アンドロメダ旅行記 -The Travel of Andromeda-
おお!神よ!なんて人生は短いものなんだ!我々はこの地球の表面でほんの少しだけ生きて死んでいく、、、しかも、動くにしても光の速さに満たない。そう、仮に100年生きるとしても、俺たちはせいぜい半径100光年の枠の中でしか一生を過ごせないのだ!そんなのはあんまりである。もっと、この世に生を受けた者として、可能性を広げたいのだ!
ただ、その可能性を広げるためには…
…そう、宇宙に、半径100光年以上の活動範囲を広げるしかない。
人間の技術の進歩で星にはいけるようになったが、銀河には手が届かない…銀河はこの望遠鏡ですぐに「見え」はするのに…
そう思いながら望遠鏡を覗くと、、最初に見えるのは、220万光年先にあるアンドロメダ銀河。
超光速移動ができれば...生きている間にたどり着けるのに...!
俺は望遠鏡の前で崩れ落ち、自分の甚だしい無力さを嘆いた。
くっ、アンドロメダ銀河も、俺も、同じ宇宙空間の中にいるはずなのに、どうして生きているうちに手が届かないんだっ…!
…ん?空間?
いや待てよ。冷静に考えて、俺たちは光だとか宇宙船だとか、物質、つまりは「乗り物」に乗っての超光速移動を考えていた...
それでは頭打ちが来てしまう。それを打破するには...
たとえ僕達が乗り物に乗っていても、この宇宙空間のうちの一つであることには変わらない…
宇宙空間は、常に膨張している…
いつかの科学書で、「宇宙の空間膨張速度は光速度よりも速い」とあったな…
そのとき、俺の脳内の神経細胞が大団円を織りなし、俺の頭に電撃が走った。
そうだ! 空間そのものを变化させればいいんだ!!
光速よりも速い空間膨張を利用して、「人工の膨張する空間」を即席で作り出し、現実世界と人工空間をリンクさせ、一時は人工空間の中にいて移動し、目的地あたりの座標で人工空間から抜け出せば擬似的に「ワープ」のようなものが実現できる…!
例えば、地点Aから何億光年もはなれた地点Bに生きたい時、まず地点Aにて現実世界から人工空間へ移動する。
その人工空間では、移動時に空間の膨張の影響で、ちょっとしか進んでいないはずなのに現実世界では100万光年進んでいることになり、現実世界で地点Bと同じくらいの座標となる位置に移動できたら、人工空間から抜け出して現実世界の地点Bに着き、晴れて数分の時間で何百万光年もの移動をしたこととなる。
このような人工空間への干渉移動…これを使えば、ワンチャン超光速移動が、実現できるぞ…!
そうとなれば、話は早かった。俺は真っ先に本屋に行って物理学・工学の本をむさぼり読み、ホームセンターからレンチ、はんだごて、トンカチなどを買い漁って、「人工空間発生装置」を製作し始めた。この長いーーーいや、本当は短いのを、長いとごまかしているだけかもしれないがーーー夏休みの期間をつかって、防音設備を整えた自分の部屋でドンドンバチバチと装置を作った。
このトンカチをにぎる自分の手が、やがて超100光年先へ伸ばせるようになると思うと、ウキウキワクワク高揚感が止まらなかった。
時間は流れるように過ぎ、ちょうど8月下旬に差し掛かったとき、ついにその装置が完成となった。
人工空間を発生する装置は、SF展開でよくあるようなハンドガンくらいの寸法の光線銃である。
超高速移動のやり方は、具体的にはこうだ。まず光線銃を使って、移動したい位置を設定し、その銃から光線を出して、光線を、丸を描くように囲んでえがき、人工空間の入口をつくる。
この人工空間は、光線銃から出る光線がが含有している高エネルギーによって、重力が押し曲げられて一時的に歪み、そのなかで新たな異空間がつくりだされる。その捻じ曲げ方の仕組みはとても複雑で系統、つまり種類が多いのだが、、まあ、こんなのつくるの俺ぐらいだし、そこは深く気にしないでいいだろう。
そして、自家製のコンパクト型宇宙船に乗ってその入口から人工空間に入る。本当はドラえもんのような平たいタイムマシンを作りたかったのだが、宇宙は空気がないので、結局酸素の補給のために、身体を覆う用のガラスを作らないと行けない。そのせいでバイキンマンがいつも乗っているもののような宇宙船になってしまった。まぁそれはともかく、その人工空間に入ったら、目的地への出口が、人工空間の向こう側で開いているため、
