにしたものだ


塩は高級品なので入れていない

美味しい不味いは別にして少しでもお腹を満たすために水を多めにいれたお粥だ。


そのお粥を木の茶碗に一杯ずつ注いでいく


息子に二杯、娘に二杯、私に一杯


「お母さんそれだけでいいの?」

「大丈夫よ。お母さんは、食べてきたからあんた達が食べな」


「ずるい!私も食べたかった」

6歳になる娘が口を開いた

それに対し10歳の息子は、咎める

「こら!お母さんだってお腹の赤ちゃんに栄養をあげないといけないんだ!俺の分もやるから泣くな」


「うん、ありがとうお兄ちゃん」

流れた涙を指で拭い娘は礼を言った


「...ホントにごめんなさい」

私は満足にお腹を満たせない子供達を見て心がとても...とても胸が苦しくなる


今は亡きあの人が、この光景を見たら何を言うだろう


そんな事を思いながら、私はあの人が残した遺書を握り締める




5年後

戦争が激化をはじめ徴兵制度の対象が、満18歳から、満15歳に引き下がった


15歳になった翔平は、軍服に身をつつみ、立派な敬礼をする。

玄関の扉をゆっくりと開けて息子は一度立ち止まり私を見る


その目は何処か寂しそうで、辛そうなそんな瞳


「行きたく...いや、」そこで言葉を止めて(かぶり)を振った

「お母さん行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」


私は何て言ったらいいのか分からず、あの人を送り出した時と一緒で、笑顔を作る


それから一年後

最低限の訓練を行い、その日から息子は予備兵から兵士になった



息子side:


俺達は敵兵に囲まれ硬直状態

360゜敵だらけの孤立状態


敵兵が降伏勧告を発令するが、捕虜になった後の末路を知っている俺達は完全な徹底抗戦を行おうとしている


捕虜になった所で待つのは非人道的な実験に自らの身体を提供か、敵兵に銃の整備点検の名目として鉛玉の的になるかだ。


そんな中一人の大隊長が将兵の前に立ち、高らかとした声で味方兵士を鼓舞する


「我ら帝国兵は、ここで死ぬことを敵兵から求められている。だが大人しく死んでやる義理もない。」


そこで言葉を止め付け足すように冗談混じりに口を開く

「まあ、死んでほしいと懇願されるかもしれんが、その時は丁寧に鉛玉でもぶち込んでやることだ。」


「ははは!その時に雑にならないことを祈るばかりです」

「なーに、俺が隣で見ているから、軽く軌道修正はしてやる」


「それは、我ら小隊も混ぜてもらえるので」

「だめだ、これは中隊規模となると敵も緊張してしまう。」

「それは残念。」

これから彼らは死ぬのだ。そんな中、冗談を言えるのは死の恐怖が味方を狂わせている証拠だろうか。


味方が笑い合っていなければ、俺は完全に錯乱していただろう。

「遺書を急いで書け、それが終われば直ぐに徹底抗戦に移る」

「はっ!」


ピシッとした敬礼を行い 遺書を書くためにそれぞれの行動する


(書いたところで意味は無いかもしれないが、もしかして母さんに届くかもしれない。やらないよりはいい)


そう思い筆を取り遺書を書いた


翔平の遺書を集め缶に入れて密封する。

そしてタイムカプセルのように土に埋める


(俺はここで死ぬのか...)

この部隊に配属前に遺書を書いた

書いたのはたった二行、多分だが生きて帰れるだろうと楽観的に考えていたが俺はとても間抜けだったみたいだ


(はぁ。この遺書は、感謝を沢山したためよう。母さんに伝えたい事を沢山...)



その日彼の最後の戦いが始まった



今日私は息子の戦死を告げられた

「翔平伍長は、立派な戦死を遂げました」

その日息子の配属されてる大隊は最後の奮戦を遂げ全滅


息子は勇敢に戦ったと、見てもいない男がそう言った


カタミはなく、配属前に書かれた遺書のみが届けられた


そんな遺書を夜中ひっそりと遺書を開き声を抑え涙を流す


(遺書)

お母さんありがとう。

行ってきます。


遺書にはこれだけしか書かれておらず、息子は死地に行くのではなく、帰る事のできる戦地に向かっていると思っていたのだろうか


お腹の赤子が流れ、追い打ちのように娘も過度な労働により亡くなった。

今日、さらに息子の戦死を告げられた


限られた食事で栄養が足りず、栄養の足りなかった私は子供が生まれることもなく、流産した


愛する夫を失って、いとしい息子を失って、愛らしい娘を失ってそして産まれる予定の赤子を失った...失ったのにまだ戦争には勝ってくれない


もう何を言えばいいのか、私は何をしていたのか





それから6年が経ちやっと戦争が終わり

勝利でも敗北でもなく、戦争は講和により終戦した


あれだけ失ったのに勝利でも敗北でもなく、お互いの痛み分けみたいなもの


あれから3か月後

息子の最後の戦地で見つかった一枚の手紙が届けられた


(遺書)

お母さん俺はこの地で死にます

大切に育ててくれてありがとう

俺のカタミを残すと悲しませてしまうと思うからカタミは残しません

ありがとうございました。

本当にありがとうございました。

翔平伍長



手紙には、濡れた跡が残っており所々文字が滲んでいる


「ほんとうに.....ほんとうに戦争で得られたものは何だったの」


机の上に、遺書を3枚とカタミを二つ置いた

人一人支えることのできる縄を輪っか状にして、落し掛けに結ぶ


(ごめんなさい、みんな)

その思いを最後に輪っかに首を掛け、自分の乗っている椅子を蹴り飛ばした

呼んでくださりありがとうございました。

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