宇宙船を動かして移動し、そこから出口へ出て、その目的地の地に着いたらまた光線銃を使って光線で出口を塗り潰せば、出口はたちまちなくなり、超光速移動完成となる。
入口・出口は空間の内側からも塞げるが、いちいち遠い入り口を塞ぐのも億劫だから、入口は 3分後に閉まるようにした。
ただ、人工空間の二重構造はまた違う重力の曲げ方が必要となるので、人工空間内に新しく人工空間の入口を作ることは今のところできない。
加えて、安全確認については、感覚器官の材質(触感)を人間に寄せて有害物質検出器も組み込んだ等身大マネキンで確認済みだ。放射線や膨大なGなどはかかっていなく、無事に宇宙船もマネキンも戻ってきたため、人間が行く分には丁度いいと思った。
親は同窓会仲間で旅行に行っていて、数日は留守番状態だ。
時は、満ちた。
こうして俺は、早朝の青空の下、自分の部屋で、胸の高鳴りに身を任せ、最低限の荷物と夢と希望を手にし、行き先をアンドロメダ銀河にして、光線銃のトリガーを引いた。
激しいレーザー音が鳴り響きながら、薄く光った空間が織り成していった。
俺は人工空間のゲートができたら、すぐさま宇宙船に乗り込んだ。
そのまま、俺は宇宙服と宇宙船を身にまといながら、人工空間へ足を踏み入れた。
空間内は、なるほど人工的に重力を推し曲げて作っただけあって、不透明かつ灰色で薄暗いものであった。
しかし、設定した出口の方は、白く輝いているかのようだった。
俺はまるで本能に誘導されるかのように、白く輝く出口へと先を急いだ。
はやく、はやく、はやく、、100光年を超えた、世界へ…!!
思い切って出た先は、
壮大な虚無であった。
取り敢えず、人工空間の出口を光線銃を使って塞ぎ、辺りを見回した。
真っ暗闇と無重力、そして深夜の書斎のような、だけど閉塞感のない静けさ…
その虚無の向こう側に、ぽつ、ぽつと光るものが見える。
あれは星だ。
す、すげぇ…!もっと、もっと近くに…!
毎日学校と家を行き来していて同じ景色しか見ていなかった俺は、水を得た魚のように喜んだ。
俺はレバーを星の方向へ向けて移動した。
俺はまだ止まぬ胸の高鳴りを隠せずにいた。
そこからはありとあらゆる星を巡っていった。
おお、この星は表面がほとんどカルスト地形ではないか。
こっちは氷だらけ!もし生命がいたら、毎日スケート状態で楽しいだろうなー。
レバーを引き、方向を変えて、次の惑星へ。
ゴーゴーとなるジェットエンジンを聴きながら、地球上に比べたらものすごいスピードでさまざまな星を通り越していく。ふと後ろを見ると-いや、正確には後ろは背もたれで、宇宙船は人1人が入れる分のコンパクトな大きさだった。俺はこの宇宙船内の閉じこもった雰囲気に、もの寂しさではなく安心感を感じた。それと同時に「俺は自由だ」という、その安心感に裏付けされた高揚感が湧いてきた、
と、その時、有機物反応が出た。
有機物反応が出た。
「有機物警報。有機物警報。」アラームが鳴り響く。
ということは生物が存在している、ということか!!ようし、そこに行ってみよう。
俺はそう思い、着陸準備スイッチを拳で押した。
「着陸態勢。着陸態勢。すみやかに準備。」
ゴゴゴゴと車内が揺れる。壁がバンバン音を鳴らし、少しの緊張感と大いなるワクワク感を生み出した。俺はGがどんどん大きくなっていくのを感じたが、高揚感がそのGに抗うかの如く膨れ上がっていった。
そうして俺の宇宙船は、爆速で急降下する中、その星の重力を検出して、それと釣り合うように、反対向きにジェットエンジンの量を調節して、穏やかな等速直線運動をしながらその星に降り立った。
空は薄い桃色で、細長い雲が空に無造作に存在し、俺の真上の空では太陽のような恒星が二つ、ギラギラとせめぎ合うように照っている。
「ふう、人仕事、あ、まちがえた、一仕事終わったぜぇ。」
そう言いながら俺は、宇宙服を来て宇宙船を出よう…としたが、宇宙服が重すぎる。重力が地球とあまり変わらない、、だと!?
しかも、宇宙船に着いている酸素割合検出メーターが、「安全な空気」と緑色の信号を出している。不思議に思った。騙されたと思って重い宇宙服のヘルメットを取り、深く息を吸ってみると、
あれ、呼吸が少し楽だぞ。どうやら地球よりは酸素の割合が多いみたいだ。
色々な事実について驚嘆していたが、知らずしらずのうちに俺は、生物に周りを取り囲まれていたみたいだ。
ここに…生物は存在するのか。
まあ、小惑星からアミノ酸が検出されるというニュースが以前あったくらいなので、生態系を形成している惑星がある、ということは薄々感じていた。
その生物は攻撃をしようとする素振りはなく、ただ不思議そうにこちらを見ている。 …ということはすでに「目」のような視覚器官がある、ということか!?
いやまてよ、よぅく生物を見てみると…顔が人間そっくりではないか!顔に限らず、身長も腕も。もしかして、アンドロメダ銀河にたどり着いた人類が、俺の他にいたということか!?
そして、何かしら音を出し始めた。甲高い音、というわけではないので聞きやすいが、正直何言ってるのかさっぱりわからない。
こんな時のために、音の波長と話者の動作からパターン解析で言語情報を読み取り、日本語に翻訳するヘッドセット型装置を持ってきたのだ。更に、逆の動作で日本語をその話者の宇宙語に変換することもできる。
俺はひとまず、目の前の、緑の目をした袴姿の好青年?に話しかけた。
「あ、あなた達は一体何者なんですか…?」
「え、…あぁ。このペガス星にすむナベル族さ。そうだ、名乗るのを忘れていたな。俺の名はレタナ。このあたりの住人さ。」
「お、俺の名はケンタです。ここから220万光年離れた地球という星からやってき来ました。」
「そ、そんな遠くからよく来たな。どうだい、長旅の気休めとして、私がおめぇさんにこの星を案内しようか。あ、別にタメ口で良いぞ。」
そもそもタメ口という概念がこの惑星にあったことにびっくりしたが、
「あ、じゃあ、、お願いっ、します!」
と、とっさにいった。俺はその案内とかどうとかよりも、外見が俺みたいな「ヒト」とほぼ一緒なのが未だに受け入れられていなかった。
一見本当にヒトと変わらない…が、女らしき人も男も、宮廷にいそうなロングスカートや袴を着ていて、足が見えない。
「了解した。しっかし今日は特に暑いな…」レタナは袴を仰いだ。
そこで俺が見えたのは、三角形状に体を支える3本の足であった。
「うおぉおっ!!」
驚きすぎて腰が抜けた。
たしかに、一番最低限の柱で安定するのは3本足だが…
「ん?どうかしたか?いきなり俺の足見て驚いて、…あぁ、俺の足が三本なことに驚いてんのか。皆そうだぜ。足が見られるのは恥ずかしいがな。逆に俺にとっちゃあ、おめぇさんが二本足で立てていることが驚きだぜ。だって、ちょいと押したら倒れそうじゃないか。」
たしかに、一番最低限の柱で安定するのは3本足だが…
そしてレタナの話から鑑みるに、多分、袴を来ているのは、前足をそのまま出すのははしたないという慣習があるからなのだろう。
「で、俺らがおめぇさんよりも多いのは、足だけじゃないぜ。」
するとレタナは後ろを向き、後ろ髪をかき分けた。
その後ろ髪の中には、、緑色の目がぎょろりと存在していた。
「うわぁぁあっっ!!」
俺はまた驚いたが、腰が抜けてもう身動きが取れない。
「これだけじゃないぞ、ほれっ!」
レタナは体を沿って、今度は頭のテッペンを俺に見せつけた。
そこにも緑色の目玉があった。
俺はもはや声が出なかった。
「俺らは前方に二つ、後方に一つ、上方に一つあるんだ。これで、どんなところからも見回し放題だぜ。まぁ、集中して見る視点は変わらず一つだけどな。ガハハ。」
要は、360°カメラのように見えるらしい。ただ、人間が一つのことに集中していたら他のものも見えないことがあるように、視点が集中できるのは一点でしかないとのことだ。俺はそのときびっくりしてレタナの言う内容が入ってこなかったが。
「さ〜てと、驚かすのはこのくらいにして、この星では一体何がトレンドなのかを教えてやろう。」
そういってレタナは俺を案内し、やがて服屋に入った。
なにか華美な広告が服の前に書いてあり、俺は例のヘッドセット型装置のカメラ機能を用いて、一体どういう内容が書かれているのか調査した。
「今の流行りはこれ!サッパリ系トリプルジーンズ」
さも、自分の足すらも三本あるような錯覚に陥った。
「どうだ。このジーンズ一回試着してみるかー。ははっ。」
「いや、明らかにジーンズの穴が一個余るから遠慮しとく…」
やっぱり、どんな生命体でも、自分の体型を当たり前と捉えるんだなぁ…と思う。
「ようし、次は幼い子どもたちでも見に行くか。学校へ行くぞ。」
案内人は少し速く歩き始めた。
新しい刺激がいっぱいだ。俺はそう心を躍らせ、案内人のあとを追って走った。
その時、斜め上の空がふと目に入った。
さっきも見た、地球での太陽のような双子の恒星…心無しか、片方が少しでかくなっている気がした。
学校と思われるところに着いた。
中に入ると、音楽の授業からか、美しい音色が聞こえてくる…あ、そうか。どんなに星が違っても、音階はどこでも存在するから、音で遊ぶ文化は地球だけのものではないんだとわかった。
俺はレタナに誘導され、ある教室へお邪魔させてもらった。
すると子どもたちが、堰を切ったようにわーっと俺のところに集まってきた。
「お兄さんすごい!二本足で、どうやって歩いてるのー?」
「すごい、しかも目が二つ!二つだけの目の世界って、どんな感じなんだろー?」
いろいろ質問されて、俺はひとまず「えへへ、、まぁ、慣れかな?」と肩透かしな答えしか返せなかった。
言い忘れていたが、ちびっ子たちにスカートとかを履かせるのはケガの原因だからか、ちびっ子たちは素足だ。通常のナベル族は袴やスカートを来ているため、どう歩いてるかわからなかったので、歩き方を知るいい機会だ。
なるほど、前足をまず支えにして踏ん張り、後ろ二足を前に出し、次は後ろ二足を支えにして踏ん張り、前足を前に出し、そしてその前足を支えに…ということを繰り返して歩いてくる。
どうやら、足が3つでも手は2つな理由は可動域が十分に広いかららしい。
「はいはい〜、みんなゲストのお兄さんにすがりつきすぎるのはやめるの。これから予定通りナベル語の試験を開始しま〜す。」
「はぁ〜い」
ペガス星では、「試験」なるものが存在するらしい。
どうやら、どこの生命のある星でも、その生命の生態系の安寧を保つために、優れた個体を厳選する方式があり、試験制度はその中でも比較的平等であることから、試験が行われるらしい。
子どもたちは机に座り、鉛筆らしきものを握って真剣に問題と向き合っているようだ。
「みんな全力で試験を受けていることだし、俺らはここらへんで撤収するか。」
俺はうなずき、教室を後にした。
教室を出るとき、気のせいかどうかわからないが、試験監督の教師の頬に涙がつたっていた…
次にやってきたのは、少し高級そうな料理店である。
「おめぇさんの口に合うかわからんが、紹介はしたいと思ってな。」
どうやらレタナは俺におすすめをごちそうしてくれるらしい。
店員さんとレタナはコミュニケーションを取り、しばらくして料理がやってきた。
ううーん、見た目からして、あまり美味しそうとは思わない。魚のような獣肉のような、、なんとも形容し難い見た目であり、色合いも暗い。
「こちらは、グスターブ・ギリーバーのチェコンダ焼きとなります。コルドッポ・ドリンチョ・デルティスイダソースをかけてお召し上がりください。」
所々何言ってんのかわからない。
こ、これをもって食べるのか、これは…スプーンか??
結局スプーンで救って食べる方が一番効率の良いのだろうか。まあいいや。
俺は腰から隠しながらそっと、食物判定メーターを取り出し、食べ物に当てた。
「原材料名、炭素、水素、酸素…」
…
「…人体に影響はございません」
ほっ。一安心したところで、口に頬張ってみた。
もぐ…もぐ…
…ん?意外と美味しい。
シャキシャキとした食感に、スパイスが効いていて、口の中に芳醇な香りが広がる。焼き鳥屋の前菜のキャベツみたいなやみつきな味だ。
思わず箸…ではなくスプーンが進んだ。
今回は特別にレタナの支払いで免除されたが、普通は貨幣で支払うらしい。わざわざ物の価値で食べ物を流通させるのは段取りが悪いようで、結局貨幣が効率いいとのことであった。
満腹で店を出た。恒星の光は、昼間のせいか、いつにも増して爛々と輝いていた。
俺がご機嫌で口笛を吹きながら歩いていて、宇宙船のあたりまで戻ってきたことに気づいたとき、近くで祭りの儀式らしきものが行われているのを発見した。
皆、涙ぐんでいる。
悲壮的な音楽も流れていた。
みんな、「ヒト」のような形をした偶像の前にひざまずいて深く頭を垂れていて、俺はそれ見ているうちに嫌悪感を感じてきた。
なぜ皆そんな狂ったように偶像を拝んでいるんだ?
俺は偶像からみて一番近くの老人にたずねた。
「あのー、これは一体何をしているのでしょうか。」
「神の前での懺悔だよ。
…実は、私達の命はもう長くない。
空のあれをみてごらん。
空の中心の、あの膨張している大新星の爆発によって、アンドロメダ銀河が終焉を迎えてしまうんだ。」
「な、なんだって…!?」
俺は息を飲んだ。とそのとき、
「私は子どもたちがこの事実を隠しておこうと、今日も平然と授業と試験を行なった。でも、あの希望の小さな命までもあの新星が飲み込んでしまうと思うと、死んでも死にきれないわ…ううっ」
と、先程の教室の先生がいつの間にかここにいて、ハンカチ片手に声を裏返しながら泣いていた。
「…おい、レタナ!お前はこのことを知っていたのか!?知っていてすました顔をして俺に道案内をしてくれていたのか…!?」
「…知っていた。最近の暑さの原因も大新星から来ているということも聞いた。ただ、俺はそれらのことがどうしても信じれなくてな。本当は俺は親戚とか、友達とか、色々なところに訪問してお互いに別れの挨拶をし合うべきなんだろうが…現実から目をそらしたくてな。それで、空元気でおめぇさんを案内してた…ってわけだ。」
「そ、そんな…」
そこに老人が割って話し始めた。
「もともとはその隣の恒星が私達を照らしていたのだが、あの新星がここ最近で現れ、急に膨張してきたのだ。やがてこの星もその爆発に飲み込まれるだろう。これは神様の定めなのだ、生きる者は必ず無に帰する…」
「…」
その場でひざまづいている老人、むせび泣く先生、視線が下のままのレタナ、頭をあげようとしない者達をみて、俺は目を釣り上げて思った。
…ばかばかしい。
わざわざ250万光年先の世界に来ても、まさかまだ宗教があるとは。
人間はそういう実体のない信条をもつからこそ、食い違いが起こり、空虚な争いが絶えない。
第一、なんだよ、このすべてを諦めたしんみりした雰囲気は。
毎回、落ち込んだ時とか、もう疲れたと思った時とか、しんみりと消極的に休むこととかしてきたけど、
まっっっっっっったくいい事なかった。相変わらず他人との競争には置いてけぼりくらうし、傷が癒えるわけでもない。
そこで気づくんだよ。
こんな未解決の困難にあった時、どうする?
ロザリオを握りしめてただひざまづく?
乗り越えるしかねえんだよ。
自分で。
俺は色々と策を凝らした。
近くの水の惑星を、宇宙船から出す電磁波で動かして大量の水を大新星にかけるのはどうか?
いや、相手は恒星だ。まさに「焼け石に水」だろう。
この星からありったけの軍事兵器をかき集めて、大新星に向かって攻撃するのはどうか?
いや、そもそもこの星には兵器というのはほとんど存在しない、第一、異邦人である俺を攻撃しなかったことから、いかに武力を行使しないかが分かる。
くそっ、どうすれば…!!
…ハッ!!!
その瞬間、またあの光線銃を作るときのアイデアのように、俺の脳内に電撃が走った。
これを防ぐためには、
…人工空間に大新星を入れるしかない。
その空間内に入れれば、爆発もその空間内で済み、俺はそこから脱出すれば、だれも犠牲を伴わずに大新星の爆発の被害を無くせる。
俺はいきなり、皆の前で声を出した。
「お、俺、やってみます!!この大新星の爆発の被害を…無くしてみせます!!」
「!?!?」
あたりは騒然とした。
「俺はここまで、自分が作り出した空間内を移動することでたどり着きました!その空間内に大新星を入れて、俺はその後に空間から脱出すれば、被害を防げます!!では、行ってきます!」
そういって、俺は宇宙船に戻り、宇宙服を来た。
すると、いろいろな声が俺の耳に入ってきた。
「む、無理はよしなさい!」
「あ、相手は銀河系も破壊するような大新星だぞ!」
「そうよ、アンドロメダ銀河は滅ぶ運命なんだよきっと…」
「うるさい!やってみなきゃわかんないだろ!やってもねぇくせに諦めんじゃねぇ!俺はやるぞ!」
俺は頭に血が登ったまま、宇宙船を出発させた。
「出発、進行!!」
ジェットエンジンがうなり、俺は宇宙船からエンジンの炎をほとばしらせながら、地上から離陸した。
離陸時の風圧から、とっさに腕で顔を覆ったレタナは、ふっとつぶやいた。
「俺は、、、信じてるぞ。ケンタ。」
宇宙船はゴゴゴと振動しながら、大新星の方へ直進していく。
宇宙船だけではなく、俺の心の振動も激しくなって行った。
落ち着け、、落ち着け自分!自分に賭けるんだ!!!
光線銃を、ロケットの窓から発射し、大新星を包み込むような人工空間の結界を作った。
恒星を包み込むために、光線銃の先を宇宙船の窓から出し、内側(大新星側)から光線を発射した。
ドクンと放たれたその紫色のプラズマを帯びる結界は、恒星の近くに停滞した。
「よぅし、この調子ッ…!」
大新星の周りを、蛇がとぐろを巻くように結界が包み込むよう、俺は宇宙船を螺旋の如く動かした。
光線銃から電撃が激しいノイズを出しながらほとばしり、機内ではたちまち轟音が鳴り響いた。
恒星の熱がひしひしと伝わってきて、熱くてたまらない…宇宙船も、熱暴走寸前だ。
もう少しで宇宙船が大破してしまうところで、人工空間の結界が大新星を覆い尽くした。
や、やった、やったぞ!!!!!!!!!
これで、アンドロメダ銀河の安寧は保たれたんだ、もう、ナベル族の皆の涙を見ないで良いんだ!!
俺は目頭が熱くなって、涙があふれるのを止められなかった。
な、何泣いてんだ俺…!俺が泣いてしまってどうするんだ…!
よし、泣いている暇じゃない。こんなところから早く脱出し…
…!?
出口が…ない!!
わかった、太陽を包み込むように結界を作って、普段はできる入り口ができないように結界を作ってしまったから、入り口が数分間後に閉まろうとするのに入り口がため、代わりに出口が塞がってしまったのだった。
人工空間内は、二重の空間が作れないため、空間を塞ぐことしかできない。
俺はこれまでにない焦燥感に駆られた。
え、ということは俺、もうじき死ぬってこと!?
アンドロメダ銀河の尊い犠牲になるってこと!?!?
とんでもない!!!
まだ高校生という、人生の序盤なのに死んでしまったら終わりではないか。
いやだ、死にたくない。死にたくない。死にたくないッッッ!!!!!!!!
…いや、でも、たとえどんな運命を辿っても、結局は果てしなく広い宇宙の塵に帰するんだ…
これでいい…
俺はこうして、もうじき爆発する大新星と二人きりの空間で、目を閉じーーー
と、その時にいきなり空間が開いて、違う「ヒト」が入ってきた。その「ヒト」は俺を見るや否や、びっくりして立ちまち止まった。その「ヒト」は少し唖然とした顔を続けていたが、首を横に振って、声を張り上げた。
「おーい!そんなところで何をしているんだ」
そ、そんなバカな。あの複雑構造の人工空間のアクセス口を、もう一人開拓した人間がいたのか!?
しかも俺と同じ語族でッ…!!
「こっ、ここは危ないぞ!もう少しで爆発するんだぞ!!」
「ならこっちにきてください!ここからならまだ出られます!」
その者は急いで、その者が行こうとしていた遠方の出口に光線を当てて塞ぎ、叫んだ。
「早くこっちに来て下さい!3分で塞がれてしまうんです!」
俺は必死の思いで、その者のところまで宇宙船を走らせ、宇宙船を蹴りあげ、その者のところまで飛びついた。
「この手に捕まって!!!」
「はいッッ!!!!!!!」
俺がそう叫んでその者の手を掴んだ瞬間、その者は俺を、勢いよく人工空間外へ引き上げた。俺が足先まで外界に出た瞬間、その入り口はフッと閉じた。
あぁ、危なかった…。
周りを見渡したら、普通の家の一部屋である。どうやら、境遇は自分と同じらしい。
「ここは…地球…!?」
「もちろんそうですとも。じゃないと僕達同じ日本語でしゃべってないですよ。」
「ほ、ほんとうにありがとう!!!!」
「いえいえ、困った時はお互い様じゃないですか。どうです、ちょっとここで休んでいきませんか。」
少し休んで息を整えた後、俺たちはあぐらをかき、今までの経緯を話し始めた。
「…それでこんな窮屈な毎日は嫌だと思って、いっそのこと違う銀河系の星へ行こうとしたんです。」
「俺だってさ。大体こんなちっぽけな地球の表面で人生終わるのまっぴらだよな。…しかしごめんな、邪魔してしまって。まさか重力の捻じ曲げ方が同じ系統の人工空間を作ったあなたみたいな「ヒト」がいたとは…せっかくの初移動なのに、俺が爆発寸前の恒星入れちまったもんだから、今の俺らの系統の人工空間はもうおジャンだ、すまない…。」
「また別の系統の空間を作ればいいだけじゃないですか。可能性はいくらでもありますよ。僕らが生きている限り、あの空の銀河のように。」
そう聞くと俺はふと立ち上がり、その家のベランダに出て、すっかり暗くなった夜空を見上げた。
アンドロメダ銀河は、いつもと変わらず、螺旋状に渦巻きながら輝いていた。
Fin.
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